喋舌しゃべ)” の例文
善鬼は、喋舌しゃべるだけ喋舌ると、すたすたと、土間のうちへかくれ、隠しておいた寝酒をさげて、自分の寝屋ねやへもぐりこんでしまった。
剣の四君子:05 小野忠明 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
香具師やしの親方の「釜無の文」は、手下の銅助を向うに廻し、いい気持に喋舌しゃべっていた。傍に檻が置いてあり、中に大鼬が眠っていた。
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
若松の市会議員連は、一ヶ所にかたまって、もの珍しそうに、議場の内部を見まわしながら、しきりと、なにやら喋舌しゃべりあっていた。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
しかし野依さんが自分ひとりいゝ気になつて、とんでもないことを、喋舌しゃべつてお出になつても少しも反感が起つて来ないのは不思議です。
それを見ると去年のさまざまな思い出がやっと彼の中にもよみがえって来た。やがて彼には彼女たちのお喋舌しゃべりが手にとるように聞えてきた。
ルウベンスの偽画 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「旦那も、おひとが悪い。さんざ、ひとに喋舌しゃべらせておいて、ああ、見た、はないでしょう。……それに、あっしまで出しぬいて……」
顎十郎捕物帳:06 三人目 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
何年何月何日にどうしたこうしたとあたかも口からまかせに喋舌しゃべっているようである。しかもその流暢りゅうちょうな弁舌に抑揚があり節奏せっそうがある。
カーライル博物館 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
誰に向っていうともなく喋舌しゃべるのを聞くと、この子の家族はツゲガラオに住んでいて、そのころE君もツゲガラオの病院にいた。
受けるばかりでなく、君はよい気になって喋舌しゃべっていても、ついどんな不用意から、あの恐ろしい糾弾の槍玉にあげられるかもしれないぞ
融和促進 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
それなのに、麗子は平気でこともなげに自分の方から喋舌しゃべってしまいました。私はハッと思うと一瞬間自分の息が止ったかと思いました。
消えた霊媒女 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
その真正面の幕前の中央に、若い背の高い燕尾服の男が出て来て、うやうやしく観客に一礼してのち、何事か喋舌しゃべり出したからであった。
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
だが、彼女は職業の場所に出て、好敵手が見つかると、はじめはちょっとほうけたような表情をしたあとから、いくらでも快活に喋舌しゃべり出す。
老妓抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
君がいわゆる実家さと話柄こととて、喋舌しゃべる杢若の目が光る。と、黒痘痕くろあばたまなこも輝き、天狗、般若、白狐の、六箇むつの眼玉もかッとなる。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
食事の時には、男の子達は、若し話をするにしてもそれは極めて稀で、だから外国人が食事中喋舌しゃべり続けることが、非常に妙に感じられる。
その一つさきの群衆の中心には角帽を冠った大学生風の男が手に一冊の本を携えてしきりに喋舌しゃべっている。否どなっている。
夢の殺人 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
その遺言ゆいごんを書取ってくれといって私は英語でぼちぼち喋舌しゃべりかけたが、なかなか苦しくって言い得なかった。博士は、それは言う必要はない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
この女は恐しく達者そうですが、人は好い方らしく喋舌しゃべらせて置けば市が栄えそうです。もう一人の囃子はやし方の六助は、裏口を掃いておりました。
幸「だから無闇に喋舌しゃべっちゃアいけねえてんだ、掛合かゝりあいに成るよ、此の事に付いて一昨年おとゝし大変に難儀をした者があるんだよ」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
藍皮阿五らんひあごは酒碗を下に置き、平手で老拱の脊骨をいやというほどドヤシつけ、何か意味ありげのことをがやがや喋舌しゃべって
明日 (新字新仮名) / 魯迅(著)
妙なものでこう決定きまると、サアこれからは長谷川と高山の競争だ、お梅さんは何方どっちの物になるだろうと、大声で喋舌しゃべ馬面うまがおの若い連中も出て来た。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「では、なぜ捉えないのだ。犯人のありかを知りながら、こんな所で無駄なお喋舌しゃべりをしていることはないじゃないか」
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
お雪が起きて来て、ヨモヤマの話を始める頃には、下婢も黙って引込んでいない。無智な彼女はまたそれを得意にして、他の娘達よりも喋舌しゃべった。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
弥八 知らねえ勝手に喋舌しゃべれ。(行きがけの駄賃に茂兵衛に向い)野郎。(蹴倒す)ヘッ、大飯食いの癖に弱え奴だ。
一本刀土俵入 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
まったく思いがけない人なのだ。うっかり喋舌しゃべるのはよくないから、名前は預って置くが、それはわしのよく知って居る老人なんだ。時にもう一度念を
好色破邪顕正 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
雪之丞は、べらべらと立て続けに喋舌しゃべりつづける、この吉原かぶりの、小粋な姿を、不思議そうに見つめるばかりだ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
そしてそうしたものを食べながら家人は一時二時までも喋舌しゃべって夜をふかすので、私達の寝る時間とては多くてやっと四、五時間しかないのであった。
そして、そのように喋舌しゃべるという事、その事がすでに彼自身には何とも云えず愉快に感じられるらしくあった。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
幾年ふろに入らなんだなど特書したり、今日の耶蘇ヤソ徒が禁酒とか、公娼廃止とか喋舌しゃべると同程度の変痴気説じゃ。
丸辰は、自分の見ただけのことを勝手に喋舌しゃべって、それから先が判らなくなると、「鯨の祟り」を持出した。
動かぬ鯨群 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
勝は外を通ってる人の声を聞いても時々気疎けうといことがありますぞな。ようあんな下卑げびたことを大きな声で喋舌しゃべってげらげら笑っておられると愛想がきてしまう。
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
呑気に立って喋舌しゃべっていて、相当頻繁にこそこそと入場券購入許可証とゴム印を捺した紙片をもって来る人を、出口から乗車フォームへ通してやっていることだけである。
みのりを豊かに (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「話してはならぬ! やめろっ。やめろっ。あれを喋舌しゃべってはならぬ! 言うのはやめろっ」
十万石の怪談 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
滅多なことは喋舌しゃべれねえんだ。それに気を配ばらずに、小僧っ児みたいな、気焔をあげるのが、ドジさ。大人気ない話よ。網んなかで跳ね廻わるようなもんじゃねえか。馬鹿な
放浪の宿 (新字新仮名) / 里村欣三(著)
「まだだ」と松次郎が一人で喋舌しゃべった。「弁当持っとるけんど、食べるとこがねえもん」
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
その晩、芥川氏が何を喋舌しゃべったかは、すっかり忘れてしまったが、唯いくらか前屈みに演壇に立って、蒼白い額に垂れかかる長い髪の毛をうるさそうに払いのけながら、開口一番
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
庄亮はと見ると、本来が雄弁家だが一人で喋舌しゃべってもわるいと思ったかして、簡単に「皆さん、ありがとう。」と頭を下げてすました。そこで一同が急にくつろぎ出した。笑い声が方々に起った。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
そこで私はいつもハイカラであるから、何らも憚らず、聞き噛りの自由主義などを喋舌しゃべった。それが、あたかも岩村氏の意に投じたので俄に抜擢されて十一等出仕の学務課勤務を命ぜられた。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
飲む程に喋舌しゃべる程に、熱を上げ、降りしきる虫の声も眠る頃に及ンでやっと三人かたまり五人集って、三里の道を博多へと帰り始めたとお思い下さい。勿論その時分乗りものが有ろう筈もない。
夢の如く出現した彼 (新字新仮名) / 青柳喜兵衛(著)
どう辻褄が合うものかヨ、隣の飯場に居る玉の井の淫売殺しをやった木村ッてノッポが居るだろう、彼奴も誰が何と云おうと喋舌しゃべり立ててやると言ってたサ、四、五人が先棒になって喋舌れば
監獄部屋 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
時々三十ばかりの女が小さい娘をつれて訪ねて来ると、水菓子などを食べて、気楽そうに半日喋舌しゃべって遊んで行った。宿の娘から借りた琴が、主人公の方のだるい唄の声につれて掻き鳴らされた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「いえ、実あ、今日うかがいましたのは、このお方のことなんで——この黒門町が、ってのお願いと申しますのは——コレ、神尾さま、あなた様からも、何とか御挨拶して下さいまし、わっしにばかり喋舌しゃべらせねえで」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「おやすみなさい」と喋舌しゃべります。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
「その弁解をいたしますと、自然大蔵どのの秘密を喋舌しゃべってしまうことになりますから、何といわれても、今は隠忍いんにんしておりまする」
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
及び腰をして待ち設けたが、それとも感付かぬ岩向こうの人数、ガヤガヤ喋舌しゃべりながら近付いて来た。その時小一郎は声をかけた。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
自分の愚痴ばかりをなが/\と喋舌しゃべりたててすみません。私はたつまへにあなたの御本について何か書くことをお約束しました。
だが、彼女は職業の場所に出て、好敵手が見つかると、はじめはちょっとほうけたような表情をしたあとから、いくらでも快活に喋舌しゃべり出す。
老妓抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
狸でも赤シャツでも人物から云うと、おれよりも下等だが、弁舌はなかなか達者だから、まずい事を喋舌しゃべって揚足あげあしを取られちゃ面白くない。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
誰でも全身麻酔にかかると、飛んでもない秘密をペラペラ喋舌しゃべるもの………っていう事を歌原未亡人は誰からか聞いて知っていたんでしょう。
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その井戸に水をみに来る女たちのむさくるしい姿はどうにか見ずにすんだが、彼女等が濁った声で喋舌しゃべり合っているのは絶えず聞えてきた。
三つの挿話 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
日本語がまるで喋舌しゃべれぬことを述べると、彼は大学の学生は全部入学する前に英語を了解し、かつ話さねばならぬことになっていると答えた。