くっ)” の例文
いま十五少年諸君の行動をけんするに、なんしょしてくっせず、事にのぞんであわてず、われわれおとなといえども及びがたきものがすこぶる多い。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
久米一非常な傲慢ごうまんだからだ。誰にもくっしたことがない、誰へも傲倨ごうきょに君臨する、ましてや芸術においては無論、天下の陶器師を睥睨へいげいしている。
増長天王 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それを覚悟かくごのことで、足は相応に達者、いやくっせずに進んだ進んだ。すると、だんだんまた山が両方からせまって来て、肩につかえそうな狭いとこになった、すぐにのぼり
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼れは余の如く細君の言葉には感服せざるかおもいくっするてい更に無く、かえって顔色も昨夜より晴渡れり
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
ただ私は、愛情に対しては、つけあがり、怒りに対しては、ただちにひざくっするような君らの奴隷根性こんじょうが、なさけなくて、じっとしてはいられない気持ちがするのだ——
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
一郎は、失敗にくっしないで、もう次の研究を考えていた。地下戦車は穴を掘るだけでなく、けずった土をどこにやるか、その始末をよく考えておかないと、実用にならない。
未来の地下戦車長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
広忠はくっせず、子供の命は勝手にするがいい、同盟はすてられない、とキッパリ返答した。
家康 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
つみなくしてあやまちを得る者は非常の人、くっして、後世こうせいぶ。罪ありてあやまちをまぬかるる者は奸侫人かんねいじんこころざし一時に得て、名後世にず。いにしえてん定まりて人に勝つとはれなり
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
されどもいささか思い定むるよし心中にあればがんとしてくっせず、他の好意をば無になして辞して帰るやいなや、直ちに三里ほどへだたれる湯の川温泉というにいたり、しこうして封書ふうしょを友人に送り
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ともいって、人間は創造者だ、いつも現実の非にくっせず、今日を以て始めとするほどな情熱がなければ、新しい歴史は生まれない、と力説する。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして彼は、おおむね烏啼のためにしてやられることが多く、従来のスコアは十九対一ぐらいのところであった。しかし名探偵袋猫々には、常にまずくっしない頑張りの力があった。
斗米とまいのために身をくっしても身をげても、心はどこまでも直立独歩する者もある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
いまのやつらはへそを軽蔑けいべつするからみな軽佻浮薄けいちょうふはくなのだ、へそは力の中心点だ、人間はすべての力をへそに集注すれば、どっしりとおちついて威武もくっするあたわず富貴もいんするあたわず、沈毅ちんき
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
一味の助勢が加わっても、彼はまだくっしない。せめて黒田官兵衛の首をみやげとして、最期さいごはなを飾ろうとするかのような猛戦力を発して来る。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし私はくっしなかった。
大脳手術 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それでいて、城主を初め、役人や山の者までが、彼の前には、膝をくっしなければならなかった。たしかに、久米一は名陶工であったには相違ない。
増長天王 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その直義が何としてもくっしないのは、ただに骨肉の憎悪や甘えだけでなく、なお自分には多くの支持者があることを強く信じていたからであるらしい。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と——うしろから地をはってきた曲者くせものびかかってその喉首のどくびをしめあげる。だが、彼女もくっしはしない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さすが気丈きじょう怪童子かいどうじも、その一しゅんに、にわかにあたりがくらくなった心地ここちがして、名刀般若丸はんにゃまるをふりかぶったまま、五弓形ゆみなりくっして、ドーンとうしろへたおれてしまった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……さもなければ、尊氏はここで這奴しゃつにのど首をしめられねばならなかった。たとえどう膝をくっしても、道誉の機嫌をとって味方に迎えねば、うごきのつかぬところであったよ
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「身をくっして、分を守り、天の時を待つ。——蛟龍こうりょうふちにひそむは昇らんがためである」
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やぶれれば朝廷たりとも、争覇そうはの敵のおごりにくっする覚悟のもとでなければならない。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかも、クロはこの難行苦行なんぎょうくぎょうにもくっする色なく、なおとぶことは稲妻いなずまよりもはやい。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、和談といえ、深い後図こうとの考えもあってのことぞ。いまはくっしてもすえに勝てば、負けではない。数日前、はや密かに四条、北畠の二名をここから落して大和へ走らせ、北陸へも、あらかじめ人を
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それから、もいちど、具行へたいして、ていねいに身をくっした。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)