怖気おじけ)” の例文
旧字:怖氣
もっとも地の利は充分チベット人が占めて居ったのですけれども、元来怖気おじけが付いて居るものですから充分働くことが出来なかった。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
キャラコさんは、すこし怖気おじけがついてきた。自分が、いま、やりかけていることは、途方もなく突飛とっぴなことのように思われだして来た。
例により僕は自分の恥曝はじさらしの経験を述べて参考に供したい。僕は少年のころ、物に怖気おじけない、大胆不敵、あまりに無遠慮であった。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ふととどろいたお政の声に、怖気おじけの附いた文三ゆえ、吃驚びっくりして首をげてみて、安心した※お勢が誤まッて茶をひざこぼしたので有ッた。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
それら新時代のヴォルテールやジョゼフ・ド・メーストルらは、その言論の大胆さの下に、怖気おじけづいた不安定な心を隠していた。
わたしはすっかり怖気おじけづいて、こそこそ彼女たちの傍屋はなれいこんでは、なるべく老夫人のそばに、くっついているようにしたものである。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
目前、宮崎氏令嬢の実例で、怖気おじけをふるっている資本家達は、結局職工の要求を容れることになる。でなければ、工場閉鎖だ。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
女房のお初が、利平の枕許まくらもとでしきりと、口説くどきたてる。利平が、争議団に頭を割られてから、お初はモウスッカリ、怖気おじけづいてしまっている。
(新字新仮名) / 徳永直(著)
そこで綱右衛門は、すっかり怖気おじけをふるって、昭和十一年三月、菩提寺の浅草玉姫町の永伝寺へ奉納して、永久に同寺に封じこめる事にした。
お化の面 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
『まあ珍らしい変なお話ですね。最初からそんな事があっちゃあ、宮城野さんでなくっても怖気おじけがさしてしまいますわね』
機密の魅惑 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
ラネーフスカヤ (怖気おじけづいて)持ってらっしゃい……さあ、これを……(巾着きんちゃくの中をさがす)銀貨がないわ。……まあいい、さ、この金貨を……
桜の園 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
こうした私の態度を見ただけでも怖気おじけが付くか、不快を感ずるかする筈なのに、この少年はあたかも、私がこんな態度をるのを予期していたかのように
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
溺死者の屍体が二、三日もたって上がると、からだ中に黄螺ばいが附いて喰い散らしていて眼もあてられないという話を聞いて怖気おじけをふるったことであった。
海水浴 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「まさか許されまいと思っていたのが許されたから怖気おじけづいたのだろう。岩流に立合を申込んだと云って自分に箔をつけるつもりの目算が外れたからよ」
巌流島 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
実際、あのやっこさん、ほんとうに怖気おじけがついているのである。そこで、私は今朝あいつを落ち着かせるために、クロラルと臭素カリを少々ませてやった。
せっかく買おうと思った娘たちは、鬼だの人を食ったのということで怖気おじけが立って、手を引いてしまいました。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
母が暴風雨に怖気おじけがついて、早く立とうと云うのをしおに、みんなここを切上げて一刻も早く帰る事にした。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
半七ははらのなかで舌打ちした。小僧のあげられたのに怖気おじけがついて、与之助はどこへか影を隠したのではあるまいかとも疑われたので、彼は馬道へ又急いで行った。
半七捕物帳:22 筆屋の娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
……なんという今夜は気味の悪い晩だ! 何かに俺はかれている。帰ろう家へ帰ろう。これ以上に気味の悪いものにぶつかろうものなら、俺といえども怖気おじけだつよ
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「洋行」は嬉しかったが、その時にベルリンへ行ったならば大変だと怖気おじけって行ったのである。
回顧と展望 (新字新仮名) / 高木貞治(著)
そのうえ怖気おじけづきかかってさえいる様子を見て取ると、まんざらでもない気持になったものである。
外套 (新字新仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
その後桐沢台のお邸のことは村役場の永瀬さんという収入役の方が管理をしているが、村の人たちは怖気おじけづいて今ではもう誰一人桐沢台に近づく者もないということ。
逗子物語 (新字新仮名) / 橘外男(著)
基経は念を押すように娘の方を見た。橘はいのるように父に何もいうなという怖気おじけのある色をうかべて、もう、鳥をつのは可哀想かわいそうだという意味をも含ませた眼附めつきだった。
姫たちばな (新字新仮名) / 室生犀星(著)
剣神ともいうべき丹下左膳の腕前を見せられて、もうこの連中、すっかり怖気おじけづいているのだ。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
むしろ僕は、役人たちが怠慢なためか、忘れっぽいためか、あるいは怖気おじけを振ったためかで、手続きはもう中止になったか、次のときには中止になるかするものと考えます。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
「きっと、遊撃隊が怖いんですよ。B国の奴らは卑怯ですからね。いつも弱い者いじめばかりしていて、強い敵に出あったことがないものだから……怖気おじけがついたんですよ。」
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
彼等はずいぶん怖気おじけづいていたし、それに、そういうような人間が、法律の範囲内で、またその範囲を越えて、彼等に対してどんなことをすることが出来るかということの経験は
ほんとうに血だらけな手でその蟇口を自慢そうに妾のの前へぶら下げてみせたとしたら、妾は貴方を憎めるでしょうか? 怖気おじけをふるって貴方から逃げられるでしょうか? いいえ
華やかな罪過 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
薬師寺がたの老臣共は、最後まで主人の鼻を発見することが出来ず、結局誰の仕業しわざとも見当が付かないので、ます/\怖気おじけがついたものか、「弾正政高公にわかの御病気」と云うことにして
常住礼拝の規則は、人に怖気おじけを震わせるほど苛酷かこくなものである。帰依する者は少なくなり、新たにはいって来る者はなくなった。一八四五年には、なお多少の助修道女らが散在していた。
と云われても前に怖気おじけが附いて居りまするから、怖々こわ/″\台所口から上ってまいり
いつもは虎に向かっている羊のような怖気おじけが、敵にあった。彼らは狼狽うろたえ血迷うところを突き伏せるのに、なんの雑作もなかった。今日は、彼らは戦いをする時のように、勇み立っていた。
(新字新仮名) / 菊池寛(著)
それでいて、ちゃほかの電気はそんな事はないので、はじめ怪しいと思ったのも、二度目、三度目には怖気おじけがついて、オイもうそう、何だか薄気味が悪いからとしたくらいでした。
薄どろどろ (新字新仮名) / 尾上梅幸(著)
ぶくれのした顔の中に、怖気おじけた小さな眼はひそんでいた。頭の中は掻き廻されるように痛んで、眼がだんだん霞んで来た。遠くに森があった。森のかなたにも家があった。人が住んでいる。……
(新字新仮名) / 小川未明(著)
「いやお房が殺されたのを見て、怖気おじけづいて逃げ出したに違いあるまいよ。お房の男が下手人ならそんな手数なことをせずに、お房を殺せるわけだ。ところで此空地の奥に住んで居るのは誰だ」
これは、本気か冗談か知らないが、もしもフィリーモンがおそるおそる年上の旅人の顔を見て、いかにもなさけ深そうだということが分らなかったら、とても怖気おじけづいてしまったことでしょう。
コタンケシの酋長が刀を抜いて鞘を打つと、その爺も刀を抜いて鞘を打った。することなすこと、そっくり真似るのであった。さすがの酋長もすっかり怖気おじけついて、すきを見て戸外へ飛び出した。
えぞおばけ列伝 (新字新仮名) / 作者不詳(著)
それはただもうまっ白な、袖もなければ何もない、ずんどうの衣裳で、肩のところがほんの申訳に蝶むすびに絞ってあるだけのものでしたが、この着附けにはわたしたち怖気おじけをふるったものでした。
こわいような爺やのことですから、すっかりその若い外人の妻君が怖気おじけづいてしまって、九月一ぱいという約束でしたのが八月の末になるかならないうちに、其処を引き上げて行ってしまいました。
朴の咲く頃 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
面倒に成って来た人及び我を見るとひとりでに彼女は怖気おじけ付く。
概念と心其もの (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
初めから怖気おじけを見せなかった僧がそばへ寄って行った。
源氏物語:55 手習 (新字新仮名) / 紫式部(著)
あとで報いがこなければいいが、と今から怖気おじけている。
神楽坂 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
そのうち気の弱い君なんぞは怖気おじけをふるふやうな……
灰色の眼の女 (新字旧仮名) / 神西清(著)
ほんとうに怖気おじけをふるっているのかねえ——
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
少年も怖気おじけづき、妹をかばう。
(新字新仮名) / 竹久夢二(著)
出額でこがどうとか何とか、つねに人にいわれたために、人の前に出ても、またなんか言われはせぬかという気になり、怖気おじけたのである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
怖気おじけだったパリーの人々は、田舎いなかに出かける者もあれば、敵の包囲に備えるかのように食料をたくわえる者もあった。
お勢は、まじまじと茂太郎の顔を眺めて、たしなめるようにいいますと、茂太郎は恥かしそうに、また怖気おじけづいているように、がんりきの後ろへ隠れて返事をしない。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それどころかこの城塞ときては、すっかり怖気おじけづいてしまって、魂も身に添わぬ為体ていたらくであった。
殊に善太郎氏は、大嫌いな蛇がからんでいるだけに、怖気おじけをふるって、極度に用心深くなった。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)