もうで)” の例文
停車場ステーション前へ出た。往来の両側には名物うんどん、牛肉、馬肉の旗、それから善光寺もうでの講中のビラなどが若葉の頃の風になぶられていた。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
……式の最初、住吉もうで東雲しののめに、女紅場で支度はしたが、急にお珊が気が変って、やしろへ参らぬ、と言ったために一人俄拵にわかごしらえに数をやした。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
初蝉はつぜみの声が静かだった。ふだんはもうでる人も極めて稀な貴船山きぶねやま奥之社おくのやしろに、今し方、誰か柏手かしわでを打って拝殿のあたりから去って行く気配と思うと
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
猿楽さるがく狂言からも、また貞徳ていとくの「独吟百韻」からも、富士もうでの群衆のざわめきは、手に取るように聞えるが、それらの参詣者は、皆この村山口を取ったものであるらしい。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
わたくしはまた香以伝に願行寺の香以の墓にもうでる老女のあることを書いた。そしてその老女が新原元三郎という人の妻だと云った。芥川氏に聞けば、老女は名をえいと云う。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
江の島もうでの一行が、暴風雨のために桟橋が落ちて島に閉じめられ、そのうちの一人、徳力屋千之助が、雨の止んだ深夜の海の凄まじい様子を見物すると言って宿を脱け出し
元日 門松 萬歳 カルタ 松の内 紅梅 春雨 彼岸 春の山 猫の恋 時鳥ほととぎす 牡丹ぼたん 清水 五月雨 富士もうで 七夕 秋風 目白 しいの実 秋の暮 時雨しぐれ 掛乞かけごい 牡蠣かき 枯尾花 鐘ゆる
俳句の作りよう (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
某日あるひ豊雄が店にいると、都の人の忍びのもうでと見えて、いとよろしき女が少女を伴れて薫物たきものを買いに来た。少女は豊雄を見て、「吾君わがきみのここにいますは」と云った。それは真女児の一行であった。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
大行たいこう天皇の御はふりの御わざはてにけるまたの日、泉涌寺せんにゅうじもうでたりけるに、きのふの御わざのなごりなべて仏さまに物したまへる御ありさまにうち見奉られけるをかしこけれどうれはしく思ひまつりて
曙覧の歌 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
長閑のどかさよ願いなき身の神もうで
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
竹生島ちくぶしまもうで
紀州の毬唄まりうたで、隠微な残虐ざんぎゃくの暗示がある。むかし、熊野もうでの山道に行暮れて、古寺に宿を借りた、若い娘が燈心で括って線香で担って、鯰を食べたのではない。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……松崎は実は、うらわかい娘の余り果敢はかなさに、亀井戸もうで帰途かえるさ、その界隈かいわいに、名誉の巫子いちこを尋ねて、そのくちよせを聞いたのであった……霊のきたったさまは秘密だから言うまい。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
本願寺もうでの行者の類、これに豆腐屋、魚屋、郵便配達などがまじって往来引きも切らず、「早稲わせの香や別け入る右は有磯海ありそうみ」という芭蕉の句も、このあたりという名代の荒海あらうみ、ここを三十とん
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
梓はその感情をもって、その土地で、しかも湯島もうであした御手洗みたらしの前で、桔梗連ききょうれんの、若葉と、のぼりと、杜鵑ほととぎす句合くあわせ掛行燈かけあんどう。雲が切れて、こずえに残月の墨絵の新しい、あけぼのに、蝶吉に再会したのである。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
雪の朝の不忍の天女もうでは、可憐いとしく、可愛い。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うまれ加州かしゅうざい、善光寺もうでみちなるよし
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)