取落とりおと)” の例文
一ツの羽子をならびたちてつくゆゑに、あやまちて取落とりおとしたるものははじめに定ありて、あるひは雪をうちかけ、又はかしらより雪をあぶする。
先年溜池ためいけにて愚僧が手にかゝり相果て候かの得念が事、また百両の財布取落とりおとし候さむらいの事も、その後は如何いかが相なり候と、折々夢にも見申みもうし候間
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
殺したりと白状はくじやういたせどもぬすみたる金も見えず又女を殺したる刄物はものもなしとるに旅僧頭を上げ其せつぬすみし金子きんす刄物はものにげせつ取落とりおとし身一つになり候處を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
おりから夕餉ゆうげぜんむかおうとしていたおれんは、突然とつぜんにしたはし取落とりおとすと、そのまま狂気きょうきしたように、ふらふらッと立上たちあがって、跣足はだしのまま庭先にわさきへとりてった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「それなら、ある筈ですが、困ったことに二三日前に森川さんが取落とりおとして割ってしまいましたが」
物ぐるほしけれど箱庭はこにはに作りたるいしひとつ水のおもにそと取落とりおとせば、さゞ波すこし分れて是れにぞ月のかげたゞよひぬ、くはかなき事して見せつれば甥なる子の小さきが真似て
月の夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
うらみにくみも火上の氷、思わず珠運はなた取落とりおとして、恋の叶わずおもいの切れぬを流石さすが男の男泣き、一声のんで身をもがき、其儘そのままドウとす途端、ガタリと何かの倒るゝ音して天よりいでしか地よりわきしか
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
一ツの羽子をならびたちてつくゆゑに、あやまちて取落とりおとしたるものははじめに定ありて、あるひは雪をうちかけ、又はかしらより雪をあぶする。
足溜あしだまりなくける機會はづみもの取落とりおとして、一まいはづれし溝板どぶいたのひまよりざら/\とこぼれば、した行水ゆくみづきたなき溝泥どぶどろなり、幾度いくたびのぞいてはたれどれをばなんとしてひろはれませう
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
去月下旬用向ありて隣村りんそんへ參りて途中に於て取落とりおとせしに相違さうゐなく其上私し儀は六月二十六日出立しゆつたつ仕つり古河のざい藤田村儀左衞門方へ一ぱく致し二十七日は栃木とちぎ町油屋徳右衞門の方にまかあり私し在所より十二里餘の場所なる故小篠堤にて平兵衞を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
下女が座敷の袋戸棚ふくろとだなより見付出し候が然ればとて何處の何某なにがしいふ御人なるか聞ても置ねば御屆け申べき便たよりもなし併し言葉遣ひは中國筋の御人と見請たれば其後は中國ちうごく言葉の御客と見る時は若や斯樣かやうの人は御存じなきや御逢成る事も有らば其の節取落とりおとされし印籠は私し方に確におあづかり申置候へば此由を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)