斯様こんな)” の例文
旧字:斯樣
「まア、長二、お前ほんとに吃驚びつくりさせて、斯様こんな嬉しいことは無い」と、山の馳走ちそうは此れ一つのみなるほだうづたかきまで運び来れる伯母は
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
旅人は斯様こんな山中にどうして斯様こんな女がいるかと怪しみながら傍へ行こうとすると蔦葛つたかずらや、いばらに衣のからまって、容易に行くことが出来ず
森の妖姫 (新字新仮名) / 小川未明(著)
いずれ議会の開期中だから、左様遠くもあるめエ、然しネ、オイ、斯様こんな一目瞭然の事実を山の鬼共はどう糊塗ごまかす積かナア、一寸思案が付かねエがナア
監獄部屋 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
梅「ちょっと/\又市さん、私は斯様こんなに暗いところではないと思ったが、斯様に暗くなっては提灯ちょうちんがなくっては歩けないよ」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
楽しい過去の追憶おもひでは今の悲傷かなしみを二重にして感じさせる。『あゝ、あゝ、奈何どうして俺は斯様こんな猜疑深うたがひぶかくなつたらう。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
斯様こんなにうまい水瓜をはじめて食べました」とS女に悦びをのべたのでした。こんな時にこそ都会住者も自然のふところのうれし味をしみ/″\思い知ります。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
……それ源ちゃんは斯様こんなだし、今も彼の裁縫しごとしながら色々いろんなことを思うと悲しくなって泣きたくなって来たから、口のうちで唱歌を歌ってまぎらしたところなの。
二少女 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
これ一言いちげんすれば——西洋日進の書を読むことは日本国中の人に出来ない事だ、自分達の仲間にかぎっ斯様こんな事が出来る、貧乏をしても難渋をしても、粗衣粗食、一見かげもない貧書生でありながら
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
都会の中心に生活している人と、斯様こんな寂しい、わびしい生活をつゞけている人と、どちらが幸福であるかということは容易に裁断しがたい。
渋温泉の秋 (新字新仮名) / 小川未明(著)
どんな事しても人民の方には判るまい——斯様こんな浅墓あさはかな考を以て、当年も増税、明年も増税、諸君は止まる所を何となさるのでござりまするか
政治の破産者・田中正造 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
いよ/\今夜は寝転ねこかしに極った、あゝ斯様こんなことなら器用に宵の口に帰った方がよかったものと、眼ばかりぱちくり/\いたして歎息たんそくいたしています。
全体ぜんたい誰に頼まれた訳でもなく、誰めてくれる訳でもなく、何を苦しんで斯様こんなことをするのか、と内々愚痴ぐちをこぼしつゝ、必要に迫られては渋面じゅうめん作って朝々通う。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
『おや/\、銅貨を沢山呉れるねえ。』と銀之助は笑つて、『斯様こんなにあつては持上がりさうも無いぞ。はゝゝゝゝ。時に、瀬川君、けふは御引越が出来ますね。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
また男はこの場合にこういうことを思い出したであろう。——家の者は今頃自分が斯様こんな山奥で悪者に命を取られるということなどは知るまい。
捕われ人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「ほツほ、何を長二、言ふだよ、斯様こんな老人としよりをお前、なぶるものぢや無いよ、其れよりも、まア、何様どんな婦人ひとだか、何故なぜ連れて来ては呉れないのだ」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
私はまア斯様こんなにお前さんの介抱を受けようとは思いませんかったが、不思議な縁で連に成ったのも矢張やっぱり笈摺を脊負しょったお蔭、全く観音様の御利益ごりやくだと思います
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
『偶然なことから斯様こんなに御懇意にするやうになつて、今では非常な御世話に成つて居ります。僕の著述のことでは、殊にこの市村君が心配して居て下さるんです。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
何故なぜ斯様こんなに彼は恐れ嫌がるのであろう? 田舎の人達は、子供に到るまで、あまり蛇を恐れぬ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
これが、舞子か……と私は、思っていたより淋しい処であり、斯様こんな処なら、越後の海岸に幾何いくらもありそうな気がした。
舞子より須磨へ (新字新仮名) / 小川未明(著)
ほだの煙は「自然の香」なり、篠田の心は陶然たうぜんとして酔へり、「私よりも、伯母さん、貴女あなたこそ斯様こんな深夜おそくまで夜業よなべなさいましては、お体にさはりますよ」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
あのね内証ないしょうでお母さんに逢って詫言をしたい、辛抱人に成ったてえが、本当に成ったかも知れないよ、内証でお母さんに逢いたいって坊に斯様こんなにお銭をくれたよ、お銭を
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
すると母は、『お前、昼眠をせんで起きているのか、頭に悪いから斯様こんな熱いのに外へは出られんから少し眠て起きれ。』といって、また其儘そのまま眠ってしまった。
感覚の回生 (新字新仮名) / 小川未明(著)
といううちに早や言葉がうるんで参ります。親子の情としてはもあるべきことでございましょう、我子が斯様こんな碌でもないことを致し、他人ひとを悩めると思いましたら堪りますまい。
或は時として、運動場などで斯様こんな風で泣かされて、悄然しょんぼりと教員室の前に来て立って、受持教師の出るのを待って、その一部始終を告げて、訴えることがある。
蝋人形 (新字新仮名) / 小川未明(著)
花車はスッと羽織と単物ひとえものを脱ぎましたが、角力取の喧嘩は大抵裸体はだかのもので、花車は衣服を脱ぐと下には取り廻しをしめている、ウーンと腹をあげると腹の大きさは斯様こんなになります
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
夫というのは懶惰者なまけものの、酒飲みで普通あたりまえの人間でない。けれど翁は斯様こんな者でも自分の傍において意とせなかった。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
私はお前さん故で斯様こんなに馴れない旅をして、峠を越したり、夜夜中よるよなか歩いて怖い思いをするのはお前さん故だよ、お前さんも元は榊原様の藩中で、水司又市と云う立派な侍では有りませんか
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
斯様こんな淋しい国に何時いつ迄居られよう。早く快活な国へ——もっと南の暖かな国へ行って住みたいものだ。」
不思議な鳥 (新字新仮名) / 小川未明(著)
またおこるのか、おいらが言ったことが気にさわったら堪忍しなせえ、何も悪気でいったことじゃアねえんだ、己らだッて斯様こんなわけになってるおめえを海上に渡して仕舞うのはいゝ心持じゃねえが
晩方ばんがたになると重くなると聞いていたから、それで周蔵も斯様こんなに苦しみ出したのだ、とは子供心ながらに思わぬでもなかったが、彼の様子は実際苦しそうであった。
黄色い晩 (新字新仮名) / 小川未明(著)
あんたはるお年でございますから、おとっさんおっかさんも死んでから、お祖父さんのお蔭で私は斯様こんなに大きくなりましたが、幾らお達者だって、最う六十の上六つも越して入らっしゃるから
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
私はただ、滅多めった斯様こんな景色は見られないと思った。……ただ、とぼとぼと母と二人で雪道を歩いていると、遠くの遠くで、ど、ど、ど——という物凄い音が聞える。
北の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
斯様こんな風に、この僧は、毎日、毎日、村を歩き廻った。十日も続いたかと思うと、何時しか何処いずこにか去って村へ来なくなった。村の人は何時からこの僧が来なくなったかを知る者がない。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
と、親切に言われるので、この時太郎も二郎も斯様こんな優しい母さんがあるのに、前の母さんを恋しく思うのはばちが当るように思われて、二人は昨夜の夢の話を母さんに言われませんでした。
迷い路 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それとも斯様こんなに罪なげに見えるがその実腹の怖しい婆であるのか分らなかった。
老婆 (新字新仮名) / 小川未明(著)
斯様こんな笛はいらぬから、どうか母が帰ってくればいいにと地踏韛じだんだ踏んだ。
越後の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
この町は荒海のほとりにある。石油がでるので斯様こんな辺鄙へんぴな処にも小さな町が出来たのだ。北の空の冴え冴えしいのは見落みおろす下には真青な海があるからのせいもある。北風の強いのも海が近いからである。
暗い空 (新字新仮名) / 小川未明(著)