くびき)” の例文
くびきをかけてくれと宗教に求めていた。そしてこの相反した二つの気運は、実に非論理きわまることには、同じ魂の中に起こっていた。
婦人は最早病弱不具な、そして貧乏と奴隷のくびきを打破する力も道義心をも持たないやうなみじめな人間の生産に与かることを願はない。
結婚と恋愛 (新字旧仮名) / エマ・ゴールドマン(著)
その日その日の生命に無理なくびきを負わせないで、あるがままに楽み、唯もう自然と遊戯しているつもりで暮していたらしかった。
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
そこには、山脊のようになって長く連っている耕地があって、からすきが一つ、前夜馬をくびきから離した時に残されたままにしておいてあった。
ヨセフは牛の頸に繋ぐくびきをこしらえていた。すると、かたわらの寝床の中で眠っていた息子のイエスが目をさまして、泣声をたてた。
聖家族 (新字新仮名) / 小山清(著)
我はかの重荷を負へる魂と、あたかもくびきをつけてゆく二匹の牡牛のごとく並びて、うるはしき師の許したまふ間歩めり 一—三
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
え切ってきりきりいたむ腹、かわき切ってひりひりいたむ喉、目は砂ぼこりでかすみ、腰に結びつけられた重荷のくびきの情け容赦のない重さ。
のみならず芸術は空間的にもやはりくびきを負はされてゐる。一国民の芸術を愛する為には一国民の生活を知らなければならぬ。
侏儒の言葉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ところが、その抵抗にもかかわらず、運命の強力なくびきにはさまれ、人情の谷に落ちこんで、いつか、その親分のようなものになってしまった。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
パジェスによれば、ノノは九分の一税、カンガはポルトガル語で牛のくびきを意味するが、然し、多分日本語の何かではあるまいか、と言つてゐる。
島原の乱雑記 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
どうだい、まあ、あの胸と肩は! それからその大きな四角い額、その角とそのまはりのくびきの革紐、其の眼は穏やかな力強い威厳で光つてゐる。
尖ったひじと枯木にひとしい手をすぼめている。くびきの下に押さえられているように垂れた頭の上から、彼女の背中が見える。髪の毛一本動かない。
矯飾きょうしょくもなく、不平もなく、素直に受け取り、くびきにかかった輓牛ひきうしのような柔順な忍耐と覚悟とをもって、勇ましく迎え入れている、その姿を見ると
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
くびきから外すんだ。さあ、どうか中へお入り下さい、此処ではとても暑くて、私の襯衣はもう、ぐつしよりなんです。
ルネッサンスは中世の思想と社会が人間に強制していた種々のくびきからの人間性の解放を叫んで、社会文化の各方面に驚くべき躍進を遂げた時代であった。
昭和の十四年間 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
しまいにはわたしが彼女のくびきから脱して、何ともいえない心もちになり、まるっきり新しい、別な美しい女と一緒になった時の有様まで空想するのです。
何も大路であるから不思議なことは無い。たまたま又非常に重げな嵩高かさだかの荷を負うてあえぎ喘ぎ大車のくびきにつながれてよだれを垂れ脚を踏張ふんばって行く牛もあった。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
最大のくびきである肉親とのわかれは、この前の時には今日ほどのさびしさではその解決を迫りはしなかつた。今はわかれはただの別離ではない。順吉は迷つた。
第一義の道 (旧字旧仮名) / 島木健作(著)
機会は二度ときたらず、ペーデルよ、ただちに改悔せよ! 悔悟せよ! そなたのくびきは予が負うであろう。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
生涯忘れることの出来ない不愉快な記憶が、私の良心の上に、重大なくびきを置いてしまったのです。
昔預言者イザヤが三年の間赤裸はだか跣足はだしでエルサレムの町を歩んだり(イザヤ二〇の二—四)、エレミヤが徳利を壊し(エレミヤ一九の一〇)、くびきを首にかけ(同二七の二)
勿論かうした位置からばかり彼と接觸して行くことは、少なからず私を苦しめるに違ひない。しかし私の肉體は過重なくびきの下に置かれても、心も魂も自由でゐられるのだ。
平原の一面たる山々の濃淡いろいろなる緑を染め出したる、おそろしき水牛、テヱエルの黄なる流、これをさかのぼる舟、岸邊を牽かるゝくびきひたる牧牛、皆目新しきものゝみなりき。
人間が牛肉を食うと同じように、人間が人間を食う時代の存続する限り、労働者は、その生命がくびきもとにあることを自覚しなければならない。水夫らは、そんなふうなことを感じた。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
それは一つの隷属を[#「贏」は底本では「※」]ち得んとする企図であった。この戦役においては、民主制の子孫たるフランス兵士の目的は、他人に課すべきくびきの獲得であった。
そばには牛車うしぐるまが幾台となく置かれ、幾箇かの檻も置かれてあり、その中には猿や山猫や狐が、これも何んの不安もなさそうに、寝たり起きたりしてノンビリとしてい、くびきから放された牛や馬は
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それが氣懸きがゝりゆゑ、おれゃもうけっしてこのやみやかたはなれぬ。そなた侍女こしもと蛆共うじどもと一しょにおれ永久いつまで此處こゝにゐよう。おゝ、いまこゝで永劫安處えいがふあんじょはふさだめ、憂世うきよてたこの肉體からだから薄運ふしあはせくびき振落ふりおとさう。
諸々の古きくびきの侮蔑者にして、全ての恐怖に勝てる者
美なる黄金のくびき附け、之に黄金の紐を垂れ、 730
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
以色列イスラエルが、「柔弱家にうじやくか」のくびきに屈するを許し給はず
頌歌 (旧字旧仮名) / ポール・クローデル(著)
さうしてここで、その重いくびきから解き放たれて
艸千里 (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
われはくびきとなりてかれ
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
くびきつながれたるうしうま
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
狂ひもいでよくびきさへ
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
あらゆる芸術家が知っている最上の享楽である。創作してる間、芸術家は欲望と苦悩とのくびきを脱して、かえってその主人となる。
(この山よりペルージアは、ポルタ・ソレにて暑さ寒さを受く、また坂の後方うしろにはノチェーラとグアルドと重きくびきの爲に泣く)
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
のみならず芸術は空間的にもやはりくびきを負わされている。一国民の芸術を愛する為には一国民の生活を知らなければならぬ。
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
其処には長い間のくびきを投げ棄て、そして今は『子供の手に引かれて』ゐる民衆がゐるのだ。それは非常な驚異であつた。
子供の保護 (新字旧仮名) / エマ・ゴールドマン(著)
金五郎はマンへ秘密を持ちたくはなかったけれども、それは、強力無双な運命のくびきのように、いったん捕えた金五郎を、離そうとはしなかったのである。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
私たちが、まだ十分自覚し用意していないすきに乗じて、再び人民にくびきをかける金持、地主、ダラ幹の政党が、バッコしようとしている気配があるからです。
幸福のために (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
こき使われる奴隷やくびきをかけられた牡牛がするかもしれぬように安楽と休息との夢をみながら、村の瘠せた住民たちは深く眠って、食物を食べ自由の身となっていた。
それから、夕立のあとののように鼻の先からしずくを垂らしながら、ちゃんとそのつもりで、おとなしくのそのそと、いつもの場所へやって行って、車のくびきの下へからだを突っ込む。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
私の生命を救つて呉れた人達を、今迄はたゞむなしく愛してゐたが、これからは都合よく計つて上げられるのだ。あの人たちはくびきの下にゐるのだ。彼等を私は自由にして上げることが出來る。
我まことにエフライムのみずから嘆くを聞けり、いわく汝は我をこらしめ給う、我はくびきに馴れざるこうしのごとくに懲しめを受けたり、エホバよ、汝はわが神なれば我を牽転ひきかえし給え、しからば我かえるべし。
鞭をくびきに立て掛けぬ。その時彼の身に代り、 510
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
くびきも綱も捨てけりな
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
深い無意識界から迸り出て来る自由な本能は、それとなんら関係のない明確な観念と、理性のくびきの下において、否応なしに連絡させられていた。
内縁関係、未亡人の生きかたに絡む様々の苦しい絆は、経済上の性質をもっているにしろ、その根に、精神のくびきとして、封建的な家族制度がのしかかっている。
合図の旗 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
最深最善の情緒が鉄のくびきの下に呻吟しつつある時、如何して文学、教養、思想の発達進歩を見ることが出来やう? かの惰眠を貪る不活溌愚昧の露西亜農民は言語に絶する悲惨、闘争
少数と多数 (新字旧仮名) / エマ・ゴールドマン(著)
避けようと努力している方角へ、強力な運命のくびきが、二人をねじ向ける。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)