化粧けしやう)” の例文
いさゝか平常ふだん化粧けしやうたがふことなかりしとぞ。いま庇髮ひさしがみ、あのおびたゞしくかほみだれたるびんのほつれは如何いかにはたしてこれなんてうをなすものぞ。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
うかゞへば女の化粧けしやうする動靜やうすなり何心なくのぞこめば年の頃は十八九の娘の容色きりやうすぐれ美麗うつくしきが服紗ふくさより一ツの金包かねつゝみを取出し中より四五りやうわけて紙に包み跡を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「表は締つて居て、叩いても押しても開きやしません。裏へ廻つて飛び込むと、主人の周太郎、男のくせに、鏡と首つ引で化粧けしやうをして居るぢやありませんか」
路傍みちばたに寝てる犬をおどろかしていきほひよくけ去つた車のあとに、えもはれず立迷たちまよつた化粧けしやうにほひが、いかに苦しく、いかにせつなく身中みうちにしみ渡つたであらう………。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
翌朝、富岡が眼を覚ました時には、ゆき子はおせいの姫鏡台の前で化粧けしやうをしてゐた。雨はからりとあがつて、秋によくあるやうな、青い澄みきつた空であつた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
薙刀なぎなたかゝへた白衣姿の小池と、母親が丹精たんせいこらした化粧けしやうの中に凉しい眼鼻を浮べて、紅い唇をつぼめたお光とが、連れ立つて歸つて行くのを、町の人は取り卷くやうにして眼をそゝいだ。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
こめつ可笑をかしく面白おもしろものがたりながらしづみがちなるしゆ心根こゝろねいぢらしくも氣遣きづかはしくはなれぬまもりにこれもひとつの關所せきしよなり如何いかにしてかえらるべき如何いかにしてかのがるべきおたかかみとりあげず化粧けしやうもせずよそほひしむかし紅白粉べにおしろい
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あせと、わきがと、湯無精ゆぶしやうのぞいては、をんなは——化粧けしやう香料かうれうのほか、だしなみのいゝをんなは、くさくはないものとおもつてる。はゞかりながらはなはきく。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
年紀としわかい、十三四か、それとも五六、七八か、めじりべにれたらしいまで極彩色ごくさいしき化粧けしやうしたが、はげしくつかれたとえて、恍惚うつとりとしてほゝ蒼味あをみがさして、透通すきとほるほどいろしろい。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)