降出ふりだ)” の例文
チラリ/\と雪が降出ふりだしましたから、かさを借り、番場の森松と云う者が番傘を引担ひっかついで供をして来ますと、雪は追々積って来ました。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
悟って尼にならない事は、およそ女人以上の糸七いとしちであるから、折しも欄干越の桂川のながれをたたいて、ざっと降出ふりだした雨に気競って
遺稿:02 遺稿 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
食事をしたせいか燈火とうかのついたせいかあるいは雨戸を閉めたせいでもあるか書斎の薄寒さはかえって昼間よりもしのぎやすくなったような気がした。しかし雨はまたしても降出ふりだしたらしい。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
江戸にまいってから下谷したや練塀小路ねりべいこうじ大槻俊斎おおつきしゅんさい先生の塾に朋友があって、私はその時鉄砲洲てっぽうずに居たが、その朋友の処へ話にいって、夜になって練塀小路を出掛けて、和泉橋いずみばしの処に来ると雨が降出ふりだした。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
その時分はまだ一個のそう、家も二十軒あったのが、娘が来て一日二日、ついほだされて逗留とうりゅうした五日目から大雨が降出ふりだした。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
マア金貸かねかしでもしてるか、と想像さうざういたされますうち丁度ちやうど明治三年の十一月の十五日、霏々ちら/\日暮ひぐれから降出ふりだしてました雪が、追々おひ/\つもりまして
其時分そのじぶんはまだ一ヶのさういへ二十けんあつたのが、むすめて一にち、つひほだされて逗留たうりうした五日目かめから大雨おほあめ降出ふりだした。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
これから山の宿へ頼みにくのは造作もない、此の次は来月二日であるかと云いながら、神楽坂かぐらざかまで来ると、車軸を流すようにざア/\と降出ふりだして雨の止む気色けしきがございませんから
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
蝙蝠傘かうもりがさつゑにして、わたしがひよろ/\として立去たちさときぬまくらうございました。そしてなまぬるいあめ降出ふりだした……
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
まくらいて初夜しよやぐるころほひより、すこ氣候きこうがゆるんだとおもふと、およ手掌てのひらほどあらうといふ、ぞく牡丹ぼたんとなづくるゆきが、しと/\とはてしもあらず降出ふりだして
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
あめが、さつと降出ふりだした、停車場ていしやばいたときで——天象せつはなくだしである。あへ字義じぎ拘泥こうでいする次第しだいではないが、あめはなみだしたやうに、夕暮ゆふぐれしろかつた。
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ところあめだ。當日たうじつあさのうちから降出ふりだして、出掛でかけけるころよこしぶきに、どつとかぜさへくははつた。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
息休めの煙草たばこの火と、暗い町のが、うろつく湯気に、ふわふわ消えかかる狐火で、心細く、何処か、自動車、俥宿くるまやどはあるまいかと、また降出ふりだした中を、沼を拾うさぎの次第——古外套はばんですか。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)