体中からだじゅう)” の例文
旧字:體中
家来の三匹の鬼は大将ほど大きな牙は生えていないが、目の光るところを見ただけでも勘太郎は体中からだじゅうがすくむような気持ちになった。
鬼退治 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
暫くして女がふと心付くと、く寐た跡のように爽快な感じが体中からだじゅうみなぎっていた。女は立ち上がって、卸してあった窓掛を巻き上げた。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
保名やすな家来けらいのこらずたれて、保名やすな体中からだじゅう刀傷かたなきず矢傷やきずった上に、大ぜいに手足てあしをつかまえられて、とりこにされてしまいました。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
お前のいとはあれほど優しゅう聞えたのに、お前の姿を見ると、体中からだじゅうが縮みあがるような心持がするのはどうしたものだ。
蔵六が帰ったあと夕飯ゆうめしかゆを食ったが、更にうまくなかった。体中からだじゅうがいやにだるくって、本を読んでも欠伸あくびばかり出る。そのうちにいつか、うとうと眠ってしまった。
田端日記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
己は体中からだじゅうがその火のようになっているから、11785
その外天気の好い夜昼を何千たびでも楽んで過ごす事が出来る。健康の喜びの感じが体中からだじゅうの脈々を流れて通る。この色々のものがすべて愉快に感ぜられる。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
もうこれはんでもうしわけをするよりほかはないとおもって、つぼの中の毒薬どくやくして、のこらずべました。もうどく体中からだじゅうまわって、もなくぬでしょう。
和尚さんと小僧 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
が、いくら身悶みもだえをしても、体中からだじゅうにかかった縄目なわめは、一層ひしひしと食い入るだけです。わたしは思わず夫の側へ、ころぶように走り寄りました。いえ、走り寄ろうとしたのです。
藪の中 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
なんだかこう体中からだじゅうがぞくぞくしてならない。
とらはそんなことはりませんから、むやみにけるわ、けるわ、千のやぶもほんとうに一ッびでんで行ってしまいますと、さすがに体中からだじゅう大汗おおあせになっていました。
物のいわれ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
たね子は角隠つのかくしをかけた花嫁にも時々目をそそいでいた。が、それよりも気がかりだったのは勿論皿の上の料理だった。彼女はパンを口へ入れるのにも体中からだじゅうの神経のふるえるのを感じた。
たね子の憂鬱 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
体中からだじゅうにうけたきずがずきんずきんいたみますし、もうつかれきってのどがかわいてたまりませんので、みずがあるかとおもってたにへずんずんりていきますと、はるかの谷底たにぞこひとすじ
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
洋一は兄を見上ながら、体中からだじゅうの血が生き生きと、急に両頬へ上るのを感じた。
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
体中からだじゅう、もうそれは搾木しめぎにかけられたようにぎりぎりいたんで、つこともすわることもできません。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
が、女は和尚に頓着なく、じっと畳を見つめながら、ほとんど暗誦でもしているように——と云って心の激動は、体中からだじゅうあらわれているのですが——今日こんにちまでの養育の礼を一々叮嚀ていねいに述べ出すのです。
捨児 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
なんでも安達あだちはら黒塚くろづかにはおにんでいて人をってうそうだなどという、たびあいだにふと小耳こみみにはさんだうわさをきゅうおもすと、体中からだじゅう毛穴けあながぞっと一つようにおもいました。
安達が原 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
ちょうどその刹那せつなだった。彼は突然お嬢さんの目に何か動揺に似たものを感じた。同時にまたほとんど体中からだじゅうにお時儀をしたい衝動を感じた。けれどもそれは懸け値なしに、一瞬のあいだの出来事だった。
お時儀 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
すると獅子ししは、こんどこそ、ほんとうに体中からだじゅう逆立さかだてておこって、ちからいっぱい意気張いきばって、一声ひとこえ「うう。」とうなりますと、あんまりりきんだひょうしに、くびがすぽんとけてしまいました。
物のいわれ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
が、不安はもう一度体中からだじゅうみなぎって来たらしかった。
三つの窓 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しかもいつか体中からだじゅうに冷汗を流しているのです。
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「こいつも体中からだじゅうまっ黒だから。」
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)