)” の例文
月光げつくわうそのなめらかなる葉のおもに落ちて、葉はながら碧玉へきぎよくあふぎれるが、其上そのうへにまた黒き斑点はんてんありてちら/\おどれり。李樹すもゝの影のうつれるなり。
良夜 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
「やい亀井、何しおる? 何ぢや、懸賞小説ぢや——ふッふッ、」とも馬鹿にしたやうに冷笑せゝらわらつたはズングリと肥つた二十四五のひげ毿くしや々の書生で
貧書生 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
遠くつらなれる高輪白金たかなわしろかねの高台には樹々のこずえすでにヤヽ黄を帯びて朝日に匂ひ、近く打ち続く後圃こうほの松林にはだ虫の声々残りてながら夜の宿ともひつべし
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
是より一行又かはさかのぼり、れて河岸かはぎし露泊ろはくす、此日や白樺の樹皮をぎ来りて之を数本の竹上にはさみ、火をてんずれば其明ながら電気灯でんきとうの如し、鹽原君其下そのしたに在りて
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
みぎひだりひかけては大溝おほどぶなか蹴落けおとして一人ひとりから/\と高笑たかわらひ、ものなくて天上てんじやうのおつきさま皓々こう/\てらたまふをさぶいといふことらぬなればたゞこゝちよくさはやかにて
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
五月雨さみだれで田圃が白くなり、雲霧くもきりで遠望が煙にぼかさるゝ頃は、田圃の北から南へ出るみさきと、南から北へと差出る𡽶はなとが、ながら入江をかこむ崎の如く末は海かと疑われる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
地殻を破つて突き出た様な隠元の芽生えが、漸く葉並を揃へて幾筋もの直線の行列を作ると、地の面は、ながら可愛い乙女達のマツス・ゲエムを見る様に、希望と歓喜とに満される。
百姓日記 (新字旧仮名) / 石川三四郎(著)
西比利亜では犬を「エンヌ」といふさうで語音ごいんや似通つておる。或は日本犬と同種族であるまいかといふ説があるさうだが、如何さまもありさうな事だわい
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
うすき影と、うすき光は、落花らくゝわ点々てん/\たる庭に落ちて、地を歩す、ながらてんあゆむのかんあり。
花月の夜 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
豪徳寺ごうとくじ附近に来ると、自動車はひとかく入れた馬の如く、決勝点けっしょうてんを眼の前に見る走者そうしゃの如く、ながら眼をみはり、うんと口を結んで、疾風の如くせ出した。余は帽子に手をえた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
自分の好きな塩煎餅しおせんべい掻餅かきもちでもあろうもんなら、もこののものはかまどの下の灰までがおれの物だというような顔をして、平気で菓子鉢に顔を突込んではボリボリと喰べ初める。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)