よめ)” の例文
なんでも私達がいま道で、馬を曳いて往った自分のよめに往き遭ったろうが、どの位先きへ往ったかを知りたいらしい事がようやく分った。
晩夏 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
そんでよめたせるにしても折角せつかくこつちにはたらいてんだから自分じぶんとこへはれてわけにやかねえとおもつてななんちつてもそれ
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「そうかい、そうかい」と言って何事もよめに従って来た。いたずら盛りの孫が障子を破ろうと、お三輪はそれを叱ったこともない。
食堂 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
たとひ遠郷ゑんきやうむこよめにゆきて年をても鳥をしよくすれば必凶応あしきことあり、灵験れいげん煕々あきらかたる事此一を以て知るべし。されば遠郷ゑんきやう近邑きんいう信仰しんかうの人多し。
壻養子に来たのではあるが、お麗さんはその人の妻になりたくないから、家をその人に遣って、自分はどこかへよめに行きたいと云っている。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
お絹の口ぶりによると、弟よめがいつでも問題になるらしかった。そしてそれを言うのはお絹だった。弟は妻のために、お絹姉さんを、少し文句の多すぎる小姑こじゅうとだと思っていた。
挿話 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
よめばかりそめ物くさしころもがへ 広房
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
ぷんにならるるよめ仕合しあはせ 利牛
民族的記憶の名残 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
ぶんにならるるよめ仕合しあわせ 利牛りぎゅう
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
たとひ遠郷ゑんきやうむこよめにゆきて年をても鳥をしよくすれば必凶応あしきことあり、灵験れいげん煕々あきらかたる事此一を以て知るべし。されば遠郷ゑんきやう近邑きんいう信仰しんかうの人多し。
老爺おぢいさんが云つて呉れた時分だ……あの頃にお前は未だ髪の毛などをげて居たよ、その人が最早もうよめさんに行くんだからねえ。
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
おえふは初枝を漸くふところから離せるやうになつた頃、ホテルでは草津の有名な温泉旅館からそこの評判娘をよめにしたといふ噂を耳にした。
ふるさとびと (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
侍の娘は男の魂を見込んでよめに往くのだから、男の顔を見てかれこれ云う筈はない。それが日本ばかりの事であっても、好い事なら好いではないか。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そんでそれよめつちのが心底しんてえのえゝをんなだつちんだからわしもしいのさ本當ほんたうはなしがねえ、さうつちや我慾がよくやうだがおんなじもんならやつけえ言辭ことばでもけてくれるよめでなくつちやねえ
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
○かくて産後さんご日をてのち、連日れんじつの雪も降止ふりやみ天気おだやかなる日、よめをつとにむかひ、今日けふ親里おやざとゆかんとおもふ、いかにやせんといふ。
お三輪に、彼女がよめのお富に、二人の孫に、子守娘に、この家族は震災の当時東京から焼出されて、浦和まで落ちのびて来たものばかりであった。
食堂 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
……そこで長男のよめとして、牡丹屋のおえふが眞先きに選ばれた。牡丹屋といへば、いまでこそ昔ほどの羽ぶりは利かなかつたが、隣りの村の本陣。
ふるさとびと (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
娘の時から犬ころや猫や小鳥をも、母として可哀がる。よめけば夫をも母として可哀がる。人類の継続の上には、この型の女が勲功を奏している。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
駒形の家とは、おげんの亡くなったせがれよめと一緒にしばらく住んだ家で、おげんに取っても思出の深いところであった。
ある女の生涯 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
我国にて児童等こどもらが人のかど斗棒とぼうにてたゝき、よめをだせむこをだせとのゝしりさわぐは、右の風土記の俗習ぞくしふ遺事ゐじなるべし。
独身で小倉に来ているのを、東京にいるお祖母あさんがひどく案じて、手紙をよこす度によめの詮議をしている。
独身 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
母は自分の息子のよめが胸などを患ってサナトリウムにはいっている事を表向きはばかって、ちょっと神経衰弱位で転地しているように人前をとりつくろっていた。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
我国にて児童等こどもらが人のかど斗棒とぼうにてたゝき、よめをだせむこをだせとのゝしりさわぐは、右の風土記の俗習ぞくしふ遺事ゐじなるべし。
伜のよめも居る。その娵は皆の話の仲間入をしようとして女持の細い煙管きせるなぞを取り出しつつある。二階のてすりのところには東京を見物顔なお新も居る。
ある女の生涯 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
聞けば貸家になっている家は、この婆あさんの亭主で、植木屋をしていた爺いさんが、せがれよめを取って家を譲るとき、新しく立てて這入はいった隠居所なのである。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
昔気質むかしかたぎの母は、この頃何かと気ぶっせいなよめを自分達から一時別居させて以前のように息子と二人きりになれる気楽さを圭介の前では顔色にまで現わしながら
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「およめさんに成ればみんな変るつて言ひますけれども、あんなに急に変らうとは思はなかつた。」とお栄が答へた。
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
人の狼なるは狼の狼なるよりも可惧おそるべく可悪にくむべし篤実とくじつ外面げめんとし、奸慾かんよく内心ないしんとするを狼者おほかみものといひ、よめ悍戻いびる狼老婆おほかみばゝといふ。たくみ狼心らうしんをかくすとも識者しきしや心眼しんがん明鏡めいきやうなり。
博士は其時笑つて、そんなら其久松ひさまつを連れてよめに来ればいと云つた事もある。併し事実問題になると、博士は躊躇ちうちよすることを免れない。博士は自ら解して、かう云つてゐる。なに。
魔睡 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
おえふが年頃になると、その村の蔦ホテルから、突然、長男のよめにと懇望された。
ふるさとびと (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
伯母さんは階下したで一服やつて、およめさんの心得に成るやうなことをお節に言つて聞かせる、それから女持の煙草入を手にしながらお父さん達のおつしやる方へ行つた。
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
一体己には espritエスプリイ nonノン préocupéプレオキュペエけている。安という女が瀬戸の frivoleフリヴオル な目で発見せられるまで、己の目には唯家主のよめというものが写っていた。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
彼女のよめがいまのままの生活に何か不満そうにし出している事が
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「わたしにおよめに来てくれなんてうるさいことを言う人も無くなって、かえって好いかも知れません」
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
梅と婚礼をせいと云う託宣なんぞも、やっぱりお梅さんが言い渡して置いて、箕村が婚礼の支度をすると、お梅さんは驚いた顔をして、およめさんはどちらからおいでなさいますと云ったそうだ。
独身 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
はずかしいことながら、おげんはもう長いこと国の養子夫婦のむつましさに心を悩まされて、自分の前で養子のうわさをする何でもないよめの言葉までがねたましく思われたこともあった。
ある女の生涯 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
自分はかつ倫敦ロンドンに住んだことが有るという話や、そのために自分は家中で一番よく英語が話せる、よめはあまり話せないが忰の方はすこしは話せて好都合であるということなぞや
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
お民の女の子のうわさを半蔵にして、寿平次に迎えたよめのお里にはまだ子がないことなどを言って見せる人である。隠居は家の人たちと一緒に門口に出て、寿平次を見送る時に言った。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)