恰幅かっぷく)” の例文
と、揉手もみでをするのです。筋肉質の確りした中老人で、柔弱だったという伜の菊次郎に此べて、これはまた、武家あがりと言った恰幅かっぷくです。
ちらりとFさんの恰幅かっぷくのいい肩が見え、その陰からまたしてもひらめくやうに、姉さまの白い顔がこちらを振り返つたやうな気がしました。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
恰幅かっぷくのいいその和服姿から、往年のほっそりしたクララをただちに思い出すことはむずかしかったが、その横顔はまごう方なき照子だった。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
大きな頬髯をたくわえた堂々たる恰幅かっぷくの巡査が、三角帽をいただき、佩剣を吊って、橋のたもとに立っているのが眼についた。
(新字新仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
弁当箱も大きいが、男の恰幅かっぷくもすばらしい筋肉で出来上っていた。硬緊かたじまりに肥えて、骨太で、上背丈うわぜいがある。年頃は三十二、三という見当。
醤油仏 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
断って置きますが、私は頑健岩のごと恰幅かっぷくではありましたけれども、身の丈は五尺二寸ばかりで、先ず小男の部だったのです。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ことに、いま栄三郎と立ち合っている恰幅かっぷくのいい侍はその首領とみえて、剣手体置きすべてが世のつねの盗人とは思われない。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
若くて、恰幅かっぷくがよくて、運動好きのこの先生は、広い校庭に遊動円木ゆうどうえんぼくや、廻転塔かいてんとうなど、つぎつぎに運動器械をえつけて子供を喜ばせていた。
礼拝堂の勤行ごんぎょうをおこなうために、彼はたいへんな費用をかけて、信心ぶかい、堂々たる恰幅かっぷくの家庭牧師をやとっている。
のち三年にして関脇せきわけの栄位を修め、恰幅かっぷく貫禄かんろくならびにその美貌びぼうから、一世の人気をほしいままにしたということでした。
デップリと肥満した、五十余りの未亡人はいかにも大貴族の大奥様らしく、大柄の堂々たる恰幅かっぷくをしているが、顔色がひどく、冴えないように思われる。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
お母様が一度御挨拶ごあいさつをなすったので知りました。著物きものは持っていられません。女中でも取りに行くのでしょう。恰幅かっぷくのいい、あから顔の五十位の人でした。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
その伯父の両隣に伯母と牧田が坐っているのですが、これが又二人共痩形やせがたで、殊に牧田は人並はずれた小男ですから、一層伯父の恰幅かっぷくが引立って見えます。
黒手組 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
玄象道人は頭をった、恰幅かっぷくい老人だった。が、金歯きんばめていたり、巻煙草をすぱすぱやる所は、一向道人らしくもない、下品な風采ふうさいを具えていた。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「誕生で思い出しましたが、父は今こそこんな恰幅かっぷくをしていますけれど、生れた時は月足らずだったそうです」
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
伝兵衛のほうは、綽名あだなの通り出ッ尻で鳩胸。草相撲くさずもうの前頭とでもいった色白のいい恰幅かっぷく。何から何まで反対なので、二人が並ぶと、実以じつもって、対照の妙を極める。
五十がらみの肉付きのいい恰幅かっぷくに、くすんだ色の半纏姿が頼もしく似合っている柳美館だった。
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
軍属らしいと思ったら報道班員だと言う。仔熊のような眼をもった、恰幅かっぷくのいい男だった。今は海軍の糧秣りょうまつ係の仕事をして居るらしかった。宇治はその男の名に記憶があった。
日の果て (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
事実、湯島で会ったときより、はるかに恰幅かっぷくも大きくひとがらに威も付いた。老中第一人というにふさわしい容態であるのに、この甲斐に対してはこらえ性がなくなるらしい。
台所に湯気をあげている銅薬缶あかやかんの大きいのを見て、天ぷらやの屋台に立っていた、恰幅かっぷくのいい、額の長く光った、金物問屋の旦那さんの顔を、あんぽんたんまでが思出して、一緒に笑った。
外国の恰幅かっぷくのよい男達の和服姿が、我々よりも立派に見えるに極っている。
日本文化私観 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
姉の方もまた自分の夢想を持っていた。ある御用商人、ある金持ちで恰幅かっぷくのいい糧秣係りょうまつがかり、あるいかにもお人よしのおっと、ある成金、またはある県知事、そういうものを蒼空そうくうのうちに夢みていた。
職長ぐらいな年配と恰幅かっぷくの労働者。組合事務所の役員らしいカラーにネクタイをした男。なかに、黒いボヘミヤン・ネクタイをふっさり下げた長髪の男さえ混った。みんなフランス語の演説だった。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
恰幅かっぷくのよい長身に両手をだらりと垂らし、投出して行くような足取りで、一つところを何度も廻り返す。そうかと思うと、紙凧かみだこの糸のようにすっとのして行って、思いがけないような遠い売場にたたずむ。
老妓抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
小相撲こずもうぐらい恰幅かっぷくのある、節くれだった若い衆でしたが……
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
三十二三の痩せぎすながら見事な恰幅かっぷく。少し月代さかやきが伸びて、青白い顔も凄みですが、身のこなし、眼の配り、何となく尋常ではありません。
細川家に召抱えられて、豊前の小倉に居を定めてから、彼の恰幅かっぷくや容子には、一倍と尾ヒレがついて来たように見られた。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
骨細のきゃしゃなあんどんをひきつけて坐っている町人のひとり……五十がらみのがっしりとした恰幅かっぷく、色黒——鍛冶富!……鍛冶屋富五郎である。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
もっとも美代子さんのところでは家中がみんな大きな存在だ。お父さんは東都義太夫界の重鎮じゅうちん豊竹鐘太夫とよたけかねだゆう、内容から言っても恰幅かっぷく見ても、決して小さい存在でない。
心のアンテナ (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
いや、威風ばかりではない。その気品、水ぎわ立った恰幅かっぷく、直参なればこそ自ら溢れ出る威厳です。
草相撲くさずもう前頭まえがしらのような恰幅かっぷくのいいからだをゆすりながら近づいて来て、この場のようすを眺めて
「的場へは済生学舎の書生さんたちが来ます。私がこんな恰幅かっぷくをしているものですから、雲岳女史などいってしたしんでくれます」などといって、はつはうれしそうにしていました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
相手は無頓着むとんちゃくにこう云いながら、剃刀かみそりを当てたばかりのあごで、沼地の画をさし示した。流行の茶の背広を着た、恰幅かっぷくい、消息通を以て自ら任じている、——新聞の美術記者である。
沼地 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
会場なぞで、この堂々たる恰幅かっぷくの未亡人が着けていたら、誰でもほんものと見誤ったかも知れぬ。ふだん見慣れている当主夫妻でさえ、母親の騒ぎ出すまでは、気が付かなかったという。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
半白はんぱくの坊主頭に、あから顔にひげのない、大商人らしい恰幅かっぷくの人物だが、彼はまるで、お嬢さんの見張り番ででもあるように、彼女の一挙一動を見守りながら、そのあとをつけ廻していた。
黒蜥蜴 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
恰幅かっぷくのよい長身に両手をだらりと垂らし、投出して行くような足取りで、一つところを何度も廻り返す。そうかと思うと、紙凧たこの糸のようにすっとのして行って、思いがけないような遠い売場にたたずむ。
老妓抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
よく肥った、見事な恰幅かっぷく、そのくせポトポトこぼれるようななまめかしさ、踊りで鍛えた二十三の美女は、全く形容のしようもない妾型の女でした。
と、黒地につたつなぎを白抜きした狩衣はその背を初めて客と対等にして、でんと太鼓腹の恰幅かっぷくを向けてみせた。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お忍びらしい覆面、無紋の着流しに恰幅かっぷくのいいからだをつつんだ武士だ。いかにも、大身らしいようす。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
恰幅かっぷくがいいというだけの一外交官の細君なんか、格別なんだとも思っていない。
だいこん (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
女中共は太って恰幅かっぷくの好い一番年配の団さんを主人と思い、痩せた三輪さんとお父さんをお取り巻きの店員と信じ切っている。その証拠には何等の躊躇もなく先ず団さんからお給仕を始めた。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
熊と呼ばれた土佐犬は、いかにもその名にふさわしい恰幅かっぷくである。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
色の浅黒い恰幅かっぷくの立派な青年で、一本調子で突っかかったような物の言い方をするところなどは、決して人に好感を持たせるたちの人間ではありません。
すると二人の背後うしろへいつの間にか近づいていた馬蹄の音があって、その馬上から恰幅かっぷくのよい四十がらみの侍が
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
若わかしい、恰幅かっぷくのいい庄吉だった。驚くべく夢とは関係のない、およそ現実な存在だった。
あの顔 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「ナカ/\恰幅かっぷくの好い人ですな。二十貫ぐらいあるでしょう」
冠婚葬祭博士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
御母堂ごぼどうが、恰幅かっぷくのいい、大きな身体をゆするようにして
キャラコさん:06 ぬすびと (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
薄い唇、ねむそうな眼、かんの高い声、恰幅かっぷくはなかなかよく、そればかりはかつて二本差したこともあるらしい人柄です。
銭形平次捕物控:282 密室 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
色の浅黒い、うすあばたの男だった。——然し、恰幅かっぷくは賛五郎よりもずっとたくましくて、堂々として見えた。
死んだ千鳥 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つづいて、音もなくふすまがすべって、恰幅かっぷくのいい忠相ただすけの姿が、うす闇をしょってはいってきた。老人の眼は、あわただしく、この夜の訪問者の手もとへゆく。が、忠相は何も持っていない……。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)