かん)” の例文
旧字:
老公の頬に、すこしくれないがさした。かん紐爪ひもづめを解き、くるくると繰りひろげる。らんとした眼がずうっと、それに、並ぶ名を一瞥いちべつした。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二十五年間ねんかん教育きょういくつくしてしょく退しりぞいたのち創作そうさくこころをうちこんで、千九百二十七ねんになくなるまで、じつに二十かん著作ちょさくのこした。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
かんを開けば図はづ武家屋敷長屋の壁打続きたる処にして一人ひとりの女窓のほとりにたたず頬冠ほおかむりせし番付売ばんづけうりを呼止めて顔見世かおみせの番付あがなふさまを描きたり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
注文の多い料理店はその十二かんのセリーズの中の第一冊だいいっさつでまずその古風こふう童話どうわとしての形式けいしきと地方色とをもって類集るいしゅうしたものであってつぎの九へんからなる。
そのとき和邇わには、十かん論語ろんごという本と、千字文せんじもんという一巻の本とを持って来て献上しました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
ただこの景色を一ぷくとして、一かんの詩として読むからである。であり詩である以上は地面じめんを貰って、開拓する気にもならねば、鉄道をかけて一儲ひともうけする了見りょうけんも起らぬ。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
先年せんねんあなたのおくに太子たいしあおりゅうくるまって、五百にん家来けらいしたがえて、はるばるひがしほうからくもの上をはしっておいでになって、ふる法華経ほけきょうの一かんっておいでになりました。
夢殿 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
紙数にして五十枚ほどの一冊を、お雪はスラスラと読みおわって、かんをとざしながら
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
かんの表紙や軸の金具もだが、見返しのトビラの絵画は、またなくすばらしい。従来、美術批評家たちが、讃美の辞を尽して来たものだ。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
男はかたわらにある羊皮ようひの表紙に朱で書名を入れた詩集をとりあげて膝の上に置く。読みさした所に象牙ぞうげを薄くけずったかみ小刀ナイフはさんである。かんに余って長く外へみ出した所だけは細かい汗をかいている。
一夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かんふる法華経ほけきょうしてわたしました。
夢殿 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
一童子の背にかんを負わせ、先へ山杖ついてゆく藺笠姿いがさすがたは、守護の御領主とはたれにも見えそうもない。画中の一道者どうじゃ山人さんじんのようである。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だのに、今日会下山に来るなどは泥縄式でないこともないが、それでもなお私には百かんの書を読むにまさるものがあった。
随筆 私本太平記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かねて、紋太夫の手許には、かならず一味徒党の連判したさつかんかがあるにちがいないことを、老公は信じて疑わないように一同へ告げおいてあった。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いやそれなるがゆえに、当時の読者をして魅了し随喜させ、その音楽的幻想のうちに、一般の仏教至上思想をも昂揚しながら、見事に、かんを閉じさせてしまうのである。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かと思うと、かんは、巻き馴れたひとの手で、颯々さっさつと鳴って、もとの短い棒に返っていた。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
連判のかんは巻かれた。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かんをひろいあげた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)