鍛錬たんれん)” の例文
いまや蜀の国力も充分に恢復し、兵馬は有事の日に備えて鍛錬たんれんおこたりない。それは誰も異存なき意志を示しているひとみであった。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だが其すら、時としては、技術者の習練によって、第二国語——一層さかのぼって詩語としての鍛錬たんれんを経た古語を用いて、効果をあげることがある。
詩語としての日本語 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
そういう歩行中でも彼の思索に探り入る習慣は立派な鍛錬たんれんとなって、決してわきの刺戟しげきによって思索の軌道を踏み外すようなことはなかった。
宝永噴火 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
二十二三といふにしては、激しい仕事で鍛錬たんれんしたせゐか、少し老けて居りますが、それは實に見事な恰服と、輝やくばかりのきりやうの持主でした。
関七流のおさ、孫六の把握し得た水火鍛錬たんれんの奥義、かれの死とともにむざむざ墓穴に埋もれはてたというのであろうか?
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
これらの不幸は我輩の意気を強めこそすれくじきはしなかった。何かあるたびに、これしきのことにとさえ思って行けばなんでもない。鍛錬たんれんは成功の母である。
青年の天下 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
というは、旅はつらい、難儀なんぎである、可愛かわいい子にはこの辛苦しんくめさせ、鍛錬たんれんさせよとの意味である。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
考えると、踊にも高下こうげがある。それは踊る人の気品によるのだ。すぐれた気品は表現以上の心法しんぽう鍛錬たんれんから来る。つまりは内から映発するのだ。奥の奥の人柄の香気だ。芸は道なり。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
僕は義務として、一言いちごん君に注意します。我々甲羅こうらをへた独身ものは、ここへ来ても、さしつかえない。なんのことがあるものですか? 我々は鍛錬たんれんができてるからびくともしないです。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
いのち洗濯せんたく」「いのち鍛錬たんれん」「旅行日記」「目ざまし草」「関牧場創業記事」「斗満とまむ漫吟まんぎん」をまとめて一さつとした「命の洗濯」は、明治四十五年の三月中旬東京警醒社書店けいせいしゃしょてんから発行された。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
くわふるに寒肌あはを生じ沼気沸々ふつ/\鼻をく、さいはひに前日来身躰しんたい鍛錬たんれんせしが為め瘧疫ぎやくえきかかるものなかりき、沼岸の屈曲くつきよく出入はじつに犬牙の如く、之に沿うてわたることなれば進退しんたい容易やうゐ捗取はかどらず
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
廣介は突然昔の名前を呼ばれた位で驚くには、余りに鍛錬たんれんを経ていました。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
與吉よきちれておつぎは開墾地かいこんちつてた。勘次かんじ鍛錬たんれんした筋力きんりよくふるつてにおつぎはそこらのはやしから雀枝すゞめえだつてちひさな麁朶そだつくつてる。ちひさなえだ土地とちでは雀枝すゞめえだといはれてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
中学時代に学業よりも主として身体の鍛錬たんれんに努めて来たのも実はこのチベット行のためにそなえていたのだ、人間は自分の最高と信じた路に雄飛しなければ、生きていてもしかばね同然である、お母さん
花火 (新字新仮名) / 太宰治(著)
古代仏教徒の純粋で厳粛な男性的の鍛錬たんれんからはすこぶる遠かった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
時にはまた、面々木太刀をおっ取って、わざと幼い君一人をつつみ、それに負けじ魂と肉体的鍛錬たんれんをも、無理なほど打込んだ。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平常の鍛錬たんれんが成ればたまたま大々的の煩悶はんもんおそい来る時にあたっても解決が案外あんがい容易よういに出来る。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ないが実際完全に人間の身体を鍛えるということはよほど六ヶむつかしい。これは知識を得るよりよほど難い。その難きを忍んで常に鍛錬たんれんしなければならぬ。鍛錬をしない人間は駄目だ。
始業式に臨みて (新字新仮名) / 大隈重信(著)
彼葛城の為にも、彼女自身の鍛錬たんれんの為にも、至極好い思立おもいたちたのである。彼女は葛城の渡米当時已に自身も渡米す可く身をもだえたが、父の反対によって是非なく思い止まったのであった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
本朝刀剣鍛錬たんれんの基則。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
日頃の鍛錬たんれん薙刀なぎなたにこめて、そこへよろけてきた弦之丞の影を見るや否や、月山流がっさんりゅうの型どおりにその腰車こしぐるまを手強く払った。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、彼の身辺を離れた将士は、日頃の鍛錬たんれんと恥とを思い起して、各〻、戦いの中へ身を投じて行った。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三河武士の背ぼねは、我慢の鍛錬たんれんで組み上がっていた。君臣ともに、生涯を辛抱から出発していた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
およそ公卿が日頃に武技の鍛錬たんれんもしているという世はいったい何を語るものか。そぞろわしは怖ろしくなった。武門の子のわしが、こんなことでいいのかしらと思われての
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
父の如水と石舟斎とは茶禅の相識であった関係から、もっとも早く入門して、在京中は月に幾度となく騎馬でこの山荘まで通って来て、わざみがき、道をたずね、心法の鍛錬たんれんをうけていた。
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
騎馬、歩術の修練も積んでおき、平常に身体を鍛錬たんれんしている侍でなければ、なかなかああは成り難いものであると、早水藤左衛門は追い越された敵に、むしろ敬意に似たものを感じていた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
逆境中、それを心がけていたのが、やがて戦陣生活でいよいよ鍛錬たんれんされ、いまでは眠ろうとすれば即座にどこでも眠れるし、その長短も、その場所も、随時随時に居眠る修養ができていた。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
兵法の道、二天一流と号し、数年鍛錬たんれんのこと、初て書き顕はさんと思ふ。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大切な尊客の前において、不用意なる能をお目にかけなどしたは、みぐるしき曲事くせごとたるばかりでなく、芸者げいしゃとして、平常の心がけの不つつかによる。芸道の鍛錬たんれんも、武家の兵法も、変りあるべきでない。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
毎日、鍛錬たんれんは怠らない。その休養のあいだが約百日ほどつづいた。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「と、思いはしますが、聞くところに依ると、佐々木巌流というものは、さすがに稀れな天才らしゅうございます。殊に、細川家に召抱えられてからは、朝暮ちょうぼの自戒鍛錬たんれんは一通りでないとも聞き及びました」
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)