ほこり)” の例文
丸でをんな御白粉おしろいける時の手付てつきと一般であつた。実際彼は必要があれば、御白粉おしろいさへけかねぬ程に、肉体にほこりを置く人である。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
が、セエラの凛とした顔を見、ほこりのある声を聞くと、自分の力が空しく消えて行ったような気がして、口惜しくなるのでした。
弓を執らざる弓の名人は彼等のほこりとなった。紀昌が弓にれなければ触れないほど、彼の無敵の評判はいよいよ喧伝けんでんされた。
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
汝のまことことば善き謙遜をわが心にそゝぎ、汝わが大いなるほこりをしづむ、されど汝が今語れるは誰の事ぞや。 一一八—一二〇
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
そうだ! あんないやしい人間におそれてなるものか。の男こそ、自分の清浄な処女おとめほこりの前に、じ怯れていゝのだ。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
土方も、近藤も可成り前、故郷を離れた切りだったから、新撰組の近藤、土方、若年寄という大役の近藤として、郷土の人々に逢うのは、ほこりであった。
近藤勇と科学 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
武士の子というほこりはあったにしても、幾日も幾月もの間、小さい余吾之介は、その物凄すさまじい幻に悩まされて、内証でふるえていたことを思い出したのです。
十字架観音 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
うしろつきも、罎と鎌で調子を取って、大手を振った、おのずから意気の揚々とした処は、山の幸を得たほこりを示す。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ここにおいて江戸児えどっこは水道の水と合せて富士の眺望を東都のほこりとなした。西に富士ヶ根東に筑波つくばの一語は誠によく武蔵野の風景をいい尽したものである。
ヨブのこれらのことばに彼らはそのほこりきずつけられ、そしてエリパズはその返報としてヨブを責めるのである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
アア、一転瞬にして、珠子のけがれを知らぬ、花びらの様な唇は、その気高いほこりを失おうとしているのだ。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
来年学校を卒業すると、一郎は洋行するはずになっていたが、澤は主人の主宰している会社に雇われる事にきまっていた。彼は小学時代から優等生のほこりを持っていた。
九月一日 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
又市民は前の浮世絵の博物館ミユウゼと市外のロオヤル公園の中に前年の博覧会の記念として保存されて居る日本の五重塔ぢゆうたふとを有する事をブリユツセルのほこりとして居る様である。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
就中なかんずく東京の少年少女は最も甚だしい。東京人がその敏感と早老を以てほこりとしているように、少年少女もその早熟と敏感とをプライドとしているかのように見える位である。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
一人はA国科学界の第一人者フーラー博士、必敗の運命におびえながらも、まだ白人としてのほこりを捨てず、愛機『荒鷲』をもって、武田博士を返討かえりうちしようとしているのだ。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
この愛情のむちが、大きくうなりを生じて俵的の頭の上に鳴りひびくのも遠いことではあるまい。私は親馬鹿の境地に安住あんじゅうし、親馬鹿であることに多少のほこりさえもかんじている。
親馬鹿入堂記 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
いまに叔母が死ねば遺産も貰える。私には私のほこりがあるのだ。私はあの人を愛していない。
女の決闘 (新字新仮名) / 太宰治(著)
人力車夫がの大街道を勢づいて走つてゐるときには心中に一種のほこりがあつただらう。あたかもヴアチカノの宮殿を歩いてゐるときに何か胸が開くやうに感ずるが如きものである。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
『けれども、フィンスポングの製鉄場せいてつじょうのぐあいが悪くなったときには、それにかわって、エステルイエートランドのほこりになるようなものは、もう何もなくなると思いますが。』
しかし、それもこれもつまりは勝負事しようぶごとちたいといふよくと、ほこりと、あるひ見得みえとからくるのかとおもふと、人間にんげんいやしさあさましさも少々せう/\どんづまりのかんじだが、支那人しなじん麻雀マアジヤンばかりとははず
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
ほこりを深い胸に蔵め、うやまいを色にあらわして
くいもなくほこりもなくて子規忌かな
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
たとへば食をあさりてつどへる鳩の、聲もいださず、その習ひなるほこりもみせで、麥やはぐさの實を拾ふとき 一二四—一二六
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
かつての自分のほこりであった・白刃はくじんまえまじわるも目まじろがざるていの勇が、何とみじめにちっぽけなことかと思うのである。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
三度目四度目五度目十度目の準備まで整っているのかも知れない。そう思うと、瑠璃子は又更に自分の胸の処女のほこりが、烈火のように激しく燃えるのを感じた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
非道なことをして溜めた鍵屋の金を、たつた一兩でもつたものがあれば、それはまさに、泥棒競爭のゴールを征服したもので、仲間へのほこりにもなつたことでせう。
父は名主なぬしがなくなってから、一時区長という役を勤めていたので、あるいはそんな自由もいたかも知れないが、それをほこりにした彼の虚栄心を、今になって考えて見ると
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
セエラさんのフランス語や舞踏は、学校のほこりと申さねばなりません。それにセエラさんのお行儀は、プリンセス・セエラと呼ぶにふさわしいほど、非の打ちどころがありません。
ここに残るは、名なればそれをほこりとして、指にも髪にも飾らなかった、紫の玉ただ一つ。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
れも英人なりとほこりかに云ひし黒人くろんぼのドクトルはコロンボにて降りしにさふらふ
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
彼は神の大智をたたえつつヨブのほこりを責めているのである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
見栄みえも無くほこりも無くて老の春
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
こゝに残るは、名なれば其をほこりとして、指にも髪にも飾らなかつた、むらさきの玉ただ一つ。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
子供達は大人を仲間にすることに、一種のほこりさへ持つて居るのでした。