使嗾しそう)” の例文
衣裳屋のショーウインドウのマネキン人形はまだ消えない朝の電燈の下で今年の秋の流行はペルシャ野羊やぎであることを使嗾しそうして居る。
ドーヴィル物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
學生を使嗾しそうして一緒に採集に出かけたりしたが、一つは年齡のゆゑ、後には時勢のゆゑで、折角の樂しみは成育を礙碍がいがいせられた。
すかんぽ (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
四人を使嗾しそうして綱宗に遊蕩をすすめ、かれらを使嗾したという事実、を湮滅いんめつするために、七兵衛らを煽動せんどうしてこれを暗殺した。
随分沢山人を斬っている、というその一面には、会津に上手な使い手があって、近藤等を煽動し、使嗾しそうしてうまく働かせた。
話に聞いた近藤勇 (新字新仮名) / 三田村鳶魚(著)
もし叩きつけるとすれば、彼ら三人を無心に使嗾しそうして、自分に当擦あてこすりをやらせる天に向ってするよりほかに仕方がなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「なんだって、無頼者ならずもの使嗾しそうして僕をこんな所へ引っぱって来たんですか。君たちは白昼に追剥おいはぎでもやろうっていうのか」
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つまり、あの男が昨日わたしのところへ話しに来たのは、自分の意志から出たことか、それとも、あなたの使嗾しそうによるものか? という問題ですな。
この間、台中法院より竹井検察官が埔里に急行し、蕃人使嗾しそうの嫌疑ある本島人被疑者を片はしから検挙した。
霧の蕃社 (新字新仮名) / 中村地平(著)
それは、川波大尉こそは、第一話に出て来た熊内中尉に、あの恐ろしい無理心中を使嗾しそうした悪漢だった。
恐しき通夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
上に立っている大物が、我々の主義と行動とを押さえつけよう苅り取ろうと、代官松を使嗾しそうしたのだ。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
and as an idea came to her 歩道に急止して私を使嗾しそうしたのである。
すると友達の悪太郎に使嗾しそうせられて、隣村の林檎畑りんごばたけ夜襲ナイトレーデを行ったことを、歴然と思い出しました。それは少年の心をわくわくさせるようなロマンチックな冒険でした。
若杉裁判長 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
斯くて前記永禄二年己未つちのとひつじの正月、織部正の命を受けて志太遠江守しだとおとうみのかみの軍勢は浅沼郡へ進発したが、檜垣の門徒等は在々所々の土民百姓共を使嗾しそうして至る所に一揆いっきを起させ
僕たちを使嗾しそうさせ、あんな愚劣な朗読劇なんかで王をためさせて、それでも王は平気だから僕たちはがっかりして、あの恐ろしい疑いもおのずから僕たちの胸から消え去り
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
さらにその子供を使嗾しそうして親爺おやじの金を持ち出させた親ざるはやはり一種の搾取者である。
さるかに合戦と桃太郎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
中には父兄の使嗾しそうによって、かえって盛んに自尊心を高ぶらす者もあるやに聞きますが、しかもその裏面うらにおいて、いっそう気の毒な心の底のあることを、考えねばなりません。
融和促進 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
あるいは、父親が使嗾しそうして、子どもたちにまま母を殺させたとも考えられるのです。
それに『リシュリュウ機密閣ブラック・キャビネット史』を当てたのでしたけれども、恐らくその人名は、家族の者にも、また貴方がた捜査官にも、なんらかの使嗾しそうを起さずにいまいと考えられておりました。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
(玄茂も常陸の者である、けだし玄明の一族、或は玄茂即玄明であらう。)此時、此等の大変に感じて精神異常を起したものか、それとも玄明等しくは何人かの使嗾しそうに出でたか知らぬが
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
そこで、老人自身は身を隠しながら、ルンペンどもを使嗾しそうして、反対に探偵を苦しめようとしているのかもしれない。それには、明智が獣人恩田に変装しているのが、もっけの幸いではないか。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
六師の異端なお盛んに行われた時、栴遮摩那耆せんしゃまなきてふ女がその師に使嗾しそうされて、日々まじめ顔で仏の説法を聴きに通う内、腹に草を包み日々膨脹せしめ、後には木鉢を腹につないで臨月の体を示した。
小野田はその妻や娘を売物にすることをく知っている、思附のある興行師か何ぞのような自分の計劃けいかくで、成功と虚栄にかわいている彼女を使嗾しそうする術を得たかのように、自信のある目を輝かしていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
あのこととは、いうまでもなく、彼が奈良井の大蔵に使嗾しそうされて機をうかがっていた「新将軍狙撃そげき」のたくらみ事であった。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
中学の教師堀田某ほったぼうと、近頃ちかごろ東京から赴任ふにんした生意気なる某とが、順良なる生徒を使嗾しそうしてこの騒動そうどう喚起かんきせるのみならず、両人は現場にあって生徒を指揮したる上
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
実に黒河内の使嗾しそうによる者で、主立つ者は二人——一人はT市の壁蝨だにというべき、有名なる無頼漢『深夜の市長』と、もう一人は愕くなかれ現職の司法官浅間新十郎という悪役人だッ
深夜の市長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼らは山法師の使嗾しそうによって建仁寺を破壊した。仏光寺を破壊した。天龍寺を破壊した。法然上人の墓処を破却した。彼らは実に僧兵の下働きとして、暴力団の任務を行ったのであった。
賤民概説 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
犬は、こういう酷寒の地では雪中にもぐって、眠る——と、いうことが重大な使嗾しそうとなった。その夜、これまで解けなかった「冥路の国」の怪が、彼にやっと分ったような気がしたのだ。
人外魔境:08 遊魂境 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
ルンペンどもを使嗾しそうして彼を襲撃させる理由がない。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「すると、久世侯は使嗾しそうされたというのか」
それと僧妙吉とが結託して、打倒高家こうけの要を、事あるごとに直義へ使嗾しそうし、直義もまた、それに傾いていると、道誉はすべてを吐いたように話した。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
子供の時、親爺の使嗾しそうで、夜中にわざわざ青山の墓地まで出掛けた事がある。気味のわるいのを我慢して一時間も居たら、たまらなくなって、蒼青まっさおな顔をしてうちへ帰って来た。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかしダリアの使嗾しそうに乗った理学士も、金庫の金を盗んだり、それからダリアの喜びそうもない情婦じょうふ桃枝のことを手紙から知られると、すっかりダリアに秘密を握られてしまった恰好かっこうになった。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
常にぎょうを行う際に、くらが占めている座席であり、かつまたその高さが彼女の眼の位置だとすれば、当然それと対座している十四郎との関係に、なにか滝人を、使嗾しそうするものがあったに相違ない。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
もちろん、その袁紹が、一方では公孫瓚を使嗾しそうしているなどとは知らないので、韓馥は大いに驚いて、群臣と共に、どうしたものかと、評議にかけた。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
法水は必死の精気をらしてすべてを伸子に集注しようとした。かつての「コンスタンス・ケント事件」や「グリーン殺人事件」等の教訓が、この場合、反覆的な観察を使嗾しそうしてくるからである。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
と、使嗾しそうして、追手をかけ、追手は城外の船入堤ふないりつつみで、与十郎を捕え、めった斬りにして、その首を持って帰った。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『まだようわからぬ、それ程、この身をかぼうてくれるおん身が、なぜ、捕手を使嗾しそうして、私を苦しめたのですか』
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一つ 混乱にじょうじて、部下の兇兵を使嗾しそうし、宮に害刃を加えたてまつる。天人ともに憎むところ。その罪の八。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(——文化の破壊者だ。野放図のほうずもない魔王が、獣群を使嗾しそうして、社会を野原とまちがえて出て来たものだ)
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
本願寺と通じては、本願寺からかねを取り、近畿きんきの不平分子を使嗾しそうしては、時々、信長の裏を掻く。そして気配がわるければ、それをなだめて、自分の功とする。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また、松平家ともあるものが、微々たる浪人者を使嗾しそうしたようで世間の聞こえもどうかと思われる。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あの折、織田殿の名をもって、この堺へも、二万金の賦課ふかがいい渡されたのです。それを、背後にある三好党の使嗾しそうで、わしたち堺の代表者は、きっぱりねつけました。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もっとも雨龍に殺す意志がなくても、玄蕃はきっと前からの行きがかりで、自分を殺すように使嗾しそうするだろう——しかし、判らないのはここにいる雨龍の妾らしい女の振舞いだ。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
袁術と、亡父孫堅とは、交わりのあった仲であるのみならず、孫堅が劉表りゅうひょうと戦って、曲阿の地で討死したのも——まったく袁術の使嗾しそうがあの合戦の動機でもあったから、——袁術も同情して
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、五台四めいの峰にのりをともしたのは、神輿みこしをかついで朝廷へ嗷訴ごうそするためだったか。政治に容喙ようかいして特権をたくましゅうするためだったか。武力とむすび権門を使嗾しそうし、世をみだすためだったか。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それをまたご意見もせず、かえって使嗾しそうする側臣などもおりますために
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
宮津一藩を使嗾しそうしたのではあるまいかと個人的な考察もつけ加えた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「さては、光秀を使嗾しそうして、他国へ使いさせたにちがいない」
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、いわんばかりに、眼でぎらぎらと、使嗾しそうした。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)