出家しゅっけ)” の例文
念のために容子ようすを聞くと、年紀としは六十近い、被布ひふを着ておらるるが、出家しゅっけのようで、すらりと痩せた、人品じんぴん法体ほったいだという。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「私は出家しゅっけです。山の洞穴ほらあなの中に家があります。おとめしてもよろしゅうございます。何も恐しいことはありませんよ。」
翩翩 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
その児は十五になつた時、初めて母の死を聞いて、にわか出家しゅっけをやめて里へ出で、池田の宿にあるいえに雇はれながら、ひそかにかたきをさがしてゐた。
小夜の中山夜啼石 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
直実なおざねは何人力だったか知らないが、出家しゅっけをしても、「熊谷法力坊入道蓮生法師くまがいほうりきぼうにゅうどうれんしょうほうし」といって未だ鉄の棒でも振り廻しそうだ。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そうすると外の兵士共や見物人が一同にどっと笑い出し、中にはあざけるような人もあったです。この時ばかりは何ぼ心ない出家しゅっけの身にも不愉快を感じました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
そのとき私は王の……だったのですがこの絵ができてから王さまはころされわたくしどもはいっしょに出家しゅっけしたのでしたが敵王てきおうがきて寺をくとき二日ほど俗服ぞくふく
雁の童子 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
月日たつにつれ自然出家しゅっけの念願起りきたり、十七歳の春剃髪ていはつ致し、宗学修業しゅぎょう専念に心懸こころがけあいだ、寮主雲石殿も末頼母たのもしき者に思召おぼしめされ、ことほか深切しんせつに御指南なし下され候処
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
中にはまた、あの鼻だから出家しゅっけしたのだろうと批評する者さえあった。しかし内供は、自分が僧であるために、幾分でもこの鼻にわずらわされる事が少くなったと思っていない。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
およそこの種の人は遁世とんせい出家しゅっけして死者の菩提ぼだいとむらうの例もあれども、今の世間の風潮にて出家しゅっけ落飾らくしょく不似合ふにあいとならば、ただその身を社会の暗処あんしょかくしてその生活を質素しっそにし
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
しかし、ただたすけるというのが業腹ごうはらにおおもいなら、こうしましょう。この男を今日きょうからさむらいをやめさせて、わたしの弟子でしにして、出家しゅっけさせます。それで堪忍かんにんしておやりなさい。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
灯ともしごろの朱雀の辻で、こういって別れた佐藤義清が、それからちょうど、一月後の十月十五日、突然、出家しゅっけしたといううわさには、清盛も、少なからず、驚かされた。
だから出家しゅっけの心持ちにはかなり同情があるらしく、妻子をすてて寺にはいった人の話などをするにも、どこか力がこもっていた。叡山で発狂した修道者の話などはすご味さえあった。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
出家しゅっけをするがいい、坊。
「十万億土の夢を見て、豁然かつぜんとして大悟一番したんだ。一出家しゅっけ功徳くどくによって九族きゅうぞくてんしょうずというんだから素晴らしい。僕は甘んじて犠牲になる」
合縁奇縁 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
その押し問答のあいだに、次郎兵衛は単に隠居するばかりでなく、隠居と同時に出家しゅっけする決心であることが判ったので、女房も番頭も又おどろいた。
半七捕物帳:16 津の国屋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この理由は私の決心をするのに一つの補助をなしたもので、その実私は二十五歳で出家しゅっけしてから、寺や宗門しゅうもんの事務の為に充分仏道を専修することが出来なかった。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
はッと心付くと、あさ法衣ころもそでをかさねて、出家しゅっけが一人、裾短すそみじか藁草履わらぞうり穿きしめて間近まぢかに来ていた。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この勝久とて、一度は出家しゅっけして、まったく世から葬られていたのを、そちのため、家名再興の志を立て、尠なくも今日まで、何十度の合戦に、怨敵おんてき毛利家をなやまし苦しめて来たことは事実だった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
尼提にだいよ、お前もわたしのように出家しゅっけせぬか!」
尼提 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「中途半端だよ。それぐらい申訳がないと思うなら、腹を切るなり出家しゅっけをするなり、もっと徹底的にやればい」
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
まさかに聞いたほどでもあるまいが、それが本当ならば見殺みごろしじゃ、どの道私は出家しゅっけの体、日がれるまでに宿へ着いて屋根の下に寝るにはおよばぬ、追着おッついて引戻してやろう。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それから彼は再び山へ戻つて出家しゅっけになつた。その寺には彼の無間むげんの鐘がある。
小夜の中山夜啼石 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
「形は仕方がない。髪も敢えて剃らないが、心持は出家しゅっけことなるところがない」
人生正会員 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
出家しゅっけのいうことでも、おしえだの、いましめだの、説法とばかりは限らぬ、若いの、聞かっしゃい、と言って語り出した。後で聞くと宗門名誉しゅうもんめいよの説教師で、六明寺りくみんじ宗朝しゅうちょうという大和尚だいおしょうであったそうな。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「私共は熊谷ほど悟り切れませんから、彼処あそことてもあゝ参りません。何うしても苦情らしくなります。何しろ女房に相談なしに頭を円めて出家しゅっけをするんですから、筋が無理でございますよ」
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
いやわし出家しゅっけじゃありません。」
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)