ゆびさし)” の例文
鱗に、爪に、角に、一糸掛けない白身はくしんいだかれ包まれて、渡津海わたつみの広さを散歩しても、あえて世にはばかる事はない。誰の目にも触れない。人はゆびさしをせん。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一老夫いちらうふこゝに来り主人を拱手てをさげて礼をなし後園うらのかたへ行んとせしを、あるじよびとめらう夫をゆびさしていふやう、此叟父おやぢ壮年時わかきとき熊に助られたる人也、あやふいのちをたすかり今年八十二まですこやか長生ながいきするは可賀めでたき老人也
「また、これだそうさ、」といってくぼんだ顔の真中まんなかゆびさしをした、近眼鏡の輪を真直まっすぐに切って、指が一本。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼処かしことこなたと、言い知らぬ、春の景色の繋がる中へ、わらびのような親仁おやじの手、無骨ぶこつな指でゆびさしして
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こっちへゆびさしをしたように見えたけれども、朧気おぼろげでよくは分らないから、一番ひとつ、そのあかりさいわい
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
といって、濡手拭でゆびさしをしてくれた。蝶吉はその長屋の表通おもてどおりの口入宿に居たのであった。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
れほどとほくてもさとらるゝ、したちかみづおどつて、たきになつてつるのをたら、人家じんかちかづいたとこゝろやすんずるやうに、とをつけて孤家ひとつやえなくなつたあたりゆびさしをしてくれた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
(どうだ、お前ここにあるものを知ってるかい。)とお神さんは、その筵の上にあるものを、ゆびさしをして見せますので、私は恐々こわごわのぞきますと、何だかいやな匂のする、色々な雑物ぞうもつがございましたの。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
椽側えんがは白痴あはうたれ取合とりあはぬ徒然つれ/″\へられなくなつたものか、ぐた/\と膝行出いざりだして、婦人をんなそば便々べん/\たるはらつてたが、くづれたやうに胡座あぐらして、しきりわしぜんながめて、ゆびさしをした。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
縁側に居た白痴ばかたれ取合とりあわ徒然つれづれえられなくなったものか、ぐたぐたと膝行出いざりだして、婦人おんなそばへその便々べんべんたる腹を持って来たが、くずれたように胡坐あぐらして、しきりにこう我が膳をながめて、ゆびさしをした。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)