面構つらがま)” の例文
警察に命じて容赦なく引っくくらせて、貴様の口をふさいで見せるぞ……という威嚇も、その兇悪な面構つらがまえの中に含んでいるようだ。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
八ツざきにしても飽き足りぬのは、オロシャの陸軍少佐と称したデフレ何とかウイッチの、むささびのような面構つらがまえであった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
こう二人は、新知事の訓令にもどこか反撥的な面構つらがまえをみせていたので、文彬ぶんぴんはその眼気を感知し、微笑を見せながらすぐ次へ移っていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
烏はあのようなにくらしい面構つらがまえの鳥だが、それでも丸っきり来なくなってしまうと、正月はことに思い出さずにはいられない。
ええ、そこへもってきて、あのマドロスの奴が、だらしがないんでしょう、言葉がわからないし、あの面構つらがまえで、鶏を
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
... 大方おおかたあいつの事だぜ」「あいつにきまっていまさあ、そんな事を云いそうな面構つらがまえですよ、いやにひげなんかやして」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
シムソンはそう云いながら、机の上の呼鈴よびりんを押しました。やがて、ドアをノックして入って来たのは、背の高い、見るから獰猛どうもう面構つらがまえをした外国人でした。
計略二重戦:少年密偵 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
何を当り前な事を——と言わぬばかりの面構つらがまえは、すっかり我が名御用聞の八五郎を憂鬱ゆううつにしてしまいます。
相手の面構つらがまえ、体構えに、本気で刀を抜こうとする気合が、こもっていないのは勿論もちろん——よしんば、斬りつけて来たにしろ、たかの知れた、腕前なのも見抜いている。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
男はあれほど世話になった花子夫人の玄関へ御礼の言葉一ついい掛けるでもなく、それこそ不敵な面構つらがまえをして、さっさと歩き去りました。男は東京の山の手を荒していた空巣あきすねらいでした。
おせっかい夫人 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
モンテ・カルロで受けた心のいたみもようやくえたので、面構つらがまえに似気にげなく心の優しい部落の面々に別れを告げ、固く再来を約し、勇ましいタラノ音頭に送られて谷を出発したのは六月の始め。
「ちとそれだけの言いわけでは、そちの風体と言い、面構つらがまえと言い、主水之介あまりぞっとしないが、窮鳥きゅうちょうふところに入らば猟師も何とやらじゃ。では、いかにも匿まってつかわそうぞ。安心せい」
さっきは、船橋せんきょうに、このパイロットが松倉まつくら船長と肩をならべて、なにやら海上を指しているのを見た。軍人あがりとかいう噂だが、なかなかたくましい面構つらがまえのパイロットで見るからに頼母たのもしく感じた。
沈没男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
今迄と変って獰悪どうあくげな面構つらがまえが、たちまち見違うように柔和となった。
不思議な鳥 (新字新仮名) / 小川未明(著)
六の時にはもうほおひげも生えて三十くらいに見え、へんに重々しく分別ありげな面構つらがまえをして、すこしも可愛かわいいところがなく、その頃、讃岐に角力すもうがはやり、大関には天竺仁太夫てんじくにだゆうつづいて鬼石、黒駒くろこま
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
また面構つらがまへくづをれて
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
ぬけぬけと、やかましい。こうおさえ付けるこの方に対しても、そちの手脚のもがきには、どこか侍の手心てごころがある。——こやつ! この面構つらがまえを
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
背と腰には木葉をつづりたるものをまとひたり。横の方を振向ふりむきたる面構つらがまへは、色黒く眼円く鼻ひしげ蓬頭ほうとうにしてひげ延びたり。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
と冗談みたいにかしおってね……しかも、その顔付きたるや、断じて冗談じゃないんだ。たしかにまだ試験のうちらしい面構つらがまえをしてケツカルんだ。
焦点を合せる (新字新仮名) / 夢野久作(著)
三助は獰猛どうまう面構つらがまに似氣なく、一つ脅かされると、ペラペラとしやべつてしまひさうな樣子です。——腹からの惡黨ではないな——と平次が見て取つたのも無理はありません。
その将来に及ぶというような面構つらがまえにも見えて来るのが不思議であります。
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「見るところ、旅摺たびずれした面構つらがまえ、行商あきないも今日やきのうのことではあるまい。およそ侍屋敷などで、針など売れるものか否か、心得ておる筈」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分で一冊か二冊、つまらない別の本を裸で抱えて、如何にも有閑学生か、有閑インテリらしい気分と面構つらがまえで飄然と往来から這入って来るんですね。
悪魔祈祷書 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
女でないのみならず、男のうちでも筋骨のたくましい、風采ふうさいのいかめしい、面構つらがまえのきかない、そのくせ、はいりばなに兵馬とかおを見合せて、ニヤリと笑った気味の悪い武芸者風の壮漢でありました。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「その面構つらがまえでは、問うても容易に口を開くまいが」と、前置きしてほたるりのさきを、廊下の上から突き向けた。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見るからに丸柿庄六と名乗りそうな面構つらがまえで、手に草箒くさぼうきを一本げていたが、万平を見ると胡乱うろん臭そうにジロリと睨んで立止まって、ガッチリとした渋柿面しぶがきづらをして見せた。
芝居狂冒険 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
忍剣にんけんのうしろには木隠龍太郎こがくれりゅうたろう山県蔦之助やまがたつたのすけ巽小文治たつみこぶんじ竹童ちくどうなど、いずれも非凡ひぼん面構つらがまえをしてッ立っている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
光秀の首を土中から掘り起してこれへ持って来た訴人というのは、年頃三十がらみ、風体から見ても、酒焦さかやけのした、面構つらがまえもどことなく悪ずれている男だった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「他家には見られぬものが感じられます。質素のうちにも何やら皆、不屈な面構つらがまえをひそめて」
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
きっと思い出していただけよう——などと云い、てこでも動く面構つらがまえではございません
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
十五、十六といえば、元服して一人前、十八といえば、男はひとかどの面構つらがまえがなくちゃあならねえ。……たとえば、勿体ないが、御主人の織田信長おだのぶなが公を見ろ。当年、お幾歳いくつだと思う。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかも、その頭分かしらぶんの者であることは、面構つらがまえや服装でもすぐ分った。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
テコでも動かぬ面構つらがまえをして、啓之助の顔をジッと見ながら
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)