悲劇ひげき)” の例文
新小川町のとにかく中流ちゅうりゅう住宅じゅうたくをいでて、家賃やちん十円といういまの家へうつってきたについては、一じょう悲劇ひげきがあった結果けっかである。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
しかその悲劇ひげきまた何時いつ如何いかなるかたちで、自分じぶん家族かぞくとらへにるかわからないとふ、ぼんやりした掛念けねんが、折々をり/\かれあたまのなかにきりとなつてかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
(こゝで、私とつまとがおなじやうにつかれたといふことが、私達わたしたちの間に、大きな悲劇ひげきをもたらした原因げんいんであつた。)——
美しい家 (新字旧仮名) / 横光利一(著)
それがどれだけの悲劇ひげきなのか。爺さんはんだが自分は生きてゐる。それがどれだけの重量を持つた意なのか。
坂道 (旧字旧仮名) / 新美南吉(著)
わたしはいつこんな悲劇ひげきなんて書いたろう。軽喜歌劇散歩道の陰謀 一名懺悔祈祷日。はてね、どこでこんなものをもらったろう。たれかいたずらに、かくしに入れたかな。
しかし、それを人間にんげん所有しょゆうすることはできぬものでしょうか? なぜなら、人間にんげん自然しぜんをすこしでもわたくししようとするときは、そこに、こうしたおもわぬ悲劇ひげきまれるからです。
らんの花 (新字新仮名) / 小川未明(著)
此二このふたつ悲劇ひげきをわつて彼是かれこれするうち大磯おほいそくと女中ぢよちゆうが三にんばかり老人夫婦としよりふうふ出迎でむかへて、その一人ひとりまどからわたしたつゝみ大事だいじさうに受取うけとつた。其中そのなかには空虚からつぽ折箱をりも三ツはひつてるのである。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
悲劇ひげき
もくねじ (新字新仮名) / 海野十三(著)
蘇生よみがへつたやうにはつきりしたさい姿すがたて、おそろしい悲劇ひげきが一遠退とほのいたときごとくに、むねおろした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
同情するような口振りもし態度もするけれど、心の底から同情するものはひとりもないのだ。思うようにゆかないのが人世じんせいだなどと、社会の悲劇ひげきなぐさみものにしてさわいでる人間が多い。
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
死屍累々ししるゐ/\とはあのことですね。それがみんな夫婦ふうふなんだから實際じつさいどくですよ。つまりあすこを二三ちやうとほるうちに、我々われ/\悲劇ひげきにいくつ出逢であふかわからないんです。それかんがへると御互おたがひじつ幸福かうふくでさあ。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)