吹矢ふきや)” の例文
どこからともなく飛んで来た一本の吹矢ふきや、咳き込むはずみに、少し前屈みになった又左衛門の二の腕へ深々と突っ立ったのです。
何うで盲目縞の筒袖に三尺を脊負つてて來たのだらうから、しぶを買ひに行く時かすりでも取つて吹矢ふきやの一本も當りを取るのが好い運さ
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
和蘭オランダ渡りで遠くの人を呼ぶ道具……。吹矢ふきやの筒のようなもの……。成程それに違げえねえ。わっしも一度見たことがある」
娘義太夫、おでんや、稲荷いなりずし、吹矢ふきや小見世物こみせものが今の忠魂碑の建っている辺まで続いておりました。この辺をすべて山王下といったものです。
城は公園を出る方で、其処そこにも影がないとすると、吹矢ふきやの道をのぼつたに相違ない。で、あとへ続くには堪へられぬ。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
高々たかだかのぼっているらしく、いまさら気付きづいた雨戸あまど隙間すきまには、なだらかなひかりが、吹矢ふきやんだように、こまいのあらわれたかべすそながんでいた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
女は、もはやうにことれていた。そして、左の頸と肩との附根つけねの所に、鋭い吹矢ふきやが深々と喰い込んでささっている。おびただしい出血は、それがためのものであるらしい。
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
飛騨ひだのくに保良ほら吹矢ふきや村に(いま郡名村名ともに廃絶しているのは残念である)
そうしてその山椒魚さんしよううをに似たあやしい皮膚の、小さなゐもりじやうの一群を恐ろしいもののやうに、覗きに行つた。後には吹矢ふきやのさきを二つにいて、その眼やあたまねらつて殺してあるいたこともある。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
日本橋区馬喰町ばくろちょうの裏に郡代ぐんだいとよぶ土地があって、楊弓や吹矢ふきやの店が連なった盛り場だったが、徳川幕府の時世に、代官のある土地の争いや、旗本の知行地ちぎょうちでの訴訟は、この郡代へ訴えたものとかで
なアに腕の一本位に驚く私ぢやないが、やり口が如何にも憎い。刀かやりで向つて來るなら兎も角、風呂場で煙責にして置いて、毒を塗つた吹矢ふきや
しぶひにときかすりでもつて吹矢ふきや一本いつぽんあたりをるのがうんさ、おまへさんなぞは以前もと立派りつぱひとだといふからいま上等じやうとううん馬車ばしやつてむかひにやすのさ
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
吹矢ふきやみちから公園へ入らないで、引返ひきかえしたので、……涼傘ひがさ投遣なげやりにかざしながら、そでを柔かに、手首をやゝ硬くして、彼処あすこで抜いた白金プラチナ鸚鵡おうむかんざし、其の翼を一寸ちょっとつまんで
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
まことは——吹矢ふきやも、ばけものと名のついたので、幽霊の廂合ひあわいの幕からさかさまにぶら下り、見越入道みこしにゅうどうあつらへた穴からヌツと出る。雪女はこしらへの黒塀くろべいうっすり立ち、産女鳥うぶめどり石地蔵いしじぞうと並んで悄乎しょんぼりたたずむ。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
四文銭をほうらせたのは、第一回からの特技で、これは『水滸伝』の没羽箭張清ぼつうせんちょうせいが、腰に下げた錦の袋を探って石を投るのと同一型の思い付きに過ぎない、毛利玄達もうりげんたつ吹矢ふきや、八丁つぶての喜平次の礫
銭形平次打明け話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「尻に吹矢ふきやを射込まれて居ります」