挿画さしえ)” の例文
茶室の隣の三畳に反古張ほぐばりふすまが二枚立ててある。反古は俳文の紀行で、文字と挿画さしえとが相半あいなかばしている。巻首には香以散人の半身像がある。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
釈迦八相倭文庫しゃかはっそうやまとぶんこ挿画さしえのうち、摩耶夫人のおんありさまを、絵のまま羽二重と、友染と、あや、錦、また珊瑚さんごをさえちりばめて肉置の押絵にした。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
西洋から輸入して来たいろいろのり物、外字新聞の挿画さしえのようなものや、広告類の色摺りの石版画せきばんがとか、またはちょっとした鉛筆画のようなもの
今度フランスで造った世界一の巨船ノルマンディーに関する記事がたくさんの美しい挿画さしえや通俗的な図解で飾られてリリュストラシオンに載せられている。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
この物語の真実や、真味は、さういふことに一向かまはないで作者の意図に登り、そして読者に語られようとしてゐます。だが挿画さしえ画家さんにお気の毒ですね。
秋の夜がたり (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
余は寝ながらこの汚ない本を取り上げて、その中にある仙人の挿画さしえを一々丁寧ていねいに見た。そうしてこれら仙人のひげの模様だの、頭の恰好かっこうだのを互に比較して楽んだ。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
また最近に於て、外国の書物の挿画さしえとして見たり、また写真銅版等の複製によってのぞいてみたりした洋画に、驚異の念を持たせられたことも一再ではありません。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかるに不折君は人に頼まれたるほどの事ことごとくこれに応ずるのみならず、その期日さへ誤る事少ければ書肆しょしなどは甚だ君を重宝がりまたなきものに思ひて教科書の挿画さしえ
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
僕が子供のころに、この歌は、花宵先生の傑作として、少年雑誌に挿画さしえ入りで紹介せられたりなどして、大はやりのものであった。僕たちは、ひそかに越後の表情を注視した。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
どうかしてそれが、子供雑誌とか、婦人雑誌などの、甚だセンチメンタルな挿画さしえとなってしまう事も、おそれねばならないのであります、この種の挿画となってしまっては、も早や
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
蒼味の強い童話本の挿画さしえのようであったが、今朝の惨劇に時を同じくして起ったこの奇蹟には、なにか類似というよりも、底ひそかに通っている整数があるのではないかと思われた。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
私は北越雪譜ほくえつせっぷ挿画さしえの中にある盲人が窓から落て来ていた絵のことを話そうと思っていたが、その盲人のことを思いだしたので、気もちが重くるしくなってもうそれを話す気はなかった。
雪の夜の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そりゃ面白い挿画さしえが入ってるんだぜ。今度僕の所へ来たとき見せてやろうね。
美妙は特にその作「蝴蝶こちょう」のための挿画さしえを註文し、普通の画をだも評論雑誌に挿入そうにゅうするは異例であるのを、りに択ってその頃まだ看慣みなれない女の裸体画を註文して容易にれしめたのは
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
板刻はんこく錦絵にしきえ摺物すりもの、小説類の挿画さしえ、絵本、扇面せんめん短冊たんざく及びその他の図案等、各種にわたりてその数のおびただしきこと、ルイ・ゴンスの『日本美術』によれば少くとも三万種を越えたるべしといふ。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
仏蘭西フランスのこういう人が発明したもので、これは著しい放射性の元素であるということでも書いてあったなら、それを平易に説いて聞かせ、なお挿画さしえでもあれば見せて皆で楽しむようにしたい。
教育の目的 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
彼ははじめのうちは、挿画さしえだけにしか興味を持たなかったが、次第に中味にも親しむようになり、時には、恭一と二人で寝ころびながら、お互に自分の読んだものを話しあうようなことがあった。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
私がそれを見て、ああ、たようなとぞっとした時、そっと顔を上げて、莞爾にっこりしたのが、お向うのそのねえさんだ、百人一首の挿画さしえにそッくり。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
真逆様まっさかさまに四番目の男のそばはるかの下に落ちて行った話などが、幾何いくつとなく載せてあった間に、煉瓦の壁程急な山腹に蝙蝠こうもりの様に吸い付いた人間を二三カ所点綴てんてつした挿画さしえがあった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すなわち毎日草鞋わらじ弁当にて綾瀬あやせあたりへ油画の写生に出かけ、夜間は新聞の挿画さしえなど画く時間となり居たり。君が生活の状態はこの時以後ようやく固定してついに今日の繁栄を致しし者なり。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
浮世絵木板摺の技術は大津絵おおつえの板刻に始まり、菱川師宣ひしかわもろのぶの板画および書籍挿画さしえに因りて漸次に熟練し、鳥居派初期の役者絵いづるに及びて益〻ますます民間の需要に応じ江戸演劇と相並あいならびて進歩発達せるなり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
縦にペエジを二つに割って印刷して、挿画さしえがしてある。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
吃驚びっくりするように、思い出したのは、私が東京へ出ました当時「魔道伝書」と云う、変怪至極な本の挿画さしえにあった老婆の容体で、それに何となくそのままなんです。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかし挿画さしえよりも本文よりも余の注意をいたのは巻末にある附録であった。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
巡査の靴音が橋の上にんで、背後向うしろむきのその黒い影が、探偵小説の挿画さしえのように、保険会社の鉄造りの門の下に、寂しく描出えがきいだされた時、歎息とともに葛木はそう云った。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
で、背くぐみに両膝を抱いて、動悸どうきおさえ、つぶされた蜘蛛くものごとくビルジングの壁際にしゃがんだ処は、やすものの、探偵小説の挿画さしえに似て、われながら、浅ましく、なさけない。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
気忙きぜわしそうで口早な痩せた男の訪問があり、玄関で押問答の上、二階へ連れて上ったのは……挿画さしえ何枚かの居催促、大人に取っては、地位転換、面目一新という、某省の辞令をうけて
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その女用文章の中の挿画さしえ真物ほんものだか、真物が絵なんだか分らないくらいだった。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私は、当日、小作しょうさく挿画さしえのために、場所の実写をあつらえるのに同行して、麻布我善坊あざぶがぜんぼうから、狸穴まみあな辺——化けるのかと、すぐまたおなかまから苦情が出そうである。が、はばかりながらそうではない。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
じっとその大吉をみつめていると、次第次第に挿画さしえの殿上人にひげが生えて、たちまち尻尾のように足を投げ出したと思うと、横倒れに、小町の膝へもたれかかって、でれでれと溶けた顔が、河野英吉に
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)