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鉄漿
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おはぐろ
ふりがな文庫
“
鉄漿
(
おはぐろ
)” の例文
旧字:
鐵漿
そうして、突かれた紙帳は、
穏
(
おとな
)
しく内側へ萎み、裾が、ワングリと開き、
鉄漿
(
おはぐろ
)
をつけた妖怪の口のような形となり、細い白い手が出た。
血曼陀羅紙帳武士
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
三十二というにしては恐ろしく若く、色白の無造作な化粧、
鉄漿
(
おはぐろ
)
もつけず、眉も落さないのが、反ってこの女を新鮮に見せるのでしょう。
銭形平次捕物控:241 人違い殺人
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
婆さんは
鉄漿
(
おはぐろ
)
のはげかかった半分黒い歯を見せて笑い出した。庭の土間での立ち話もそこそこにして、また裏口から出て行った。
夜明け前:01 第一部上
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
文字どおりな
鉄漿
(
おはぐろ
)
の使い水や、風呂の
垢
(
あか
)
や、台の物の洗い流しや、あらゆる廓の醜悪がこの下水へ流れこんで、どす黒い泡を立てていた。
鳴門秘帖:02 江戸の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
其の次の段には、燭台だのお膳だの
鉄漿
(
おはぐろ
)
の道具だの唐草の金蒔絵をした可愛い調度が、此の間姉の部屋にあったいろ/\の人形と一緒に飾ってある。
少年
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
▼ もっと見る
女将
(
かみさん
)
は返事をする準備として、とりあえず取って付けたように
魘
(
おび
)
えた顔をした。この辺には珍らしく眉を剃って
鉄漿
(
おはぐろ
)
をつけているからトテモ珍妙だ。
山羊髯編輯長
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
追従笑
(
ついしょうわら
)
いの大口を開くと歯茎が鼻の上まで
開
(
はだ
)
けて、
鉄漿
(
おはぐろ
)
の
兀
(
は
)
げた
乱杭歯
(
らんぐいば
)
の間から
咽喉
(
のど
)
が見える。
怯
(
おび
)
えたもんですぜ。
卵塔場の天女
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
男の覗いていたのはある有名な古物商の陳列窓で、そこの中央には
由
(
よし
)
ありげな
邯鄲
(
かんたん
)
男の能面が
鉄漿
(
おはぐろ
)
の口を半開にして、細い目で正面を睨んでいたという。
黄金仮面
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
「母さん、判りました、判りました。漸く虹蓋の秘法が判りました。
鉄漿
(
おはぐろ
)
です、あ、あの苦い鉄漿だつたのです」
名工出世譚
(新字旧仮名)
/
幸田露伴
(著)
染めんとするも、ドウしても
鉄漿
(
おはぐろ
)
が付かぬ。しかるに、死人を焼きたる火にて鉄漿をとかせばよく染まると聞いて、昼は人目をはばかり、夜中ここに来たって歯を
おばけの正体
(新字新仮名)
/
井上円了
(著)
うすい
鉄漿
(
おはぐろ
)
の
痕
(
あと
)
が……。で、たぶん
鉄漿
(
かね
)
をつけている女が袂から手拭を出したときに、ちょいと口に
啣
(
くわ
)
えたものと鑑定して、おはぐろの女ばかり詮議したわけです。
半七捕物帳:39 少年少女の死
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
顴骨
(
ほほぼね
)
の高い、疲労の色を湛へた、大きい眼のどんよりとした顔に、唇だけが際立つて紅かつた。其口が
例外
(
なみはづ
)
れに大きくて、
欠呻
(
あくび
)
をする度に、
鉄漿
(
おはぐろ
)
の剥げた歯が醜い。
刑余の叔父
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
その——いやに紫ずんでいて、そこには到底、光も艶もうけつけまいと思われるような
歯齦
(
はぐき
)
だけのものが、
銅味
(
あかみ
)
に染んだせいかドス黒く溶けて、そこが
鉄漿
(
おはぐろ
)
のように見える。
絶景万国博覧会
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
遺伝は、結婚したら
鉄漿
(
おはぐろ
)
をつけると云う。上海プノンペン間を商用にて往来する父にカンボジヤ国より
檳榔子
(
ばあむ
)
の実を土産に買ってきてもらう。
霖雨
(
りんう
)
の来らんことをたえず願う。
新種族ノラ
(新字新仮名)
/
吉行エイスケ
(著)
黒々と
鉄漿
(
おはぐろ
)
を附けた、割合に
老
(
ふ
)
けた顔で、これが友の妻とすぐ感附いた自分は、友の姿の小さく若々しいのに比べて、いかにこの妻の丈高く、体格の大きいかといふ事に思ひ及んだ。
重右衛門の最後
(新字旧仮名)
/
田山花袋
(著)
自分たちの子供の時分には既婚の婦人はみんな
鉄漿
(
おはぐろ
)
で歯を染めていた。祖母も母も姉も
伯母
(
おば
)
もみんな口をあいて笑うと赤いくちびるの奥に
黒耀石
(
こくようせき
)
を刻んだように漆黒な歯並みが現われた。
自由画稿
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
鉄漿
(
おはぐろ
)
も
黒々
(
くろぐろ
)
と、
今朝
(
けさ
)
染
(
そ
)
めたばかりのおこのの
歯
(
は
)
は、
堅
(
かた
)
く
右
(
みぎ
)
の
袂
(
たもと
)
を
噛
(
か
)
んでいた。
おせん
(新字新仮名)
/
邦枝完二
(著)
山伏が
祈祷
(
きとう
)
をすれば人——もしくは鬼——の口の中にでもはいることができる、というのが前句の表面の意味、
鉄漿
(
おはぐろ
)
さえつければ人の歯は黒くなるというのが後句の表面の意味でありますが
俳句とはどんなものか
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
鉄漿
(
おはぐろ
)
とんぼに
十五夜お月さん
(旧字旧仮名)
/
野口雨情
(著)
それに
鉄漿
(
おはぐろ
)
の跡がある。で半七は断定した。「鉄漿をつけた或る女が、手拭の端を口で
銜
(
く
)
わえ、それで子供を絞殺したのだ」
半七雑感
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
「あ……そ、それですか。それはあの……何でもございません。
鉄漿
(
おはぐろ
)
を解く時に、指を入れて、汚したまま、つい拭きもせずに置きましたので」
牢獄の花嫁
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
父親はそうでもなかったけれど、
草鞋
(
わらじ
)
の音の、その
鉄漿
(
おはぐろ
)
の口は蛇体や、鬼でしたぞね。それは
邪慳
(
じゃけん
)
な
慾張
(
よくば
)
りや。
卵塔場の天女
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
鉄漿
(
おはぐろ
)
などと云う化粧法が行われたのも、その目的を考えると、顔以外の空隙へ悉く闇を詰めてしまおうとして、口腔へまで暗黒を啣ませたのではないであろうか。
陰翳礼讃
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
町の女房らしい二人
連
(
づれ
)
が日傘を持って這入って来た。彼らも煙草入れを取出して、
鉄漿
(
おはぐろ
)
を着けた口から白い煙を軽く吹いた。山の手へ上って来るのは中々
草臥
(
くたび
)
れるといった。
二階から
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
葛籠
(
つづら
)
の類、古めかしい陶器類、それらに混って、異様に目を
惹
(
ひ
)
きますのは、
鉄漿
(
おはぐろ
)
の道具だという、巨大なお
椀
(
わん
)
の様な
塗物
(
ぬりもの
)
、塗り
盥
(
だらい
)
、それには皆、年数がたって赤くなってはいますけれど
人でなしの恋
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
呟きながら、横へさした
黄楊
(
つげ
)
の
櫛
(
くし
)
で、洗い髪の毛の根を無性に掻きながら、
黒曜石
(
こくようせき
)
の歯をならべた
鉄漿
(
おはぐろ
)
の
唇
(
くち
)
から、かすかな舌打ちをもらしていた。
剣難女難
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
しかし、やがて、紙帳の裾が、
鉄漿
(
おはぐろ
)
をつけた口のようにワングリと開き、そこから、穴から出る
爬虫類
(
ながむし
)
かのように、痩せた
身長
(
せい
)
の高い武士が出て来た。刀をひっさげた左門であった。
血曼陀羅紙帳武士
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
私はさっき
鉄漿
(
おはぐろ
)
のことを書いたが、昔の女が眉毛を剃り落したのも、やはり顔を際立たせる手段ではなかったのか。そして私が何よりも感心するのは、あの玉虫色に光る青い口紅である。
陰翳礼讃
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
今度は少し
仰向
(
あおむ
)
けになったと思うと、お母さんの白い指が、雪の降止もうとするように、ちらちらと動いた、——
自棄
(
やけ
)
に
鉄漿
(
おはぐろ
)
の口が臭くってそいつを振払った、と今の私なら言うんだが
卵塔場の天女
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
かれらも煙草入れを取り出して、
鉄漿
(
おはぐろ
)
を着けた口から白い煙りを軽く吹いた。山の手へ
上
(
のぼ
)
って来るのはなかなかくたびれると云った。帰りには
平河
(
ひらかわ
)
の天神さまへも参詣して行こうと云った。
綺堂むかし語り
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
笑う時は、少し身を斜めにして、美しく染めた
唇
(
くち
)
の
鉄漿
(
おはぐろ
)
へ、
銀杏形
(
いちょうがた
)
の
扇子
(
せんす
)
を当てて笑うのが、彼のいつもする癖だった。
新書太閤記:02 第二分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
「なに、知らないことがあるもんですか」と、女房は
鉄漿
(
おはぐろ
)
の歯をむき出した。
半七捕物帳:29 熊の死骸
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
あの通船楼の若いおかみさんの
鉄漿
(
おはぐろ
)
がまたどこかで
嗤
(
わら
)
っているような気がするのだった。
春の雁
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
「斬ると、こんなに、爪の色が、
鉄漿
(
おはぐろ
)
を塗ったように、真ッ黒になるものですか」
牢獄の花嫁
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
髪は
公卿風
(
くげふう
)
の総髪に
結
(
ゆ
)
い、歯には
鉄漿
(
おはぐろ
)
を黒々と染め、鼻下に
髭
(
ひげ
)
を蓄えている。
新書太閤記:02 第二分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
「それはもう……」と、お久良は愛嬌のある口元から、
鉄漿
(
おはぐろ
)
の
艶
(
つや
)
を見せて
鳴門秘帖:04 船路の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
擽
(
くすぐ
)
ったそうに、通船楼のおかみさんは笑った。闇の中でも
鉄漿
(
おはぐろ
)
は光った。
春の雁
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
鉄
常用漢字
小3
部首:⾦
13画
漿
漢検1級
部首:⽔
15画
“鉄漿”で始まる語句
鉄漿溝
鉄漿染
鉄漿親
鉄漿壺
鉄漿歯
鉄漿爪
鉄漿色
鉄漿首
鉄漿黒
鉄漿公方