すこぶる)” の例文
この両者は其外見すこぶる異る所があるが、その一たび警吏に追跡せらるるや、危難のその身に達することには何の差別もないのであろう。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
且つ大樹の為に昼尚暗く、漸く案内者の跡を慕うのみ。すこぶる困苦するも、先ず無事に亦河を渡り、平坦の原野に出でたるも、また密林あり。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
榛軒は門人を待つことすこぶる厚かつた。曾能子刀自はかう云ふことを記憶してゐる。或日榛軒は塾生の食器の汚れてゐたのを見て妻に謂つた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
技巧すこぶる幼稚なれども、亦きくす可き趣致なしとせず。下巻も扉に「五月中旬鏤刻也」の句あるを除いては、全く上巻と異同なし。
奉教人の死 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
家隆・定家の作物の如きも、習作集は極めて平凡で、選集には、すこぶる、特色を見せてゐるのは、そこに原因があるのであつた。
関翁は過日来足痛そくつうすこぶる行歩ぎょうぶなやんで居られると云うことをあとで聞いた。それに少しも其様な容子ようすも見せず、若い者なみに四里の往復は全く恐れ入った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
少女あり。向ひの家なる友と、窓より窓へまり投げつゝ戲れ居たり。そが一人はすこぶる美しと覺えき。吾友の戀人はもしこれにはあらずや。我は圖らず帽を脱したり。嗚呼、おろかなる振舞せしことよ。
応物おうぶつおもむき すこぶるがっ
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
城下は岩船郡いはふねこほりむら上(内藤侯五万九千石ヨ)蒲原かんばら郡に柴田しばた(溝口侯五万石)黒川くろかは(柳沢侯一万石陣営)三日市(柳沢弾正侯一万石陣営)三嶋郡に与板よいた(井伊侯二万石)刈羽かりは郡に椎谷しひや(堀侯一万石陣営)古志郡に長岡ながをか(牧野侯七万四千石ヨ)頸城くびき郡に高田たかた(榊原侯十五万石)糸魚川いといかは(松平日向侯一万石陣営)以上城下のほかすこぶる豊饒ぶねう
其の庭園の向ヶ岡の阻崖に面してすこぶる幽邃ゆうすいの趣をなしていたので、娼楼の建物をその儘に之を温泉旅館となして営業をなすものがあった。
上野 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
霞亭は初期は竹里ちくりに、中期は任有亭にんいうていに、後期は梅陽軒ばいやうけんに居つた。僧月江撰の嵯峨樵歌の跋は此の三期を列記してすこぶる明晰である。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
見かけはすこぶる単純な様でも、其効力は、四方八方に及ぶのが、呪詞発想法の特色であつて、此意味に於て、私は祝詞ほど、暗示の豊かな文章はないと思ふ。
神道に現れた民族論理 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
が、その自分も無暗に音楽会を聞いて歩いただけで、鑑賞は元より、了解する事もすこぶる怪しかつた。まづ一番よくわかるものは、リストに止めをさしてゐた。
あの頃の自分の事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
中に尤も東北の方に寄って一峯いっぽう特立とくりつすこぶる異彩いさいある山が見える。地理を案ずるに、キトウス山ではあるまいか。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
城下は岩船郡いはふねこほりむら上(内藤侯五万九千石ヨ)蒲原かんばら郡に柴田しばた(溝口侯五万石)黒川くろかは(柳沢侯一万石陣営)三日市(柳沢弾正侯一万石陣営)三嶋郡に与板よいた(井伊侯二万石)刈羽かりは郡に椎谷しひや(堀侯一万石陣営)古志郡に長岡ながをか(牧野侯七万四千石ヨ)頸城くびき郡に高田たかた(榊原侯十五万石)糸魚川いといかは(松平日向侯一万石陣営)以上城下のほかすこぶる豊饒ぶねう
繁殖を目的とせざる繁殖の行為には徴税がない。人生徒事の多きが中に、避姙と読書との二事は、飲酒と喫烟とに比してすこぶる廉価れんかである。
西瓜 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
蘭軒は此年文政十年十二月三日に影抄元板千金翼方に跋して、たま/\書の銓択せんたくに論及した。其ことすこぶる傾聴するに堪へたるものがある。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
おなじく感染力を利用するが、結果はすこぶる交錯して現れる所の、今一つ別の原因がある。言語精霊の考へである。
国文学の発生(第二稿) (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
更に又春葉は書籍に西遊記さいいうきを挙げ、風葉は「あらゆる字引類」を挙げ、紅葉はエンサイクロピデイアを挙ぐ。紅葉の好み、諸弟子しよでしに比ぶれば、すこぶる西洋かぶれの気味あり。
雑筆 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
十一時雑煮ぞうに。東京仕入の種物たねもの沢山で、すこぶるうまい。長者気ちょうじゃきどりで三碗える。尤ももちは唯三個。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
さうか。震災前のはなしだから君達は知らないだらうが、画家竹久夢二の細君がすこぶるつきの美人で、呉服橋外に絵葉書屋の店を
来訪者 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
エワレツトと早稻田黨との彼と此とを分てるはまことにさることながら、そのかなたを私情なりとし、こなたを公情なりとするはすこぶるおだやかならず。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
此は一見すこぶる結構な事に似て、実は困った話なのである。文学の絶えざる源泉は古典である。だからどんな方法ででも、古典に近づく事は、文学者としてはわるい態度ではない。
歌の円寂する時 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
一体大学の純文学科などと云ふものは、すこぶる怪しげな代物しろものだよ。
あの頃の自分の事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
およそ江戸時代の詩文集にはかならず数人の序跋題辞等が掲げてあるのに、独り枕山の集のみこれを見ないのはすこぶる異例とすべきである。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「ロマン」の字に代ふるに「エチユウド」の字を以てせばすこぶるおだやかならむ。さて試驗の結果は事實なり。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
さうなり行くべき運命を持ち乍ら、併しすこぶるはかない詞章、表出として長く保持せられて来たに過ぎなかつた。其が次第に固定し、又飛躍して文学芸術らしい姿を整へて行つたのである。
孤身飄然ひょうぜん、異郷にあって更に孤客となるのうらみなく、到る処の青山せいざんこれ墳墓地ふんぼのちともいいたいほど意気すこぶる豪なるところがあったが今その十年の昔と
今は家業の振わぬ店の隠居で、昔の友にも往来ゆききするものが少かった。この頃新堀に後藤進一と云うものがあって、新堀小僧の綽名あだなを花柳のちまたに歌われ、すこぶる豪遊に誇っていた。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
其が悪事とは、考へられてゐなかつたのである。我々の国の乏しい文献は、家庭生活に対してすこぶる冷淡であつた。戦国以前に、どうした嫉妬の表示法を主婦たちが持つてゐたかを伝へてはゐぬ。
万葉びとの生活 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
老と病とは人生にみつかれた卑怯者を徐々に死の門に至らしめる平坦なる道であろう。天地自然の理法はすこぶるみょうである。
正宗谷崎両氏の批評に答う (新字新仮名) / 永井荷風(著)
万記録は所謂いはゆる風説が大部分を占めてゐるので、其中から史実をえらみ出さうとして見ると、獲ものはすこぶる乏しい。しかし記事が穴だらけなだけに、私はそれに空想を刺戟しげきせられた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
すこぶる爽快を覚ゆると共にいよいよ老来の嘆あり。たまたま思出るは家府君かふくん禾原かげん先生の初て老眼鏡を掛けられし頃の事なり。時に一家湘南の別墅べっしょ豆園とうえんにありき。
偏奇館漫録 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それに追ふものの足音が少しも遠ざからない。瀬田は自分の足の早いのにすこぶる満足して、たゞ追ふものの足音の同じやうに近く聞えるのを不審に思つてゐる。足音は急調きふてうつゞみを打つ様に聞える。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
コレヨリ(治ヲ)請フ者日ニ多シ。居ルコト二、三年すこぶる三径ノ資ヲ得タリ。たまたま唐人ガ僧院ノ詩ヲ読ミ帯雪松枝掛薜蘿ゆきをおぶるのしょうしへいらをかくトイフニ至ツテ浩然こうぜんトシテ山林ノ志アリ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
東京市はかくの如く海と河と堀とみぞと、仔細しさいに観察しきたれば其等幾種類の水——既ち流れ動く水とよどんで動かぬ死したる水とを有するすこぶる変化に富んだ都会である。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
正宗谷崎二君がわたくしの文を批判する態度はすこぶる寛大であって、ややもすれば称賛に過ぎたところが多い。これは知らず知らず友情の然らしめたためであろう。
正宗谷崎両氏の批評に答う (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しかしその時五山が亡友竹渓の遺子に枕山のあることを心づかなかったというのはすこぶる怪しむべき事である。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
東京市はかくの如く海と河と堀とみぞと、仔細しさいに観察しきたればそれら幾種類の水——即ち流れ動く水とよどんで動かぬ死したる水とを有するすこぶる変化に富んだ都会である。
然しこの書は明治十年西南戦争の平定した後凱旋の兵士が除隊の命を待つ間一時谷中辺の寺院に宿泊していた事を記述し、それより根津駒込あたりの街の状況を説くことすこぶる精細である。
上野 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
十八世紀日本美術の研究に関するゴンクウルの計画はすこぶる浩瀚こうかんなるものなり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
今よりして後、死の来るまで——それはさほど遠いことではなかろうが——それまでの間継続されそうな文筆生活の前途を望見する時すこぶる途法に暮れながら、わたくしは西行と芭蕉の事を思い浮べる。
冬日の窓 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「おらが国」と向の人が言ったら此方こっちも「おら」を「わたくし」の代りに使う。説話はなしは少し余事にわたるが、現代人と交際する時、口語を学ぶことは容易であるが文書の往復になるとすこぶる困難を感じる。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「そうですか。風雲すこぶる急ですな。」
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)