仰天ぎょうてん)” の例文
無知な者は、罪をおかす時まではそんなに大それたことと思わないでいて、犯した時に至って初めて、その罪の大きかったのに仰天ぎょうてんする。
吾輩などは始めて当家の令嬢から鏡を顔の前へ押し付けられた時に、はっと仰天ぎょうてんして屋敷のまわりを三度け回ったくらいである。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
なぜならば仰天ぎょうてんして迎えに出た和尚おしょうも左右の者までが、余りに何の設備もない小寺に過ぎないことをくどく言い訳するからだった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ところが、電話が通じて、ホテルの支配人の話を聞くと、彼はアッと仰天ぎょうてんしてしまった。明智は間違いなく昨日予定の列車で帰京したという。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その時その役に当ったのは加藤という少年だったが清逸は加藤の依頼に応じて答辞の文案を作ってやった。受持教員はそれを読んで仰天ぎょうてんした。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
甚太夫はさすがに仰天ぎょうてんしながら、ともかくもその遺書を開いて見た。遺書には敵の消息と自刃じじん仔細しさいとがしたためてあった。
或敵打の話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「………」猫八はそれでもこの最後の泣き合いの一件を聴くにいたってびッくり仰天ぎょうてんをしたほどに目を見張ってみせた。
猫八 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
突然窓から吹きだした紅蓮ぐれんの炎に、肩車担当の二警官はびっくり仰天ぎょうてん、へたへたとその場に尻餅しりもちをついたからである。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
自分の実の子(もっとも彼はかに妖精ようせいゆえ、一度に無数の子供を卵からかえすのだが)を二、三人、むしゃむしゃべてしまったのを見て、仰天ぎょうてんした。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
それが男よりもズット敏捷びんしょうで、向不見むこうみずと来ているのですから、Aはイヨイヨ仰天ぎょうてんして、悲鳴を揚げながら逃げ迷う。
キチガイ地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
夫人が仰天ぎょうてんしたのも無理はない。ウォウリング警部は、みなまで聞かずに、帽子を握り締めて突っっていた。
チャアリイは何処にいる (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
……思いもかけぬ父の出現に、わたしはびっくり仰天ぎょうてんのあまり、彼がどこからやって来て、どこへ姿を消したのか、初めは気がつかなかったほどであった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
その時俺は変な物を見た。若い女と若い男だ。人の背中に背負われていた。衣裳の胸に刺繍ぬいとりがあった。それを見て俺は仰天ぎょうてんした。青糸で渦巻きが刺繍ぬいとられていたんだ。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
猛太は仰天ぎょうてんした、かれはふたたび火中に飛びこんだ、もう火の手はゆか一面にひろがった、右を見ても左を見ても火の波がおどっている。天井てんじょうには火竜の舌が輝きだした。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
隣りの明店あきだなに隠れて居りました江戸屋の清次は驚きましたが、通常あたりまえの者ならば仰天ぎょうてんして逃げを失いますが、そこが家根屋やねやで火事には慣れて居りますから飛出とびだしまして
「お、あにい」政は仰天ぎょうてんしたように一歩さがった、「おめえどうして、こんなところへ」
あすなろう (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ある日ハイドンは、町の玩具屋おもちゃやへ行ってあらゆる鳴物なりものの玩具を求め、それを自分の楽員達に配って、新作の交響曲を演奏させた。楽員達が仰天ぎょうてんしたのも無理のないことであった。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
大坂城中のものは皆顔色を失い、びっくり仰天ぎょうてんして叡慮のいずれにあるやを知らない。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
勘次が仰天ぎょうてんして口を出した。が、予期していたことのように藤吉はすましていた。
百姓は仰天ぎょうてんし、「飛んでもないこと、渠奴あいつのような大盗人に、百磅は愚か、一ペニーたりとも渡せるものか」と、始めはなかなか承知すべき気色けしきもなかったが、遂にカランの弁舌に説き落され
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
二人の外には、大納言だけが仰天ぎょうてんしたような顔をして、残る。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
仰天ぎょうてんす可きのみ。
新女大学 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「げッ!」と、仰天ぎょうてんしたのは、周馬ばかりか、お十夜も同様、カラリと手の盃を取り落して、言いあわしたようにヌッと立った。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
並み居る役人も番卒も、一同に仰天ぎょうてんした。支えに行く間に、もう新兵衛はキリキリと引き廻して咽喉笛のどぶえをかき切り見事な切腹を遂げてしまった。
すると作蔵君はよほど仰天ぎょうてんしたと見えやして助けてくれ、助けてくれと褌を置去りにして一生懸命に逃げ出しやした……
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そして、少女の顔をつくづく見ますと、泰二君はまたしても仰天ぎょうてんしてしまいました。ああ、なんということでしょう。
妖怪博士 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
さあ、みんなびっくり仰天ぎょうてん、にげ出す者もあれば、その場で腰をぬかす者もあった。そうして、ほうほうのていで、時計屋敷からにげだしたのであった。
時計屋敷の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
おばあさまは、自分の部屋から火事が出たのを見つけだした時は、あんまり仰天ぎょうてんして口がきけなくなったのだそうだけれども、火事がすむとやっと物がいえるようになった。
火事とポチ (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「拾ったお金で活動を見たの?」と文子は仰天ぎょうてんしていった。だれもそれには答えなかった。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
とにわかに仰天ぎょうてんし宗介は几帳を掻いやったがぐたりと膝を床に突いた。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
仲居の女はこうしてと言って、血相が変って口がけないのを手で補って、咽喉のどを掻き切る真似まねをしたのですから、備前屋の主人は仰天ぎょうてんしました。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そのなぞが持つ秘密が、やがてとける日が来たとき、この素人職工たちはびっくり仰天ぎょうてんしなくてはならなかった。
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
大鳥氏は仰天ぎょうてんして、あわただしく板戸をひらきました。すると、おお、ごらんなさい、そこにはまぎれもない門野支配人が、やつれた姿で立っていたではありませんか。
少年探偵団 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
仰天ぎょうてんして、蛾次郎がじろうみずから、そこにじぶんのいることを、となりの武士に知らしてしまった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
野だはよっぽど仰天ぎょうてんした者と見えて、わっと言いながら、尻持しりもちをついて、助けてくれと云った。おれは食うために玉子は買ったが、つけるために袂へ入れてる訳ではない。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
葉之助はハッと仰天ぎょうてんしたが、今となってはどうすることも出来ない。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
小林文吾も仰天ぎょうてんしないわけにはゆきません。押取刀おっとりがたなでその場へ駈けつけて見ると、岡村は左の肩から右のあばらを斜めに断たれて、二つになって無残の最期さいご
村人たちがそんなうわさをしているとき、谷博士が村へひょっくり姿をあらわしたので、みんなびっくり仰天ぎょうてん
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
南無なむ三——もとの主人卜斎だったかと、仰天ぎょうてんした蛾次郎は、すばやく風をらって逃げだした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
若い未亡人は、この探偵作家気でも違ったのではあるまいかと、びっくり仰天ぎょうてんした表情だ。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
老師も数馬もあッと仰天ぎょうてんしそのまま棒のように立ち止まった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一座の者が敵となく味方となく仰天ぎょうてんしたのは、槍を手元へ引かないで、机竜之助が、擬いの神尾主膳の咽喉元を一突きに突き刺して、その穂先は床柱へ深く
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それを見ると、大辻はびっくり仰天ぎょうてんして、あっと叫ぶなり、その場に一メートルほどもとびあがったと思うと、妙な腰つきをして山道をうように逃げだした。
人造人間エフ氏 (新字新仮名) / 海野十三(著)
仰天ぎょうてんして、いななく駒の手綱をしめながら、城楼をふり仰ぐと、糜竺びじくが壁上にあらわれて
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
会員達を戦慄せんりつさせ、仰天ぎょうてんさせ、アッと云わせる趣向を立てなければならぬのだ。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「なに!」と左膳は仰天ぎょうてんした。「何、花村が参ったと?」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
私が思いがけなくすっかり底を割ってしまったので、ロッセ氏は、私の話の途中、いくたびも仰天ぎょうてんして、私のそでをひいて、話をやめさせようとしたほどであった。
山の根もるいだかと思うほど、仰天ぎょうてんしてよろめいた身を、お綱はあやうく手でささえた。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
不意のことでしたから、後家さんも仰天ぎょうてんして、よろよろよろけかかるのを竜之助は
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
近づいて見ると、彦太郎の仰天ぎょうてんしたことは、父親はそこで死んでいたのである。
夢遊病者の死 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)