こいねが)” の例文
現界の富強をこいねがわず、神界の福楽を欣求ごんぐする鼻をたっとぶあつまりは、崇高幽玄、霊物を照破する鼻に帰依して財宝身命を捧げました。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
今度こういう名の子がこの家に誕生しましたからこの後は尊き神達の守護の下に保育されんことをこいねがうというて読経どきょう供養くようをする。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
これらの議員は、いずれも財産を思うもの一人もなく、等しく自己の生命を全うして、未来の安楽をこいねがうものばかりである。
太陽系統の滅亡 (新字新仮名) / 木村小舟(著)
夫人は、むしろ初めから、このことを予期して居たのではあるまいか? そうして、なお、念のために超自然的なことを、こいねがったのではあるまいか?
印象 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
実力あるものは千にして、養子となるものは一、出身をこいねがうものは万にして、賄賂もしくは「株」あるいは「寸志」によりてその志を達するものは十。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
そのうえ——ひょっとしたら——自分の熱情の真摯しんしなのにおそらく心を動かしはすまいか、などと彼はなおこいねがった。
こんな晩に夜烏よがらすが啼くと、きっと人が死ぬんだと私は考えて、どうかして烏の啼かないようにと心にこいねがっていた。お繁は三十三四の痩せた女の人である。
夜の喜び (新字新仮名) / 小川未明(著)
一年ひととせと二月はあだに過ぎざりき、ただ貴嬢きみにはあまり早く来たり、われにはおそく来たれり、貴嬢きみ永久とこしえに来たらざるをこいねがい、われは一日も早かれとまちぬ
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
私は唯両国橋の有無ゆうむにかかわらずその上下かみしもに今なお渡場が残されてある如く隅田川その他の川筋にいつまでも昔のままの渡船のあらん事をこいねがうのである。
もし私の記事によってこのたにを探勝せられるものがあるなら、こいねがわくは自然の愛護を忘れぬようにして欲しい。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
「みな極楽安養すべきこと、何ぞ疑ひこれあるべく候、片時も今生の暇、こいねがふばかりに候」と結んで居る。
島原の乱 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
されば法官がそののぞみで、就中なかんずくこいねがった判事に志を得て、新たに、はじめて、その方は……と神聖にして犯すべからざる天下控訴院の椅子にかかろうとする二三日。
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
太初はじめことばがあったかおこないがあったか、私はそれを知らない。しかし誰がそれを知っていよう、私はそれを知りたいとこいねがう。そして誰がそれを知りたいと希わぬだろう。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
純粋なものに浄化させて行き度いとこいねがう自分は、最も計り難い、最も絶対な一大事として、愛する良人との死別ということをも考えずにはいられなく成ったのです。
偶感一語 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
彼はただ、あたうかぎり兵を損ぜず、無血の戦果と最大の戦果をこいねがっているに過ぎないのだ。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いかにいそがしい人といえどもかの実行の範囲内にあると思うし、またこいねがわくは一年に一回ぐらい一週間なり十日間なりほとんど俗事を忘るるごとき境涯きょうがいに入ることができるならば
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
国家的弔意の表示を含むものでありたいとこいねがふのは必ずしも私一人ではありますまい。
偉大なる近代劇場人 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
どこに陛下の人格を敬愛してますます徳に進ませ玉うようにこいねがう真の忠臣があるか。
謀叛論(草稿) (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
れ宋儒は人民精神の発達をいみてこれをこいねがわず、むしろこれを或る範囲内に入れ、その自主を失なわしめ、唯だ少年の子弟をしていたずらに依頼心を増長せしめ、その極や卑屈自からじず
祝東京専門学校之開校 (新字新仮名) / 小野梓(著)
こいねがわくは世の兄弟姉妹よ、血ありなんだあらば、来りてこれを賛助せられん事を。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
ふと、心から、それをこいねがったりした。
浮動する地価 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
かしこき御推賛の情け深き御瞳おひとみを、この処女作の上にくだしたまわらんことを、厚かましくもこいねがいたいのでありまする。
既に述べしが如く余は江戸演劇の演奏をして能ふかぎり従来の形式と精神とを保持せしめん事をこいねがふものたり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
すると花嫁の随行者はその要償金ようしょうきん幾許いくばくを与えて、まず安全の通過をこいねがいここに始めて通過し得らるるのです。もちろんこれは都会には行われて居りません。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
一、余去年已来いらい心蹟百変、挙げて数え難し。就中なかんずく趙の貫高かんこうこいねがい、楚の屈平くっぺいを仰ぐ、諸知友の知る所なり。故に子遠が送別の句に「燕趙の多士一貫高、荊楚の深憂ただ屈平」
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
しばらくもともに遊ばんことをこいねがうや、親しく、優しく勉めてすなれど、不断は此方こなたより遠ざかりしが、その時は先にあまり淋しくて、友欲しき念の堪えがたかりしその心のまだせざると
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
人間として生れて来た以上は、肉体に於ても、又精神に於ても各々其の経験を出来得る限り多く営みたいという事は誰しも常に思いこいねがうところであり、又此れが生活として意義ある事であろうと思う。
絶望より生ずる文芸 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ベートーヴェン、レーヴェ、シューベルト、ブラームスなど、「みずからこいねがわずして独創的なる人々、」
ココに一つの説あり、全く自家のを欲し富貴逸楽をこいねがわんとて賄賂を行うもあり、また恬憺てんたん無為むいにせば終身きこゆるきのみならず、かみのために心力を尽すこともなし得ず
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
家の神様に向い「この花嫁は某から貰い受けて今日より我が家の人となりました。ついては村の神様ならびに家の神様は今日以後この花嫁の庇護ひご者とならんことをこいねがいます」
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
さるに町方まちかたの者としいへば、かたゐなるどもとうとび敬ひて、頃刻しばらくもともに遊ばんことをこいねがふや、親しく、優しく勉めてすなれど、不断はこなたより遠ざかりしが、その時は先にあまりさびしくて
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そしてレオンハルトからそのりっぱな理由を与えてもらいたいとこいねがった。彼の方から話をしかけた。レオンハルトはいつもの静かな調子で答えて、別に熱心さを示さなかった。
真の音楽家にとっては、音楽は自分が呼吸する空気であり、自分を包む空である。彼の魂自身がすでに音楽である。彼の魂が愛し憎み苦しみ恐れこいねがうところのもの、そのすべてが音楽である。