上陸あが)” の例文
が動くと、クスクスと笑うものがあるので、誰と低くきくと、あたしだよと答えるのは姉さんで、そっとうようにして上陸あがる——
身支度をして、厚く礼をいって、さて、岸へ上陸あがろうとすると、あどけなくそれまで笑っていたお松が、急に、眼にうるみを持って
旗岡巡査 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それでも亜米利加へ上陸あがると二人とも急に元気になりましてね。聖路易セントルイスへ着くと直ぐに建前たてまえにかかりやした。
人間腸詰 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
上陸あがるとすぐ泰軒とも別れて腰の坤竜丸こんりゅうまるを守って街路に朝を待ったが……あかつきの薄光はっこうとともに心に浮かんだのが、この千住竹の塚に住むお兼母子のことであった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
き、しまくと、元船もとぶね乘棄のりすてて、魔國まこくとこゝを覺悟かくごして、死裝束しにしやうぞくに、かみ撫着なでつけ、衣類いるゐ着換きかへ、羽織はおりて、ひもむすんで、てん/″\が一腰ひとこしづゝたしなみの脇差わきざしをさして上陸あがつたけれど
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
停車場を中心に左右海岸通りに展開して中位な粗末さの宿屋が軒を並べてる、上陸あがると成程お饒舌しやべりな男が扇をバチつかせて松山へは二十分置きに汽車が出るから、ゆつくり休んでつても大丈夫だ。
坊つちやん「遺蹟めぐり」 (新字旧仮名) / 岡本一平(著)
「こりゃひどい、とても上陸あがれませんよ。この波では。」
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
知ってる奴アありゃしません。……ですからね、いちど山東街道へ上陸あがッて、李家りけの四ツ辻にある茶店へ行き、そこで許しを得るんでさ
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
元船もとぶね乗棄のりすてて、魔国まこくとこゝを覚悟して、死装束しにしょうぞくに、髪を撫着なでつけ、衣類を着換きかへ、羽織を着て、ひもを結んで、てん/″\が一腰ひとこしづゝたしなみの脇差わきざしをさして上陸あがつたけれど、うえかつゑた上、毒に当つて
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「てめえ達が上陸あがるまでは斬らねえから安心してここまで来い」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
開かぬうちは、船手の者も、突ッこむわけにはゆきませぬ。……で、俊連も加勢に上陸あがり、まいど歯がみを噛んでおりますわけで
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
むかし大江山の酒顛しゅてん童子が海から上陸あがって来たところだという伝説があるので——それと彼とがむすびつけられたものらしい。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
肥後の山河、阿蘇あその噴煙が、ただならず揺るぎ出したのは、まだ尊氏が、芦屋ノ浦へも上陸あがッて来ない前からのことだった。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大阪へ上陸あがった旅川周馬は、身辺の危険をさとって、わずかな縁故をたよりに、酒井讃岐守さかいさぬきのかみの蔵役人、本田なにがしの屋敷の奥に身をかくまってもらっている。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「もとよりです。黄河を上陸あがって旅途をつづけ、勅使の一行は、明日あたり領内へ着こうとの知らせでした」
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かれは明け方に鳴門の渦潮うずしおを見物する者と称して、土佐泊へ上陸あがったが、そこから忽然こつぜんと影をかくしていた。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
曹丕そうひは船にって、重病人のように船房の中に臥していた。それを文聘ぶんぺいが背に負って、小舟に飛び移り、辛くも淮河わいがのふところをなしている一商港に上陸あがった。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二、三百騎、いちどに水を切って上陸あがった。誰が先、誰が後とも見えなかった。たちまち、千騎、二千騎、なおも後からひきもきらず平家の陣地へ駈けこんだ。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
沖へ、出迎えに行った長州藩の武士たちも多いらしい。和船や、小蒸汽で、ぞろぞろと上陸あがって来る。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
誇らしげに、偽の錦旗二たすじひるがえしてゆく一船こそ、尊氏がす親船。——以下、千余艘とみゆるあの大兵が、わが後ろへ上陸あがったら、味方は窮地におちいるほかないぞ。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女が、矢走やばせの渡船場で、道を訊ねたのを知った八弥は、一船あとから上陸あがるとすぐに、同じ渡船小屋へ行って、今行った女が何を訊いて行ったのかを抜目ぬけめなくただしてみた。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その船は、夜明け方には、もう大坂の安治川あじがわへはいっているだろう。——そしてそこから、誰か上陸あがって、信長の陣へ駈け込む。——堺の領民のほんとの総意を訴え出る。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また今朝の便船では、首に現金をつけた上方筋の道具買が、何十人も浜から上陸あがって、赤穂の城下で捨て売にされるだろうという、思惑から、入り込んだということだった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
時もよし、ここへまた、今しがた江岸に着いた三隻の船から上陸あがって来た一群があった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まるで一枚の半巾ハンカチでも飛んで来るように、白い前掛をした女が彼方から走って来た。ちょうど海から霧が上陸あがって来て、街燈の灯まで二重になって見えるように往来がけぶっていた。
旗岡巡査 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それに少弐しょうにの太郎頼尚は、かならず戻ると言って上陸あがって行った。彼の容子にどこか憂いが見えぬでもないが、二心ない丈夫おとこと尊氏は見込んでおる。まずもすこし待ってみるがいい
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ところが、ある夜、抜荷屋ぬきやの船から上陸あがって、四国屋の寮へしのんできた男がある。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蒋幹は、小舟に乗って、以前のごとく、飄々ひょうひょうたる一道士を装い、呉へ上陸あがった。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その晩、磋磯之介は、ここから常陸岸ひたちぎし玉造たまつくり上陸あがる決心をしていたので
旗岡巡査 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いや、この方面から、敵に上陸あがられては、おたがいの間も、遮断しゃだんされる」
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
生命を波濤はとうなげうてるか。由来、この国の民というものは、故なくして生命は捨てん。いかなる匹夫ひっぷでも生命の価値を知っておる。大明、高麗の各地に上陸あがり、珍器重宝をどんどん持って来た。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
汝はまず、その一名の蔡仲を案内者として、曹操に降参すととなえ、船を敵の北岸へ寄せて、烏林うりん上陸あがれ。そして蔡仲の旗をかざし、曹操が兵糧を貯えおく粮倉ろうそうへ迫って、縦横無尽に火をつけろ。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
長島城ながしまじょうの信雄と、清洲城きよすじょうにある家康とを、分断してしまう作戦であったものが、反対に、いまでは蟹江へ上陸あがった滝川一益と、水上にぶらぶらしている九鬼船団とが、徳川、北畠の両軍によって
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
毛利方のお船手が十人余り兵糧船から上陸あがって、三木城のお侍衆と一緒についそこの遊女ゆうじょ町で飲んでおるということでございますし、そのほかだいぶ見かけない侍衆が町をあるいておる様子ゆえ
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
禁教の国へばてれんとして上陸あがるすべはないので、わざと漂流人のふうていを装い、大隅の国の屋久島へ乗渡り、そこで故国の人々と船をすてて、ぼんやりと、ひとり湯泊ゆどまりの海岸へあがッたのです
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「気をつけろ。もう敵は上陸あがっているぞ」
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「直義たちの手勢はどこへ上陸あがったのか」
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
舟で北郡の三国みくに上陸あがった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あれを上陸あがらせては!」
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)