失敗しくじ)” の例文
「冗、冗談しちゃいけません師匠、失敗しくじったのに褒美てえのはないでしょう。そんななにもダレさせるようなことをなさらねえでも」
円太郎馬車 (新字新仮名) / 正岡容(著)
何事なに? ……うしたの? ……何うしたの?」と、気にして聞く。私は、失敗しくじった! と、穴にも入りたい心地をつとめて隠して
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
失敗しくじつたんぢやァないだらうか、このまんま枯れてしまふんぢやァあるまいか、わたくしにもありやうは心細くさう思はれたのである。
(新字旧仮名) / 久保田万太郎(著)
牛肉とさえ言えば何処どこでも同じ事だと思って内ロースをシチューにしたり、こわい肉をビフテキにしたりして毎度失敗しくじっていました。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
やりはねて、また失敗しくじるようなことがあっては困るでね。それよりかやっぱり口を捜して、月給を取っていた方が気楽のように思うがね。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「僕は又駄目らしい。今日なぞもひどく失敗しくじつて了つた。」私はもつと詳しく自分の事を訴へ、弟の樣子も聞き知りたかつた。
受験生の手記 (旧字旧仮名) / 久米正雄(著)
まったく、あの沙漠だけは「英波石油アングロ・ペルシャン」も捨てている。そうだ、失敗しくじりゃ、焼かれて死ぬ。馬鹿をみるのは、此奴だけの話だ。
人外魔境:10 地軸二万哩 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
そのほうは見事に失敗しくじった。それで今度の絲満事件も、ほら、なんていうんだ、れいの……資金獲得のためにやったんだろうというんです。
金狼 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
これは、何か失敗しくじったり、酔っぱらったりした後で、彼がいつもやる癖であった。どの馬も驚くほど綺麗に磨きたててあった。
「なあに、」と啓介は落付いた声で答えた、「起き上れそうな気がしたので、やってみると、すっかり失敗しくじってしまった。」
二つの途 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
敵情を探るためには斥候せっこうや、探偵たんていが苦心に苦心を重ねてからに、命がけで目的を達しやうとして、十に八、九は失敗しくじるのだ。
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
口上さんが申しわけをしている時に、あんなことを言い出さなければよかったに、あれですっかり失敗しくじってしまったんだよ。
余は実に失敗しくじったと思った。医学士が立って来れば余は暗がりへ隠れる一方だが、それも硝燈を持って来らるればそれ迄だ。
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
手品師め、手品には失敗しくじつたが、うまい事を言つたもので、少将と蕃山と左源太とは、各自めいめい腹のなかでは、「その偉い器量人は多分乃公おれだな。」
「気分なんぞ悪くはない。私はただ動物園になりたくないだけなんだ」うっかり口へ出してしまってから、失敗しくじった! と思ったがもう遅かった。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
それらの點で失敗しくじるといけないといふ懸念けねんは、うまれつきな身體の弱さにも増して私を惱ました。その身體の弱さの苦勞も並大抵なみたいていではなかつたが。
「どうも、失敗しくじってばかりいる」と、にんじんはつぶやく——「それにやつらのきたねえよだれで、こら、指がべたべたすらあ」
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
——(何ツ! くそツ! 俺も男だ。)——(死んだつて関ふものか、滅茶苦茶に飛び出してやらうか!)——(それで失敗しくじるんだよ、落着け/\!)
明るく・暗く (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
津田は失敗しくじったと思った。なぜ早く吉川夫人の来た事を自白してしまわなかったかと後悔した。彼が最初それを口にしなかったのは分別ふんべつの結果であった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
失敗しくじったと思ったが後の祭、「申し遅れましたなんてずるいぞ、卑怯だよ。君は雑誌記者だなんて嘘だろう。女探偵スパイじゃないか? 君は僕を脅迫するのか?」
メフィスト (新字新仮名) / 小山清(著)
木目はよし、小刀のさわりもよいが、武蔵は、彼が珍重してかないのみでなく、失敗しくじると、懸け替えのない材で——と思うと、とうの刻みが、つい硬くなった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
終には三十五年とか勤めてゐた西陣の主人の家をも失敗しくじつて、旅から旅と流れ渡る樣になり、身體の自由が利かなくなつて北海道からこの郷里に歸つて來たのが
山寺 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
かたそうで痛そうであった。自分は変に不愉快に思った。疲れ切ってもいた。一つには今日の失敗しくじり方が余りひど過ぎたので、自分は反抗的にもなってしまっていた。
泥濘 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
悲しみとか失敗しくじつたとかいふ區別のない一種の空腹時のやうな手頼りのない感慨が、そこら一杯にひろがつて來ても、それを選りあらためることの出來ない頭腦には
神のない子 (旧字旧仮名) / 室生犀星(著)
「名案——と、申すほどでは、ござりませぬが、失敗しくじっても、御当家の迷惑にならず、行くのは目付役として、拙者一人でよろしく、ただ、金子きんすが、少々かかります」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
田地まで売って大阪や神戸へ行った者が、よくみい、たいていは失敗しくじってヒョコヒョコ戻ってくるじゃないか。もうけて他所の銭を持って戻る者は十人に一人もありゃせん。
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
無理に将軍家を花見に誘い、毒塗り小柄で討ち取ろうとした。ところがそいつが失敗しくじったので、会員中の美人を利用し、大奥の庭へ入りこませ好色の将軍家を誘い出したのだ。
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
僕は中学校へ入る時も二度失敗しくじっている。受験苦というものをつぶさに嘗めた。それが皆自分の実力の致すところでなくて、ひとえに菊太郎君のお蔭だと思うと、今更恨めしくなる。
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
新「イヽエ私もそれが知れゝば失敗しくじって此家こゝには居られないから、唯一寸ちょっと並んで寝るだけ、肌を一寸ふれてすうっと出ればそれで断念あきらめる、唯ごろッと寝て直ぐに出てくから」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
とうとう失敗しくじっちゃった。惜しい事をしちゃいましたよ。もう来ないかも知れないなあ
耳香水 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
旅から帰ってみりゃ、お前が間男しとって、はらわたは煮えくりかえるごとあるが、明日のパナマ丸を失敗しくじっては、おれの男が立たん。話は全部、パナマ丸の後にする。……マン、ええな?
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
イヤ……アハハハハ……これあ失敗しくじった。うっかりネタをらしちゃった。
キチガイ地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ひろく油渡世あぶらとせいのほうにまで商売の手を伸ばすにつけては、いま、お城のそのほうの御用を一手に引き受けて来た神田三河町の伊豆屋伍兵衛が、婿の神尾喬之助の一件で失敗しくじっている時だから
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
省吾は克く勉強するたちの生徒で、図画とか、習字とか、作文とかは得意だが、毎時いつも理科や数学で失敗しくじつて、丁度十五六番といふところを上つたり下つたりして居る。不思議にも其日は好く出来た。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
『これまで私は何度も何度も失敗しくじりましたが、今度こそは‥‥』
「すっかり失敗しくじって了ったんです、素人探偵は駄目ですよ」
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
「なるほど。……それで、どうして失敗しくじったのじゃ。」
論語物語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
「それが失敗しくじったよ」と、半七は額に皺をみせた。
半七捕物帳:37 松茸 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
俺も失敗しくじったよ。
工場細胞 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
あんなものは最初五、六遍失敗しくじって覚え込むまでは大層面倒なようですけれどもすっかり覚え込むと案外に無造作なものです。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
敵情を探るためには斥候せっこうや、探偵が苦心に苦心を重ねてからに、命がけで目的を達しようとして、十に八九は失敗しくじるのだ。
海城発電 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いずくんぞ知らん、顔の創痍そういは他人の女に手を出して失敗しくじった記念で、勁抜けいばつの一文はソールズベリー卿の論文をそッくりそのまま借用したものに過ぎぬ。
湖畔 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
その神尾様がこちらを失敗しくじったものだから、甲府詰を仰付おおせつかったのだ。お旗本で甲府詰になるのはよくよくで、もう二度と浮ぶ瀬がないようなものだ。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「それでは、まづく唄ふと御褒美ごはうびを下さるといふことになりますね。ぢあ、私は失敗しくじるように努力致しませう。」
わざとやかましく言っておどかして見るのだろうという気もする。あれくらいなことは、今日は失敗しくじっても、二度三度と慣れて来れば造作なく出来そうにも思える。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
万事を明日あすに譲る覚悟をきめた彼は、幾度いくたびかそれを招き寄せようとして失敗しくじったあげく、右を向いたり、左を下にしたり、ただ寝返ねがえりの数を重ねるだけであった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「こりゃ、いかん。驕魔台ヤツデ・クベーダへゆかぬうちに、夜が明けてしまう。おい俺たちはまんまと失敗しくじったぞ」
人外魔境:10 地軸二万哩 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
まえのときじり/\と遠巻にして行こうとして失敗しくじったから……それにはそのときとは時勢も違って来ているから、今度は一おもいに強引にひねろうとしているんだ。
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
「そりゃまあ、何にもせよいまの私は失敗しくじっているのだから大きなこともいえないけれど」
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
品物の仕入れがまずくいったのかというと、客は相当に品物に気を惹かれたように欲しそうな顔を見せているところから考えれば、仕入れが失敗しくじったというわけでもございません。
蒲団 (新字新仮名) / 橘外男(著)