榛名はるな)” の例文
傘をさして散歩に出ると、到るところの桑畑は青い波のように雨に烟っている。妙義みょうぎの山も西に見えない、赤城あかぎ榛名はるなも東北にくもっている。
磯部の若葉 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
上州の妙義みょうぎ榛名はるなでも猟師・木樵の徒、山中でこの物を見るときは畏れてこれを避けたと、『越人関弓録えつじんかんきゅうろく』という書には説いてある。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
その最も力のある団体が、榛名はるな、赤城、秩父ちちぶ、甲府にわたる無人の地を所さだめずにんで移る山岳切支丹族さんがくきりしたんぞくの仲間の者であるのです。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そのはずさ。今日は榛名はるなから相馬そうまたけに上って、それからふただけに上って、屏風岩びょうぶいわの下まで来ると迎えの者に会ったんだ」
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
諸君の知っている通り、戦艦『金剛こんごう』や『榛名はるな』の装甲は八吋(二〇・三糎)だから、『最上』の方が強いわけである。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
摩耶まや霧島きりしま榛名はるな比叡ひえい竜城りゅうじょう鳳翔おうしょうの両航空母艦をしたがえ、これまた全速力で押し出し、その両側には、帝国海軍の奇襲隊の花形である潜水艦隊が十隻
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼にはまた、久しぶりで山地に近い温泉場まで行き、榛名はるな妙義みょうぎの山岳を汽車の窓から望み、山気に包まれた高原や深い谿谷けいこくに接するという楽みがあった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
負けず劣らず酷いのが、伊香保いかほを中心として榛名はるなをめぐって、前橋、高崎あたりを襲うやつ。この辺のは、ガラガラゴロゴロなぞという生易なまやさしい音ではない。
雷嫌いの話 (新字新仮名) / 橘外男(著)
群馬県に入りますと、赤城あかぎ榛名はるな妙義みょうぎの三山が目にうつります。ふもとに高崎や前橋の如き大きな町はありますが、その山間で一番興味のある古い町は沼田ぬまたでありましょう。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
雪に光る日光の連山、羊の毛のように白くなびく浅間ヶ嶽のけむり赤城あかぎは近く、榛名はるなは遠く、足利あしかが付近の連山の複雑したひだには夕日が絵のように美しく光線をみなぎらした。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
渋川から、伊香保いかほ街道に添うて、道もない裏山を、榛名はるなにかかった。一日、一晩で、やっと榛名を越えた。が、榛名を越えてしまうと、ぐ其処に大戸おおどの御番所があった。
入れ札 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
西から西北へかけて榛名はるな、妙義、浅間、矢筈(浅間隠)四阿の諸山は鮮かであるが、四阿山から右は嵐もようの雲が立ち騒いで、近い武尊山も前武尊の外は、頂上が隠れている。
皇海山紀行 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
左手に赤城あかぎ榛名はるなの山を眺め、あれが赤城の地蔵岳だの、やれあれが伊香保いかほの何々山だのと語りながら馬を進ませたが、次第に路が嶮岨けんそになって、馬がつまずいたり止まったりすると
妙義も、榛名はるなも、秩父を除いては見ることも答えることもできないほど微かに、信濃なる浅間の山に立つ煙がのぼるのを眺めた時に、心ある人は碓氷峠うすいとうげの風車を思い出して泣きます。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「霜月に入ると寒気が厳しくなります。榛名はるな、赤城と真向から吹颪ふきおろすのが、俗に上州風と申して凛烈りんれつなものでござります。拙者どもは馴れておりますが先生には御迷惑でござりましょう」
夜明けの辻 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
一人でそうきめたうらには、安中だの松井田だの、円朝の『榛名はるなの梅が香』に出て来るそのあたりの、寂しい火の消えたような光景の自らわたしにさしぐまれるもののあったことは勿論もちろんだ……
春深く (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
十二月二十九日に榛名はるな丸に門司もじで乗船して帰国の途にかれたのでしたが、それらの間に夫人とともに諸所の風光に接し、また東洋の芸術を見て驚異の感に打たれられたようでもありました。
里人の往来、小車おぐるまのつづくの、田草を採る村の娘、ひえく男、つりをする老翁、犬を打つわらべ、左に流れる刀根川の水、前にそびえる筑波山つくばやま、北に盆石のごとく見える妙義山、隣に重なッて見える榛名はるな
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
「僕は君と榛名はるなへでも登つて、死ぬ事を空想してたンだがね……」
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
曾遊そうゆう榛名はるな赤城あかぎの山々は、夕の空に褪赭たいしゃ色ににじんでいた。
雪の武石峠 (新字新仮名) / 別所梅之助(著)
かつて余が上州榛名はるな山に登ったとき、榛名神社を参拝した。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
いたゞきの裏行く低き冬の雲榛名はるなうみは山のうへのうみ
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
上野かうづけ榛名はるな山上榛名湖にて。
妙義みょうぎの山も西に見えない。赤城あかぎ榛名はるなも東北に陰っている。蓑笠みのかさの人が桑をになって忙がしそうに通る、馬が桑を重そうに積んでゆく。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
後閑ごかんの間道から風戸峠へと、やがて、悍馬かんばは死にもの狂いでのぼってゆく。——一面の鏡のように、やがて遙かに榛名はるなうみが見えてくると
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は、草津へ行った連中とは、反対に榛名はるなの西南のふもとを目ざして、ぐんぐん山を降りかけた。
入れ札 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
途次みちみち技手は私を顧みて、ある小説の中に、榛名はるなの朝の飛雲の赤色なるを記したところが有ったと記憶するが、飛雲は低い処を行くのだから、赤くなるということは奈何いかがなどと話した。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
戦艦『長門ながと』『陸奥むつ』『日向ひゅうが』『伊勢いせ』『山城やましろ』『扶桑ふそう』『榛名はるな』『金剛こんごう』『霧島きりしま』。『比叡ひえい』も水雷戦隊にかこまれているぞ。『山城』『扶桑』は大改造したので、すっかり形が変っている。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
羽生の寺の本堂の裏から見た秩父ちちぶ連山や、浅間嶽の噴煙ふんえん赤城あかぎ榛名はるな翠色すいしょくにはまったく遠ざかって、利根川の土手の上から見える日光を盟主めいしゅとした両毛りょうもうの連山に夕日の当たるさまを見て暮らした。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
妙義、浅間、榛名はるなの三山のふところに囲まれているようなこの城の地の理には、武田勢も手をやいてしまったらしい。
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
峰から峰へ渡る幾百羽と云う小鳥の群が、きいろい翼をひらめかしながら、九郎助の頭の上を、ほがらかに鳴きながら通っている。行手には榛名はるなが、空をくぎって蒼々とそびえていた。
入れ札 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
伊豆の海の暖潮を抱いている山かげや、侍小路の土塀のうえには、柑橘かんきつの実が真っ黄いろにれていて、やはりここは赤城や榛名はるなの吹きおろしにさらされている上州平野よりは
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)