塵埃ごみ)” の例文
不意に辻の六蔵の声、橋の袂から飛び降りると、町内の人達が捨てた塵埃ごみを一と抱えさらって、私とお若の頭の上からサッと掛けます。
その縮れた豚の油は露路から流れて来る塵埃ごみを吸いながら、遠くから伝わる荷車の響きや人の足音に絶えずぶるぶるとふるえていた。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
今のいままでざるの川ながれ塵埃ごみ集結かたまりと見えていた丸い物が、スックと水を抜いて立ちあがったのを眺めると、裸ん坊の泰軒先生!
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
塵埃ごみ残滓かすもそれぞれの時代の歴史性に従って残しつつ更に大きなプラスを持って積極的な進歩のための役割を果すものである。
地を這ふ爬虫むしの一生、塵埃ごみめて生きてゐるのにもたとふれば譬へられる。からだは立つて歩いても、心は多く地を這つて居る。
風呂ふろいてゐましてね、なにか、ぐと石炭せきたんでしたが、なんか、よくきくと、たきつけに古新聞ふるしんぶん塵埃ごみしたさうです。
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
風雨に曝らされた板壁の様子や床に積もった塵埃ごみから推すと、三年、五年、もっと以前まえから小屋は造られてあったものらしい
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
また嘗て事實天の聲を聞いた人の誰が一體そのお召しにかなふものだといふ自信を持ち得るでせう? 例へば僕などは塵埃ごみか灰に過ぎない身です
一杯蜘蛛くも、山のやうに積つた塵埃ごみ、ぷんと鼻をつて来る「時」の臭ひ、なつかしく思つて明けては見たが、かれはすぐその扉を閉めて了つた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
そうしてそれがやがてかにのように醜い、シャチコ張った人間の両手に見えて来ると、その次にはその両手の間から塵埃ごみだらけになった五分刈の頭が
斜坑 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
大掃除の日は、塵埃ごみを山のように積んだ荷馬車が三吉の家の前を通り過ぎた。畳をたたく音がそこここにした。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
江戸に火事があると焼跡に釘拾くぎひろいがウヤ/\出て居る。所で亜米利加アメリカに行て見ると、鉄は丸で塵埃ごみ同様に棄てゝあるので、どうも不思議だと思うたことがある。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
私たちの入った門は半分けはびついてしまって、半分だけが、丁度ちょうど一人だけ通れるように開いていた。門を入るとすぐそこには塵埃ごみが山のように積んであった。
淫売婦 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
下谷青石横町の露路裏のドンヅマリの、塵埃ごみすて場の前にいたが、隣家となりの女髪結さんから夜中火事を出して、髪結さんは荷物を運び出してしまってから騒ぎだした。
塵埃ごみだらけの土産物店の硝子ガラス箱、その中の銅製花瓶、象形文字の敷物、ダマスカス鉄の小武器、すふぃんくす形の卓灯スタンド、金箔塗りの装飾網、埃及柱オベリスクかたどった鉛筆
あらゆる欠点の魅力をのぞけば塵埃ごみのやうな女だつた。二人は、行き交ふ万人の男女に心を惹かれてきたよりも、もつと稀薄な恋心で、いはば獣の情慾で露骨に結び合つたのだ。
Pierre Philosophale (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
少し間のびた顏をしてゐる者があツたら、突倒つきたふす、踏踣ふみのめす、噛付かみつく、かツぱらふ、うなる、わめく、慘たんたる惡戰あくせんだ。だからあせあかとが到處いたるところ充滿いつぱいになツてゐて、東京には塵埃ごみが多い。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
まあ其辺そこら塵埃ごみの無さゝうなところへ坐つて呉れ、油虫が這つて行くから用心しな、野郎ばかりの家は不潔きたないのが粧飾みえだから仕方が無い、おれおまへのやうな好い嚊でも持つたら清潔きれいに為やうよ
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
人間の塵埃ごみ棄場、あらゆる犯罪の巣窟だったが、ベルチョン博士が鑑識課長——後、嘱託——となると同時に、犯罪者は漸く姿を隠して、防止と検挙の実績が統計的に上った事実に徴しても
ロウモン街の自殺ホテル (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
痩せこけた頬にの血色もない、塵埃ごみだらけの短い袷を著て、よごれた白足袋を穿いて、色褪せた花染メリンスの女帶を締めて、赤い木綿の截片きれを頸に捲いて……、俯向いて足の爪尖つまさきを瞠め乍ら
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
ふと箒の先に思わぬ力がはいって折りから掃きためてあった塵埃ごみが飛んで、ちょうど前を歩いていた人の裾から足袋たびへしたたかかかった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
塵埃ごみや紙屑や、瀬戸物の破片、縄端、木片などが散らばり、埋め、短い青草の禿げている空地。校庭から子供達がときどきそこへ転り込んで行った。
都会地図の膨脹 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
それに山の手は霜柱が深く立つて、塵埃ごみが散ばつても、紙屑が風に吹き寄せられても、それを掃くことも出来ない。
樹木と空飛ぶ鳥 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
泥溝どろどぶの中へ塵埃ごみがぱッと投げ込まれると、もうお杉の頭からは、たちまち母親の姿は消えてしまって夜ごとに変る客たちの顔が、次から次へと浮んで来た。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
古莚ふるむしろに山と積んだ、汚ない細かい鉄屑かなくず塵埃ごみと一緒にで釜の中へはかりこまれると、ギラギラした銀色の重い水に解けてゆくのを、いくら見ていてもきなかった。
まあそこらの塵埃ごみのなさそうなところへ坐ってくれ、油虫がって行くから用心しな、野郎ばかりの家は不潔きたないのが粧飾みえだから仕方がない、おれおまえのような好いかかでも持ったら清潔きれいにしようよ
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
痩せこけた頬にの血色もない、塵埃ごみだらけの短かい袷を着て、よごれた白足袋を穿いて、色褪せた花染メリンスの女帯を締めて、赤い木綿の截片きれを頸に捲いて、……俯向いて足の爪尖をみつめ乍ら
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
それは、大学の芝生で、街頭プロムナアドで、キャフェで、その他あらゆる近代的設備の場所で、降るともなく積もるともなく飛び交す、塵埃ごみのように素早い視線の雪だ。一番自由な、無責任な滑走が得られる。
踊る地平線:11 白い謝肉祭 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
亭主は四十五六位の正直な男で、せつせとで大豆や小豆あづきに雑つてゐる塵埃ごみふるつてゐるのを人々はよく見かけた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
間もなく、あちこちの窓から泥溝へ向って塵埃ごみが投げ込まれた。鶏の群は塵埃の舞い立つたびごとに、黄色い羽根を拡げてぱたぱたと裏塀の上を飛び廻った。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
「勿体ねえって云うんなら、住宅にすんのこそ勿体ねえ話だ。畠にして置けえあ、それこそいろんな食う物が湧いて来るのにさ。住宅にして了ったら、せえぜえ、塵埃ごみが関の山だべ。」
都会地図の膨脹 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
高いところなら猫の額でも山という名をつけたがるのが万事よろずに大袈裟な江戸者の癖で、御他聞に洩れず半ば塵埃ごみ捨場のこの小丘も、どうやら見ようによってはそうも見えるというので
一時間ほどたって婆さんが裏に塵埃ごみを捨てに行った時には、縁台の上の客は足をだらりと地に下げて、顔を仰向あおむけに口を少しあいて、心地よさそうに寝ていたが
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
立ちどまったついでに、ぽんぽんからだの塵埃ごみをはたきながら
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)