晴着はれぎ)” の例文
二度とは着ないと思われる——そして実際着なかった——晴着はれぎを着て座を立った母上は内外の母親の眼の前でさめざめと泣き崩れた。
小さき者へ (新字新仮名) / 有島武郎(著)
三が日の晴着はれぎすそ踏み開きてせ来たりし小間使いが、「御用?」と手をつかえて、「なんをうろうろしとっか、はよ玄関に行きなさい」
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
晴着はれぎを着た、女中のやうななりをした、お内儀かみさん風の、まだ若くて大層縹緻きりやうのよい、髮と眼の黒い、活々いき/\とした顏色の女だ。
あの、筆をもてば、倏忽たちどころに想をのせて走るとうとい指さきは、一寸の針をつまんで他家の新春の晴着はれぎを裁縫するのであった。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
村で一番の金持らしい大きなうちの庭に、幕を張りまはして、祭壇をこさへて、そして村人たちはみな晴着はれぎをきて、忙しさうにつたり来たりしてゐます。
エミリアンの旅 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
そのなかでもとりわけ立派りつぱ總縫模樣そうぬいもやう晴着はれぎがちらと、へいすきから、貧乏びんぼう隣家となりのうらにしてある洗晒あらひざらしの、ところどころあてつぎ などもある單衣ひとへものをみて
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
尤も一枚こっきりのいわゆる常上着じょうじょうぎ晴着はれぎなしであったろうが、くリュウとした服装なりで、看板法被かんばんはっぴ篆書崩てんしょくずしの齊の字の付いたおかかえ然たるくるま乗廻のりまわ
斎藤緑雨 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
アイピング村では、朝はやくから村じゅうの年よりも若いものも晴着はれぎかざって、うきうきしていた。
ヂュリ あい、その晴着はれぎいっい。それはさうと、乳母うばや、今宵こよひわしをどうぞ一人ひとりかしてくりゃ。
私が夕飯ゆうめしに呼び出されたのは、それから三十分ばかりったあとの事でしたが、まだ奥さんとお嬢さんの晴着はれぎが脱ぎてられたまま、次の室を乱雑にいろどっていました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おまえが今見たのは日曜日の晴着はれぎを着た金持の菓子屋のおかみさんが、薔薇ばら香水か何かをこしらえるために使ったあきびんを窓の張り出しに置いただけのことだとささやき始めた。
髪の毛はぺしゃんこになり、日曜の晴着はれぎからしずくがたれている。そこで、びしょれの彼は、着物を着替えさせてくれるか、日に当たってかわくか、そのどっちかを待っているのである。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
そのままいれば、婦人の晴着はれぎは、三輪車のため、ざぶり泥水をかけられ、めちゃくちゃになってしまう。房枝は、自分の身を忘れ、大ごえをあげて、危険せまる婦人の方へかけていった。
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そこには、おおぜい、晴着はれぎを着かざった人がいました、でも、そのなかで目立ってひとりうつくしいのは、大きな黒目をしたわかい王子でした。王子はまだ満十六歳より上にはなっていません。
母親が子どもたちに祭の晴着はれぎをきせている。
病む子の祭 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
晴着はれぎ場所ばしよへはかない。これはかれさげすみ、かれはこれをいきどほる。こんなことが、一たいあつてよいものか
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
鴨川かもがわの水は、来春の晴着はれぎを、種々いろいろと、いろいろの人のを染めるなかに、この新郎新婦の結婚着も染められたのだ。年の瀬と共に川の水はそんなことも流してもいたのだ。
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
あゝ、がもどかしい、まつりまへばんをいらつ子供こどものやうに、こしらへてもらうた晴着はれぎはあっても、ることがらぬので。……おゝ、あれ、乳母うばが。きっと消息しらせぢゃ。
どうも喧嘩けんくわわからない。晴着はれぎ晴着はれぎでよいではないか。また、單衣ひとへもの單衣ひとへものでよいではないか。晴着はれぎ晴着はれぎ單衣ひとへもの單衣ひとへもの晴着はれぎがいくら立派りつぱでも單衣ひとへものやくにはたない。單衣ひとへものもそうだ。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
こんな女に相談をかけるとはと、秋田氏をさえうらめしく思った。死んだ女は詩のない人であったが、その最後は美しく化粧けわいしてったというではないか、私は彼女に、第一の晴着はれぎが着せたかった。
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)