いん)” の例文
私が幾人も残してく子供を育てヽ下さるであらうと依頼心をあのかたおこすやうになつたのもおつやさんの言葉がいんになつて居るのです。
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
この夏(元禄七年であった)——彼が、国許から転役を命じられて、江戸づめに廻されて来た理由も、そのごつい浪人骨がいんを為していた。
濞かみ浪人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは、多分に彼の変態性の欲望が原因したのであったが、職業とする所の趣味道楽が、ひどくかたまったことも一部のいんをなしていた。
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
因果、又は因縁という言葉は、正確に言いますと、いんえん、ということで、この世の中のあらゆるものの存在のすがたの説明であります。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
なるほど因果と言い放てば因果で済むかも知れない。しかし二十世紀の文明はこのいんきわめなければ承知しない。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
人物の一枯一栄一窮一達はすべて其行為の結果なり。故に行為は結果に対する源因となるなり。禍にかゝるも福を招くもそのげんを尋ぬれば、行為は明然之がいんをなす。
罪過論 (新字旧仮名) / 石橋忍月(著)
この子に霊骨あり、久しく蹩躄べつへきの群を厭ふ。衣を振う万里の道、心事いまだ人に語らず。すなわちいまだ人に語らずといえども、忖度そんたくするにあるいはいんあらん。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
一円で買った菓子折を大事にかかえていんしまといのように細い町並を抜けると、一月の寒く冷たい青い海が漠々と果てもなく広がっていた。何となく胸の焼ける思いなり。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
其後そののち田常でんじやう簡公かんこうころすにおよんで、ことごと高子かうし國子こくしぞくほろぼす。じやう曾孫そうそんいたりて(三三)自立じりふし、いんせい威王ゐわうる。へいもちおこなふ、おほい穰苴じやうしよはふ(三四)ならへり。
そもや御身と我れ、時を同うして此世に生れしは過世すぐせ何のいん、何のくわありてぞ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
譬えばスナワチということばにもそくの字があり、ないの字があり、そくの字があり、便べんの字があり、ヨルという詞にもいんの字があり、の字があり、えんの字があり、ひょうの字があり、きょの字があり
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
故にその衷に有する力はくわにしていんなり
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
かねなきにいんするごとし
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
いんしま塩飽しあくなどの島々に、村上海賊将軍以来の、海の顔役がにらんでいて、“帆銭はんせん”とか“潮道券しおみちけん”とかいう私税を徴発し、ただは通れない所だった。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私たちには、十重とえ八十重はたえいんえんの紐が結びつけられていまして、成功を目標にして努力しても、案外早く酬いられる人もあり、随分遅く酬いられる人もあります。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
明日はいんしまへ行ってみようと思ったりした。
田舎がえり (新字新仮名) / 林芙美子(著)
同族の異端者とて、よく思っていないことが、いんをなしているのだといううわさもある。
でも、こんなおろかないんを作ったのは誰でもないこの宋江自身です。たれがあなたを不義としましょうか。たとえ偽狂人などよそおってみても、しょせん、宋江にはよく出来る芸ではなし、醜態しゅうたい
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
忠盛もまた、白河法皇から、宿の妻にせよと、祇園女御ぎおんのにょごを賜わったことが、いかに、いんをなして、青春を無残なものにしてしまったか。以後の長い、暗欝あんうつな十数年の家庭の悩みとなったことか。