惨酷ざんこく)” の例文
旧字:慘酷
一体病身の幼童を座敷牢へ監禁して置くような惨酷ざんこくきわまる親があるだろうかしら。考えれば考えるほど不思議なことではないか。
三人の双生児 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その上何ぞというとなぐったり蹴飛けとばしたり惨酷ざんこくな写真を入れるので子供の教育上はなはだよろしくないからなるべくやりたくないのですが
中味と形式 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それを惨酷ざんこくな話だが、繩をつけて京の町までいてくると途中多くの石に当ったけれども、皮膚強くして少しも破れずとまで書いてある。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ディオニシアスはずいぶんわがままな惨酷ざんこくな男でした。市民たちは彼のいろいろな乱暴から、ディオニシアスをへびのように憎み出しました。
デイモンとピシアス (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
衆口同音婦人を責むるの惨酷ざんこくなる事、古来習慣のしからしむる所といわばいえ、二十世紀の今日、この悪風習の存在を許すべき余地なきなり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
十代の女の恋愛には、飛ぶ雲のような淡さがあり、二十代の女の恋愛には計算がともない、三十代の女には何か惨酷ざんこくなものがあるような気がする。
恋愛の微醺 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
丹波たんばの大江山等に住んでいるこの半人半怪の惨酷ざんこくなる奴と、もっと幽霊らしい、死して鬼となるといったような一種の悪霊としての鬼と、悪気災難
ばけものばなし (新字新仮名) / 岸田劉生(著)
そのまた小犬は誰の仕業しわざか、くびのまわりに花を持った一つづりの草をぶら下げていた。それは惨酷ざんこくな気がすると同時に美しい気がするのにも違いなかった。
彼 第二 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「ハハハハ、やっこさん、大切な獲物えものが人形だとわかったとき、どんなに憤慨したか眼に見えるようだね。この惨酷ざんこくさはどうだ。八ツ裂きだね。人形でよかったよ」
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「兄さんがいなくなった後で、盗賊が入って、ねえさんを殺して、はらわたえぐって逃げたのですが、じつに惨酷ざんこくな殺しかたでしたよ。だが、それがまだつかまらないです。」
成仙 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
あくまで惨酷ざんこくなる猛火に対する美感は如何にありけんこの時以後再び感ずる能はず。年長じて後、イギリスの小説(リツトンのゴドルフインにやありけん)を読む。
わが幼時の美感 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
惨酷ざんこくな海賊よりも少弐しょうにの遺族は大夫たゆうげんをもっと恐れていて、その追っ手ではないかと胸を冷やした。
源氏物語:22 玉鬘 (新字新仮名) / 紫式部(著)
それ故に、一切の将来を政府の誠意に任せて信じていたのだが、これは余りに惨酷ざんこくむくいであった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
そりや僕も、おやぢすねを食ひ荒して、斯様こん探偵にまで成り下つたんだから、随分惨酷ざんこくなことも平気でつて来たんですが、——篠田には実に驚いたのです、社会党なんぞ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
お島は昔気質むかしかたぎ律義りちぎな父親に手をひかれて、或日の晩方、自分に深い憎しみを持っている母親のあらい怒と惨酷ざんこく折檻せっかんからのがれるために、野原をそっち此方こっち彷徨うろついていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
いかにも窩人かじんおさらしい、こういう惨酷ざんこくの方法をもって、彼は自分の肉体を苦しめ、娘に対する思慕の情と同じ者に対する憎悪ぞうおの念とを痲痺まひさせようとするのであった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ところが私たちは、一つ兵士たちを、彼等の持っている鉄砲でなぐりつけ、もう一つは、その部下たちを惨酷ざんこくにも殺ろす間、その側に立っていなければならないのだった。
市川党もずいぶん惨酷ざんこくをきわめましたね。こいつを生かして置いたら、あだかえされる時があるとでも思うんでしょうか。それにしても、こんな罪もない幼いものにまで極刑を
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
彼らが驕慢ほこりの気の臭さを鉄囲山外てついさんげつかんで捨てよ、彼らのこうべを地につかしめよ、無慈悲の斧の刃味のよさを彼らが胸に試みよ、惨酷ざんこくの矛、瞋恚しんいの剣の刃糞はくそと彼らをなしくれよ
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
○予あえて言う、一国その国教の情状により他教を禁ずるをもってその国の本分となすは、さまたげなかるべしと。しかれどもこれがため惨酷ざんこくの所業をほどこすも可なりと云うにはあらず。
そして、あなたがお話しにならないやうな惨酷ざんこくな目にはせたことを云つてやります。
世間ではまだ寝小便をするくらいの子供を手離して人に預けるのは惨酷ざんこくであるといって、私の両親を非難したとのことだ。実際私は時々寝小便をやらかして先生を驚かすこともあった。
私の子供時分 (新字新仮名) / 伊波普猷(著)
無意識に惨酷ざんこくな事を、おっしゃいます。やっぱり、お坊ちゃんなのかも知れない。僕は、どうも一高は、にがてだ。たぶん落ちるだろう。落ちたら私立のR大学へでもはいるつもりだ。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
この世界が皆、血色に関聯かんれんする。赤錆の出た、たいらな、一枚の鉄板てっぱんのような夜の世界、その色は、断頭台の血に錆びた鉄の色に似ている。惨酷ざんこくな料理をする……。吾らは、夜の色を讃美する。
森の暗き夜 (新字新仮名) / 小川未明(著)
しかし、彼が惨酷ざんこくな校長で、生徒の苦痛をよろこぶようなものであると想像されては困る。それどころか、彼の罰し方はただ厳格一方というのではなく、ちゃんと差別をつけていたのである。
人にさいなまれようとも、蹂躙ふみにじられようとも、かまわないと思召すなら、わたしを突き出してもようござんすけれど、あなたは、そんな惨酷ざんこくなお方じゃなかろうと、わたしは安心していますのよ
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかし所詮ニコロは現在に生きる女性だ、彼女の愛情は未来を苛酷に約束する。思えば何人の予測も許さない。運命は、いまや惨酷ざんこくに私に挑戦する。私は取乱した、アンナ・ニコロの寝室に侵人する。
恋の一杯売 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
「なるほど、……惨酷ざんこくなことをしたものだな。亡霊の仕業かな」
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
世の中にこれほど惨酷ざんこくな他殺方法を考え出した男が他にありましょうか。——残念なことに、今以て彼の行方が知れないのです。
赤耀館事件の真相 (新字新仮名) / 海野十三(著)
須臾しゅゆにして、おもえらくああかくの如くなる時は、無智無識の人民諸税収歛しゅうれんこくなるをうらみ、如何いかんの感を惹起せん、恐るべくも、積怨せきえんの余情溢れてつい惨酷ざんこく比類なき仏国ふっこく革命の際の如く
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
当時諸藩に党派争いはあっても、水戸のように惨酷ざんこくをきわめたところはない。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
彼らは葉之助を惨酷ざんこくにも、猛獣に食わせようとするのであった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「そうなんだよ。それを知らさないでいる政府は、山賊の大将みたいに惨酷ざんこくだよ」
諜報中継局 (新字新仮名) / 海野十三(著)
英国臣民が罪なしに殺害せられるような惨酷ざんこくな所業に対し、日本政府がその当然の義務を怠るのみか、薩州侯をして下手人げしゅにんを出させることもできないのは、英国政府を侮辱するものであるとし
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
Qは、人間よりもすぐれた思考力と、そして惨酷ざんこくな心とを持っているので、もしかれが生きていたなら、こんどはじめる仕事は、われわれの想像をこえた驚天動地きょうてんどうちの大事件であろうと思う。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
赤羽主任は、無残むざんにつぶされた女の銀杏返しの髪に視線を送った。——丸々とえた頸筋くびすじに、血にまみれた乱れ髪が数本へびのようにっている、見るからに惨酷ざんこくな犯行を思わせずにはおかなかった。
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あまりといえば、惨酷ざんこくきわまることである。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)