旅客りよかく)” の例文
巴里パリイ倫敦ロンドンを経て来た旅客りよかくに取つて狭いの郡市の見物は地図一枚を便りにするだけで案内者を頼む必要も無くさながふくろの中を探る様に自在である。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
初め立戻り皆々はたへ集まりぬ此時左京は大膳に向ひ貴殿の御異見ごいけんしたがはず我意がいつのりて參りしか此雪で往來には半人はんにん旅客りよかくもなし夫ゆゑ諸方しよはう駈廻かけまはり漸く一人の旅人たびびと
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
丸岡まるをか建場たてばくるまやすんだとき立合たちあはせた上下じやうげ旅客りよかく口々くち/″\から、もうおよねさんの風説うはさきました。
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
この様を場内の旅客りよかくが珍らしさうに立つて見て居る中に、桃割もヽわれに結つて花車きやしやななよ/\とした身体からだれの二十四五の質素しそな風をした束髪の女の身体からだにもたれるやうにして
御門主 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
他国たこく旅人たびゝとなどはおそる/\移歩あしをはこびかへつておつものあり、おつれば雪中にうづむ。る人はこれをわらひ、おちたるものはこれをいかる。かゝる難所なんじよを作りて他国の旅客りよかくわづらはしむる事もとめたる所為しわざにあらず。
どの寺もその外観の荒廃し掛けて黒くすゝびて居るのを仰いで過ぎる方が通りすがりの旅客りよかくの心におもむきが深い様に思はれた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
おもふうちに、ちや外套ぐわいたうたまゝ、ごろりと仰向あふむけにつた旅客りよかくがあつた。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
旅客りよかくは怪しむ様に目をこの三十女さんじうをんなに寄せた。
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
市街にむかつて右のタンジヨン・カトンの岬に伸びた一帯の大椰子林だいやしりんは新来の旅客りよかくの目をづ驚かすものである。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
改札口かいさつぐちには、あめ灰色はひいろしたうすぼやけた旅客りよかくかたちが、もや/\と押重おしかさなつたかとおもふと、宿引やどひき提灯ちやうちんくろつて、停車場前ステーシヨンまへ広場ひろばみだれて、すぢながなかへ、しよぼ/\とみなえてく。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ゆきなん——荷擔夫にかつぎふ郵便配達いうびんはいたつひとたち、むかし數多あまた旅客りよかくも——これからさしかゝつてえようとする峠路たうげみちで、屡々しば/\いのちおとしたのでありますから、いづれれいまつつたのであらう、と大空おほぞらくも
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)