)” の例文
日はすっかりれてしまい、金杉川に面したその片側町は、涼みに出た人たちでにぎわっていたが、誰もその男に注意する者はなかった。
あすなろう (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
が、帰りみち、途中で日がとっぷりとれ、五条野ごじょうのあたりで道に迷ったりして、やっと月あかりのなかを岡寺の駅にたどりつきました……
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
霧の深いあるれ方、赤ん坊を抱いた百姓のおかみさんが、汚れた野良着のままで自動車に乗って駈けつけて来た。赤ん坊を便所へおとしたんだという。
浅間山麓 (新字新仮名) / 若杉鳥子(著)
梅花を渡るうすら冷たい夕風に色褪いろあせた丹頂の毛をそよがせ蒼冥そうめいとしてれる前面の山々を淋しげに見上げて居る。
鶴は病みき (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
母は驚き、途方にれたる折しも、かどくるまとどまりて、格子のベルの鳴るは夫の帰来かへりか、次手ついで悪しと胸をとどろかして、直道の肩を揺りうごかしつつ、声を潜めて口早に
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
湖釣うみづり——暁かられまで、山の湖に糸を垂れてゐる老人がゐる。つひぞ、釣りあげるのをみることがない。
独楽 (新字旧仮名) / 高祖保(著)
「もうちょっと、ほんのこれだけ縫うたらしまいのんやよって……ほんに陽のめがろうなった……」
作画について (新字新仮名) / 上村松園(著)
日がれかけると男はさらりとした着換えをすましたころ、勝手で茶碗や皿類を洗っていた女の手がびりびりと震えたかと思うと、その手がきゅうに止ってしまったとき
香爐を盗む (新字新仮名) / 室生犀星(著)
都の姫の事は、子古の口から聴いて知ったし、又、京・難波の間を往来する頻繁な公私の使いに、文をことづてる事は易かったけれども、どう処置してよいか、途方にれた。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
にじむようにれだした宵やみのなかに酔漢はふらつき、数歩のうちにばったり倒れた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
地も空も蒼然そうぜんれ、時々坊岬灯台の光の束が、空をいで走る。石段も暗く、手をつなぎ合って、そろそろと降りた。しめった掌を離すと、女は道を降り、ダチュラの花を四つ五つんで来た。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
西方寺の花見は味気ない散会をつげてれた。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
身のまわりの物をまとめた荷を下僕しもべに負わせて、花蔵院というところにある水野外記の別墅べっしょへ着いたのはその日のれがただった。
晩秋 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
が、その古墳の前まで辿たどりついたときにはもう日がとっぷりとれて、石廓せっかくのなかはほとんど何も見えない位でした。
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
里のお婆さんの方もまた、預けた家へかえしはしたが、心配と逢いたさに、れ方はきっと、向こうの家の土蔵の陰から顔だけ出して、私の方へ手招ぎをするのだった。
雨の回想 (新字新仮名) / 若杉鳥子(著)
妻の喜はあふるるばかりなるに引易ひきかへて、遊佐は青息あをいききて思案にれたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
晩秋のれがた、薪小屋へ薪を運んでいた国吉は、庭の向うに人がいるのを見たように思い、なんということもなく眼をそばめた。
榎物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
日はれていった。しかし、私達はどちらもあかりをけに立とうとはしないで、そのまま暖炉に向っていた。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
もう日がれかけていたし、自動車もあるにはあったが、目的地まで半里だというので、ナニ歩けないことはない——脚には少し自信があるので、私は日和下駄のまま歩き出した。
独り旅 (新字新仮名) / 若杉鳥子(著)
涙にれてそのことばは能くも聞えず、階子下はしごしたの物音は膳運ぜんはこづるなるべし。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
それから矢来下を出て、島田の家へいったのがようやくひるごろらしい。その近所から飲みはじめて、れ方には柳橋の舟宿にいた。
おれの女房 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
日はれていった。しかし、私達はどちらもあかりをけに立とうとはしないで、そのまま暖炉に向っていた。
楡の家 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
ほの暗いうちに出てれてから帰る。往来ゆききとも黒谷の谿流けいりゅうに沿った杣道そまみちをとるので、まだ途中で人にであったこともないと云った。
泥棒と若殿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
梢はまだれずにいた。そして大きなかばの木の、枯れ枝と枯れ枝とがさし交しながら薄明るい空に生じさせている細かい網目が、不意とまた何か忘れていた昔の日の事を思い出させそうにした。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
それからいっしょに仕事にでかけるが、日がれるとまたあらわれて、藤吉が寝ようと云うまで帰らない、というぐあいであった。
こうして事務もひと片つき、ほっとして下城した日のれ方、庭へ下りて愛玩の盆栽の手入れをしていると直二郎がやって来た。
明暗嫁問答 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その日はれるまで、自分の部屋をととのえるのにかかった。おとうさまに御挨拶したほかは誰とも会わず、食事もしなかった。
やぶからし (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
栄三郎は教えられた遊女町へは入らず、れかかる街をあてどもなく歩いたうえ、かなり大きな構えの料理茶屋の前で立停った。
扇野 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
六月十四日といえば真夏であるのに、日がれると気温がさがって、火のない隼人の部屋は、かなり寒さが強く感じられるようであった。
ちくしょう谷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
……毎日かよい続けて七日めかのれ方のことだ、いつものように山形屋のまわりを歩いていると、寺町のほうから来る庄吉に出会った。
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
九月中旬の風の強い日で、五カ所を回診したあとだから、もう日はれかかってい、路地の中は煮炊きの煙でいっぱいだった。
赤ひげ診療譚:06 鶯ばか (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
風はないが、十二月下旬のれがたで、寒さはきびしかった。彼は半揷の水でなく、釣瓶つるべで汲んで、ざっざっと肩から浴びた。
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その日も孝也がでかけたので、日がれてから二人は会った。屋敷の北の隅に「茂庭明神」といって氏の神をまつったほこらがある。
月の松山 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
れがたになって、野中又五郎と、その妻子が来た。このまえ訪ねて来たときは、新八は声だけ聞いたので、会うのはそれが初めてだった。
……かくてその日のれがたには外廓がいかくの諸塁がことごとく陥落し、まったくはだか城となった高天神をとり囲んで武田軍は包囲の陣をいた。
石ころ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
下城したときはもうすっかりれていた。かなり強い北風で、道から砂埃すなぼこりが舞いあがり、内濠うちぼりの水は波立って、頻りに石垣を打つ音が聞えた。
はたし状 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
甲斐が起こされたとき、もう日はれて、部屋には灯がはいっていた。彼は知らぬまに眠った。その眠りが彼の気力を恢復かいふくさせたようである。
いつか御殿の広縁でれがたの月を観ていた。七日か八日くらいの欠けた月であったが、ふとまじめな顔をし、菊千代のほうを見あげて云った。
菊千代抄 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
父上のご運がひらけて、どうやら不自由のない明けれを迎えるようになってから、父上とわたしはおまえをひきとる相談ばかりしていました。
日本婦道記:糸車 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
提灯ちょうちんを持ってゆくか」と長次が与平に振向いた、「今日は早くれるらしいから、読むのにあかりが要ると思うんだが」
もう日がれるころかと思ったが、戸外はまだ傾いた陽が明るくさしていたし、町筋も往来する人や駕籠でにぎわっていた。
金杉の家へ着いたときは、もう日がれていた。そして、差配の家へ寄ると「お豊が来て荷物を持っていった」と告げた。
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
……垂井でちょっと休んだだけでそのまま道を続けた、不破の関趾のあたりでれかかったが、宿をとるようすがないので供の弥九郎が注意した。
山だち問答 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
おみやの兄の六郎兵衛は、日がれてから帰って来た。年は二十七だというが、新八の眼には三十四五くらいにみえた。
半次は三日に一度ずつ、深川の井伊邸へゆく、午前十時ごろにでかけて、大抵は日のれるまえに帰る。おそくとも七時を過ぎることはなかった。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
母の実家である渡井わたらいと、安田家とに通知をすることはしたが、弔問は許されず、通夜をした翌日のれがたには、葬式を出さなければならなかった。
十八条乙 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
日がれてまもなく、二階の座敷があいたと知らせて来たが、もう酔って面倒なので、おさとが移ろうとすすめるのを、そのまま飲み続けていると
扇野 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
三の丸下の生家を出たのはれがたのことだった。安倍の家は寺通りといわれる武家屋敷のはずれにあり、乗物が着いたときはもう灯がともっていた。
日本婦道記:藪の蔭 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ながいあいだ留守だった父が帰ったので、家の明けれも変らずにはいなかったが、そのなかでもお石の存在のはっきりし始めたことが眼だってきた。
日本婦道記:墨丸 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
……接待が済んで、いちど店へ寄り、小田原町へ帰る頃にはすっかりれて、家にはあかあかと灯がはいっていた。
寒橋 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)