境界きやうがい)” の例文
「僕はいつも考へてゐますが、現代では、大きな事業家と云はれる人々に最も多くさういふ境界きやうがいを經驗してゐるものがあります。」
泡鳴五部作:04 断橋 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
一たびとも嚢家なうか博奕場ばくえきぢやう)に往かずや、いかなる境界きやうがいをも詩人は知らざるべからずとは、吾友フエデリゴの曾て云ひしところなり。
男つて嘘吐うそつきよ。女を口の先でまるめて、自分の境界きやうがいはちやんとしておくのね。私を、こんなところへ連れて来て、思ひ知らせるなンてひどいわ。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
云はば目前の境界きやうがいが、すぐそのまま、地獄の苦艱くげんを現前するのである。自分は二三年前から、この地獄へ堕ちた。一切の事が少しも永続した興味を与へない。
孤独地獄 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「とにかくヂョウジアァナさんのやうに可愛ければ、同じやうな境界きやうがいでも、もつと動かされるでせうに。」
此身は雲井の鳥の羽がひ自由なる書生の境界きやうがいに今しばしは遊ばるゝ心なりしを、先きの日故郷よりの便りに曰く、大旦那さまこと其後の容躰さしたる事は御座なく候へ共
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
それを好加減いゝかげん揣摩しまするくせがつくと、それがすわときさまたげになつて、自分じぶん以上いじやう境界きやうがい豫期よきしてたり、さとりけてたり、充分じゆうぶん突込つつこんでくべきところ頓挫とんざ出來できます。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
慈愛のふところから思ひも寄らぬ孤独の境界きやうがいに投げ出された子供は、力の限り戸をたゝいて、女中の名や、家にはゐない親しい人の名までかはる/″\呼び立てながら、救ひを求めてゐた。
An Incident (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
わたしはどうしてもこんな平凡極まる境界きやうがいを脱して、新しい境界に蹈み込んで見ずにはゐられない。たしかサラトフでの出来事であつたかと思ふ。遊山ゆさんに出た一組が凍え死んだ事がある。
何とせん憐れにも亦いぢらしき有樣よと思ふうち母子おやこの歩みは遲けれど驅ける車の早ければ見顧みかへりても見えずなりぬ此母子このおやこ境界きやうがいはいかならん影の如く是に伴ひて見たしまた成しとげらるゝものならば力を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
開きコリヤ/\假令たとへかくしたりとて出家の境界きやうがい今更其をあかすべきや然而まして一向知らぬこと此身體は素よりかりの世なり殺さば殺せ勝手にしろと云を兩人は聞イヤハヤ此奴こいつ硬情しぶとき坊主めと云樣力に任せて一打あばら
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
これをフアンタジア(空想)の君とはいふなり。われは唯だ平生夢裏に遊べる境界きやうがいを歌はんのみ。その中には同じ神女の宮殿あり、苑囿ゑんいうあり。
一切いつさい衆生しゆうじやうすてものに、わがまヽらしき境界きやうがいこヽろにはなみだみて、しや廿歳はたちのいたづらぶし、一ねんかたまりてうごかざりけるが、いはをもとほなさけさとしがことにしみそめ
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
おせいの事件がなかつたら、かうした、自殺にもひとしい、絶望的な世捨て人の境界きやうがいにはいる事もなかつたであらう。掃除の行きとどいた朝の郵便局の光線は、海の底のやうに静かで、平和であつた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
社會もない境界きやうがいが却つて面白い樣な氣がする。
泡鳴五部作:03 放浪 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
そが上おん身は詩人にて、即興詩もて口を糊せんといふにあらずや。吾黨の自由不羇ふき境界きやうがいを見て心を動すことはなきか。客人試みに此境界を歌ひ給へ。
それは調製こしらへてげられるやうならお目出度めでたいのだものよろこんで調製こしらへるがね、わたし姿すがたておれ、此樣こん容躰ようだいひとさまの仕事しごとをして境界きやうがいではなからうか、まあゆめのやうな約束やくそくさとてわらつてれば
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)