)” の例文
それでも自分自身がけがれた色町へ踏み込むよりは、いっそ半九郎に頼んだ方がしであろうと思い返して、彼は努めて丁寧に言った。
鳥辺山心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しかし、俺は、悟空の(力と調和された)智慧ちえと判断の高さとを何ものにもして高く買う。悟空は教養が高いとさえ思うこともある。
前とちょっとも変ったことないばっかりか、前よりしっくりと行くのんやし、むやみに事荒立てるよりもその方が何ぼしか分れへん。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それならば、おまえはすべての悪事を暴露されても、どうすることも出来えないような、弱い女の境遇のほうが、むしろしだと思うのか
それにつけても、さッきの奴等は人間だか棒杭だか訳がわからない、一層棒杭の方が口をきかないだけに、ずっとしだ。
沓掛時次郎 三幕十場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
しつきりなしの人の乘降のりおり、よくも間違が起らぬものと不思議に堪へなかつた。電車に一町乘るよりは、山路を三里素足はだしで歩いた方が遙かしだ。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
どこの乞食の果てか知れぬ、こんな見苦しい死骸を背負いこむ位いなら、いっそ事実を公表したほうがしなので、茶番じみた愁傷を尻眼にかけ
湖畔 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
これはお冬にもして美しい容貌きりやうですが、何處か病身らしく、日蔭の花のやうにたよりない娘です。年の頃は十八九。
「多くの人がそこへ(行こうと思っても)行かれません。また多くの人は(そんな所へ行く位なら)いっそ死んだ方がしだと思って居りましょう。」
わたしもそうさ、一眼見た時から、商人あきゅうどじゃないと睨んでいたが、思うにしたえた腕前、ほんとに妾ア惚れたよ」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
もしまた、そんな雅量を見せそうもないと認めたらば、僕はなんにも言わないで、いっさいをそのままに保留しておくほうがむしろしであろうと思った。
コンパクトとか下駄げたとか、珍しく見立てて買ってくれるかと思うと、決まってそれとほぼ同値の、またはそれより少ししの類似の品を一緒に買うのであった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
声調の上からいえばミダルトモでもサヤゲドモよりもさっている。併しミダレドモと訓むならばもっとよいのだから、私はミダレドモの訓に執着するものである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
そうすれば従妹を貰ったよりお登和さんを貰った方がはるかしだという事もお分りになるだろう。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
何といっても年が年だから今よりはまあしだったろうさ、いや何もそう見っともなく無かったからという訳ばかりでも無かったろうが、とにかくある娘に思われたのだ。
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「そやけど、乞食してるよりしやらう、元が元やよつて、丁度つてるかも知れへん。」
乳の匂ひ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
またイキシイオン(ギリシャ伝説中の人)であったらわれわれの話などを聴くくらいならばオルレンドルフ氏のお説教でも聞いているほうがしだと思わざるを得ないくらいに
然しながら碧色の草花の中で、彼はつゆ草の其れにした美しい碧色を知らぬ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
よその男に似た面影を見出すことの余り恐ろしさに、二度とこの子の顔を見ない方がしだとさえも思った。しかし或る一つの力が、どうしても視線を子の顔の方へ引きつけずにはおかなかった。
生さぬ児 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
腐肉くされにくたか蒼蠅あをばへでもロミオには幸福者しあはせものぢゃ、風雅みやびた分際ぶんざいぢゃ。
ウイスキーの強くかなしき口あたりそれにもして春の暮れゆく
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
合徳利ごうどくりでもいっぱいにつれば一入りの空徳利からどくりさる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
願はく彼の讓らんを、*我の王權彼にし、 160
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
あんな奴の餌食えじきになるは死にした大不幸だ。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
自分も水野と同じ罪科に逢った方がむしろしであったかとも考えられた。彼はなまじいに生かして置かれるのを怨めしく思った。
番町皿屋敷 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
落ち着きはろてなさって「会わんといたかてどうせ疑がわれるぐらいなら、会うた方がしや思てん。」「何で僕に内証でそんなことした?」
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
しつきりなしの人の乗降、よくも間違が起らぬものと不思議に堪へなかつた。電車に一町乗るよりは、山路を三里素足で歩いた方がはるしだ。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
これはお冬にもして美しい容貌きりょうですが、どこか病身らしく、日蔭の花のようにたよりない娘です。年の頃は十八九。
果たして私の思惑通り、この大風呂敷が図に当たり、予想にもした大繁盛が訪ずれて来たのでございます。
正雪の遺書 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そして、それから「丸っ切り眼のないものはまだしも悪の眼を持っているよりしですよ、盲人の旦那」
窮屈な父の膝下から解放されるのは何にもしてありがたかッたから、早速外遊の仕度にとりかかり、その年の十二月、横浜解纜かいらんの英船メレー号に便乗して、匆々に日本を離れた。
湖畔 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
たぶん僕がやった祝儀が足りなかったので、不満足であったのであろうが、僕としては、はっきりと心の不平をあらわしてもらったほうが、黙っていられるよりもしだと思った。
今度は少ししなのが来たと思うと、お座敷が陰気で裏が返らなかったり、少し調子がいいと思っていると、客をふるので出先からおしりが来たり、みすみす子供がいものになると思っても
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「捨てるくらいなら、この子と一緒に死ぬるがしだ」
小さきもの (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
召し捕られて重罪に処せられるよりも、コロリで死んだがしであろう。運のいい野郎だ、と云われたものも無理はなかった。
半七捕物帳:55 かむろ蛇 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
殊に何よりも辛かつたのは眼瞬まばたきの出来ないことで、こんな切ない思ひをするなら、いっそほんとに死んだ方がしであつた
しかし、それにもして私は、『支那の鼓タンブラン・シノア』や『ロザムンデの舞曲』や、『愛の悲しみ』などに示したクライスラーの美しさを忘れることは出来ない。
三十郎の手に捕えられようと、この洞内で饑え死ぬより、まだまだしだと思うようになった。
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「こんなものでも無いよりはしだ」
空家 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
また、その人々のうちには、あの時いっそと思いに死んだ方がしであったなどと思った人もないとはいえない。世にいたましいことである。
九月四日 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「嫁に欲しいと言つたつて、あれぢや人身御供ひとみごくう同樣で、まだしも岩見重太郎に退治される猅々ひゝの方がしでさ」
銭形平次捕物控:180 罠 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
此のお方こそ誰方どなた様にもして御寵愛がありそうなものだと存じましたのに、そうでもござりませなんだのは、やはりお子様がなかったせいでござりましょうか。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「別に変った覚えもねえ」「いいや変った、大変りだ。この頃しきりに考え込むようになった。そうして元気がなくなった。そうかと思うと歌を唄うと、まえにもしてうめえものだ」
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
さすがは泰親の眼識めがねほどあって、年にもして彼の上達は実に目ざましいもので、明けてようよう十九の彼は、ほかの故参の弟子どもを乗り越えて
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
信子嬢の伴奏が、兄幾久雄のヴァイオリンにもして、その日の聴衆を酔わせたことは申すまでもありません。
天才兄妹 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
前にもして見張りや夜警を励行し、番所の数を増やし、近習の武士を月番で監督の任に当らせた。
「如法暗夜の火取り虫を、室へひそかに忍ばせたと見える」呟くと共に三太夫は、ハーッと息を吐き出した。と見よ火影は次第に明るみ、室は真昼のそれかのように、以前にもして輝いた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しかし彼女は人形ひとがたをあぶったり、玉子に針を刺したりして、薄情の男を呪い殺すよりも、いっそこっちから彼を突き放してしまう方がしだと考えた。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
辰三の教へてくれた路地を入ると、これはいくらかしの小ぢんまりした住居で、主人の喜十郎の外に、召使の婆さんが一人、これもヨタヨタして居ります。
自分や雪子がかつてないはずかしめを受けたと云う感がするのであったが、それにもして、今は妹の容貌ようぼういなみようのないきずが出来たと云うこと、取るに足らない些細ささいなものであったにしても
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)