乾分こぶん)” の例文
就中なかんづく、将棋と腕相撲が公然おもてむきの自慢で、実際、誰にも負けなかつた。博奕は近郷での大関株、土地ところよりも隣村に乾分こぶんが多かつたさうな。
刑余の叔父 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
不意にムックリと身を動かした乾分こぶんの多市が、親分の危急! と一心につかみ寄せた道中差どうちゅうざしとこの上から弥助を目がけてさっと突き出す。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私の会つた結婚した女といふのは親分の乾分こぶんの一人と結婚したのだが、ヤキモチ焼で亭主にクッつき通して放したがらないから
パンパンガール (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
不思議なことに、四馬剣尺、いついかなる場合でも、自分の歩くところを乾分こぶんのものに見られるのを、ひどく嫌うくせがあった。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
聖路易セントルイスの町中の巡査はミンナこのデックの乾分こぶんみてえなものだったってえんですから豪勢なもんで……しかも一緒に乗っている支那娘のチイちゃん
人間腸詰 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
氏の生涯を通じて、いつの時代にも多くの乾分こぶんや門弟が附いてゐたけれども、その顔ぶれは各時代毎に違つてゐて、終始一貫師事した者は稀であつた。
青春物語:02 青春物語 (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
朝寝の床から手を伸ばして、こういいながら文次が煙草たばこを吸いつけているそばに、きちんと膝っ小僧をそろえているのは、久しぶりに乾分こぶんの御免安兵衛。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
とんでもないめぐり合わせから銭形平次の乾分こぶんになったいきさつは、折りにふれて書いてあるはずだ。
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
M氏は庄亮のお父さんの永年の乾分こぶんだと自身をしきりに私に知らしていた。酔眼朦朧もうろうとしていられた。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
彼はのちに、おらアあの目が怖かったんだよ、と乾分こぶんに向かって懺悔ざんげしたそうである。しかし、この“ぎろり”も、山本医師に対しては少しの効果もなかったと見え
愚人の毒 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
煙草屋たばこやがあり、文房具なども商うかたわら、見番の真似事まねごとのような事務を執っている老人夫婦があり、それが倉持家の乾分こぶんであったところから、母はその夫婦にいて
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
中橋氏は不足さうに独語ひとりごとを言つた。そして自分が間違つて文部にでも入つたら、乾分こぶんの山岡順太郎氏などは、あの兜虫かぶとむしのやうな顔をしかめて、屹度ぼやき出すに相違ないと思つた。
俺はな、ヘン、ポンポンながら『おんびき虎』の一の乾分こぶん蛇の目の熊五郎と言うもんだ。
空中征服 (新字新仮名) / 賀川豊彦(著)
高野専務は二十年来田沢の乾分こぶんとして働き、今日の地位を築いたのであるから、十分「親爺おやぢ」の気心を呑み込み、その言説の当不当を真正面からあげつらふやうなことはしない。
(新字旧仮名) / 岸田国士(著)
父ととが、差し迫まる難関に、やるせない当惑の眉をひそめて、向ひ合つて坐つてゐる時に、尋ねて来た客は、木下と云ふ父の旧知だつた。政治上の乾分こぶんとも云ふべき男だつた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
金蔵が、この鍛冶倉の乾分こぶんとなったのにも相当の筋道すじみちがあるけれどそれは省く。
大阪で何とかいふ侠客の乾分こぶんになつたりして、十年ばかりもごろ/\してゐた後再び京都に舞ひ戻り、七条の停車場前にうどん屋を開いたのが当つて、それから後はとん/\拍子に発展し
乳の匂ひ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
ハハハ、これではおたがいに浮ばれない。時に明日あすの晩からは柳原やなぎはらの例のところに○州屋まるしゅうや乾分こぶんの、ええと、だれとやらの手で始まるそうだ、菓子屋のげん昨日きのうそう聞いたが一緒いっしょに行きなさらぬか。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
兄弟分と乾分こぶんとをひきいて、水戸様石置き場の空屋敷へ、焼き討ちをかけて、混乱させて、ドサクサまぎれに山県紋也や、同志の者を片付けようとして、入り込んで来たに過ぎないのであった。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
乾分こぶんでもないのだから、あへ阿諛おべつかをつかつて彼是言はねばならぬ義務は持たぬが、当然問題となるべき「三部曲」の批評が一つも文学雑誌——少なくとも文芸をその要素の一つとする雑誌や新聞に
愛人と厭人 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
また乾分こぶん多く、諸方に遣わして疫病を起す。
と下にむらがっている男の中でも、図抜けて背の高い柿色の道服に革鞘の山刀を横たえた髯むじゃらな浪人が、一人の乾分こぶん我鳴がなりつけた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
翌朝、新門の辰五郎の乾分こぶんに応援をたのんで縁の下へもぐってもらうと、彼は難なく、その石の壁をあけてしまった。
今云った天狗猿博士の乾分こぶんで、法医学の副手をやっている男が、是非とも中位のセパードが一匹欲しい。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
三日目に、手下のワーニャが乾分こぶんをつれてゾロゾロと通っていった。彼は必死になって、手をふり足を動かし、ゴリラのようにわめいたが、それもやっぱり無駄に終った。
見えざる敵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
雲州、江州、遠州、なんかという強い乾分こぶんがそろっている。本堂から方丈へかけて寝泊まりしたり、ごろごろしている親分乾分の掏摸を集めると百人近い人数になった。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
あの兄さんと言っても、従兄いとこですけれど——黒須くろすという人がいるのよ。もと外務省畑の人で、今は政党関係の人らしいわ。乾分こぶん多勢おおぜいあるらしいの。でも立派な紳士よ。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
父ととが、差し迫まる難関に、やるせない当惑のまゆをひそめて、向い合って坐っている時に、尋ねて来た客は、木下とう父の旧知だった。政治上の乾分こぶんとも云うべき男だった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
こう声をかけたのが「おんびき虎」の一の乾分こぶん蛇の目の熊であった。
空中征服 (新字新仮名) / 賀川豊彦(著)
そいつの乾分こぶん破戸漢ならずもの達! ……などというような連中にね。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
岩五郎の乾分こぶんが、ばくち場で、ちらと、妙なことを口走りましたから、帰りを誘って、蛤鍋屋はまなべやへつれこみ、かまをかけて、訊いたんです。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人の集りの多い通夜の席には現れずに、野辺の送りがすんでから乾分こぶんをつれてドヤドヤとやってきたのは、ホトケをカモに一夜ゆっくり飲もうというコンタン。
乾分こぶんに押立てられてイヤイヤながら渡世人の座布団に坐り、新婚早々の若い、美しい奥さんと二人で、街道筋を見渡していたものですが、この若親分の久蔵というのが
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
即ち変電所の技手補田中喜多一たなかきたいちで、これは吉蔵親分の一の乾分こぶんである上に、秘かにお由に想いを掛けているのだと、国太郎は何時かお由自身の口から聞かされた事もあるので
白蛇の死 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼は今顧問弁護士をしていた会社の金を三万円拐帯かいたいして、留守中の家族と乾分こぶんの手当や、のっぴきならない負債の始末をして、一旗揚げるつもりで上海シャンハイへ走るところであった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
で、親分と乾分こぶんは土手の柳の樹の下で、左右に別れたのだった。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「高萩村の猪之松親分から、迎え出ました乾分こぶん衆で」
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
大小七隻の船に、梁山泊のかしら分二十九人、乾分こぶん百四、五十人が乗りわかれ、こうのぼって無為軍むいぐんの町へ忍んだのは翌晩だった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
六・一自粛と同時に街の暴力団狩り、マーケットの親分乾分こぶんの解散、チンピラ共は上ッたりで
金銭無情 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
依然として頭山満を中心として九州の北隅にわだかまりつつ、依然として旧式の親分乾分こぶん、友情、郷党関係の下に、国体擁護、国粋保存の精神を格守しつつ、日に日に欧化し
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
葉子がこの侍女を絶対安全な乾分こぶんに仕立てあげるのは、何の雑作ぞうさもないことであった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
やい、木戸、仙場甲二郎、相手はこんな小男と、たかが女とわかっちゃ何も恐れることはないんだ。こんなやつのいうことを聞くより、この机先生の乾分こぶんになれ。そいつらふたりをやっつけてしまえ
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それは小荷駄御用を引きうけた由良の伝吉で、他ならぬ作左衛門の使者であるため、乾分こぶんに任せず、自身でここまでいて来たのであった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
親分と内儀だけ奥に残して、乾分こぶんたちは退散し、食堂のオヤジも二階の碁席へ追ッ払われる。
親分乾分こぶん式の活躍、又は郷党的な勢力を以て、為政者、議会等を圧迫脅威しつつ、政界の動向を指導して行く遣口やりくちを、手ぬるしと見たか、時代おくれと見たか、その辺の事はわからない。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
けいず買いの佐渡幸は、乾分こぶんたちを、八方へ逃がした後で、土蔵の戸を、中から閉め、その中へ隠れこんだらしいのである。
雲霧閻魔帳 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一依旧様いちいきゅうよう、金銭、名誉なんどは勿論の事、持って生れた忠君愛国の一念以外のものは、数限りもない乾分こぶん、崇拝者、又は頭山満の沽券こけんと雖も、往来の古草鞋わらじぐらいにしか考えていないらしい。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「……先日は乾分こぶんどもの悪戯わるさ。なんとも、お見それ申しやして」と、いとも神妙に、三拝九拝して、一こん差し上げたいという申しいでなのである。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あばよ」賊の乾分こぶんたちは、そういって、性善坊や朝麿の口惜しげな顔を、揶揄やゆしながら、夜鴉よがらすのように、おのおの、思い思いの方角へ、散り失せてしまった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そうとは思うけれど、遅いじゃないか。ほかの乾分こぶんはさっきから、鳴りをしずめて待っているのに」
八寒道中 (新字新仮名) / 吉川英治(著)