もり)” の例文
さながらもりを携えた漁夫がよく肥った鱘魚ちょうざめでも追いまわすように、一事が万事、不正の利慾を貪るに汲々として寧日なき有様であった。
「親父は、沖で一人底引き網をやってたんです。もりも打ったんです。二十八貫もあるカジキを、三日がかりでつかまえたこともあります」
他人の夏 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
台湾大甲渓の山女魚は、先年大島正満博士が原住民と共にもりやなあさり、鮭科の魚の分布に関して学問上の報告を出したので有名である。
雪代山女魚 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
三上淡路守みかみあわじのかみというやはり毛利家の一将。駈け寄って来て、岸から槍をほうりつけた。大鯨たいげいを突いたもりのように、槍は真っな水の中に立った。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
母である多計代は、女として伸子が、そこにひけめをもってでもいるように、その一点を狙って放ったもりのように云って椅子から立ち上った。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
鯨を見つけたら、伝馬船てんませんと漁船で、鯨に突進して、もり手槍てやり爆裂弾ばくれつだんをつけた銛を、鯨にうちこんで、鯨と白兵戦をやって、しとめるのである。
無人島に生きる十六人 (新字新仮名) / 須川邦彦(著)
鯨のもり打ち、土工、剥皮夫、導坑トンネル師、猟師、船大工。……導坑トンネル師の亀井金太郎と土工の須田松吉の前身が、このきわどい時に役に立ったのだった。
地底獣国 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
もりは長い竿のさきに、鉄の槍をいい加減にくっつけた物で、綱がついているから、使用後には竿を引きぬき、倒鉤のある槍さき丈を、魚の身体に残すのである。
骨器、牙噐、石噐中には其形状如何にももりの如くに見ゆるものる上に、斯かる證據物さへ出でたる事なれば大魚たいぎよれうする爲にもりの用ゐられし事何の疑か有らん。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
捕鯨船北海丸ほくかいまるの砲手で、小森安吉こもりやすきちと云うのが、その夫の名前だった。成る程女の云うように、生きている頃は、一発もりを撃ち込む度に、余分な賞与にありついていた。
動かぬ鯨群 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
○汐干狩の楽地として、春末夏初の風のどかに天暖かなる頃、あるいは蛤蜊こうり爪紅つまくれないの手にるあり、あるいはもりを手にして牛尾魚こち比目魚ひらめを突かんとするもあるところなり。
水の東京 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
またさかなときばりだとか、さかなときもりにも、ほねつのつくつたものでなければやくたないのでありまして、常陸ひたち椎塚すいつかといふ貝塚かひづかからは、たひあたまほね
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
入りかわりにそこへ、こんどは三人の矢鏃士バンデリエイルの登場だ。二本ずつ六本のもりを打ちこむ役である。
辛苦して硝子ガラスの水槽の中に養わざる限りは、常に西海の珊瑚暗礁さんごあんしょうの底深く隠れ、もり刺網さしあみもその力及ばず、到底とうてい東部日本の雪氷の地方まで、我々に追随ついずいし来る見込はないのだが
そこで取巻いた二十そうばかりの八梃櫓はっちょうろの鯨舟が、もりを揃えて子鯨にかかる。
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
もりに似て、鐵の尖きが三つか四つに別れて、魚を突く道具ですよ。川でも海でも使ひ、時にはなまずうなぎも取るが。もとは、岩川の石を起して、底を拔いたをけを眼鏡にして、かじか岩魚いはなを突くんで」
魚群のきたるをもりを携えて立ち待てりと伝う
立待岬にいたりて (新字新仮名) / 今野大力(著)
手に手にくはしもりとる神の眷屬うから
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
もりあぎとにうけて
寂寞 (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
もりかづぐ南蛮人は
小曲二十篇 (新字旧仮名) / 漢那浪笛(著)
船を出してもりで突きとめた、突き鯨にたいしては二十ノ一、死んで海岸に寄り着いた、寄り鯨にたいしては三ツ二つ
奥の海 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
そこのすすけた壁には、漁具、網、法螺の貝、いかり、等のふつう目なれた物以外に、もりや鉄砲——海の武器とも呼ぶべきものまでが、雑然と掛けならべてありました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
コロボックルは如何いかにして之をふせぎしか。余は彼等はエスキモーが爲す如く、もりに長きひもを付け其はし獸類ぢうるい膀胱抔ばうくわうなどにて作りたるふくろくくけ置きしならんと考ふるなり。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
雌鯨がもりを打たれると、決してそばを離れないのである。心痛、悲哀の状を真っ黒い背中に現わして、雌の傷口から流れ出した鮮血で真っ赤になった海上を、おろおろと徘徊する。
海豚と河豚 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
なんでも、早く一人まえになって、一番もりをうってやろうと、思ったね。
無人島に生きる十六人 (新字新仮名) / 須川邦彦(著)
「兄哥、餘計なことは言はない方がいゝぜ、俺だつて、もりなら抛るが」
漁師共のもりと、船とは、麻殻おがらのように、左右にケシ飛んでしまう。
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ほねつくつたもりがさゝつたまゝ發見はつけんせられたのがありました。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
そのもりを、星のごとくに
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
その坂道の横合から、ブ——ンと風を切ッて飛んだ一本のもりが、先へ逃げだした一人の男の体へグザと突き立って、さめのような絶叫をあげさせたからたまりません。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこで槍騎士ピカドールが飛び出したが、これもきわどいところで塀のうしろへ退却する。お次は銛打ちバンデリエロ。これがどうやら持っただけのもりを打ち終えると、いよいよ最後の仕止め段。
おもふに此利噐このりきは前にかかげたる獸骨器とひとしく、もり尖端せんたんとして用ゐられしものなるべし。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
「兄哥、余計なことは言わない方がいいぜ、俺だって、もりなら投るが」
美魚うましうをしびつくもり
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
むかし、もり師だった、めっかちの北原省三が、感にたえたような声で、叫び出した。
地底獣国 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
大きな聲を出すわけにも行かず、揉み合つて居ると、かねて勘次郎を狙つて居た吉三郎が、納屋の二階から見て、荷造に使ふ青竹へ、出刄庖丁を括り付け、投げもりの呼吸で向うの二階へ抛つたんだ。
それもただ鋭利な刃ものを棒のさきに植えたもりのようなものだった。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
フランダースの飾り皿の和蘭オランダの風景や、鯨にもりをうっている諾威ノルウェーの捕鯨船の図などに眼をよせて眺めると、今まで見落としていた小さな花々や、浮雲や、遠い風車や、波の間で泳いでいる魚などを
大きな声を出すわけにも行かず、揉み合っていると、かねて勘次郎を狙っていた吉三郎が、納屋の二階から見て、荷造りに使う青竹へ、出刃庖丁をくくり付け、投げもりの呼吸で向うの二階へほうったんだ。
「残ったやつらは、この小七、小五が、もりのさきで串刺くしざしか」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
漁師の置忘れたもりという物騒な道具に相違ありません。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「手鎗とか、もりとかを——」
十時——十一時半 もり打ち。
手槍てやりとか、もりとかを——」