訴人そにん)” の例文
「黙れ、この近いところに米を売るようなところはあるまい、貴様は訴人そにんに出かけたな、我々の所在ありかを敵の討手へ知らせに行ったのであろう」
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「その方が心持こころもちい、命を取ったんだと、そんなにせずともの事を、わたし訴人そにんしたんだから、うらみがあれば、こっちへ取付とッつくかも分らずさ。」
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
訴人そにんするにしては、幸吉もお歌にはポーツと來て居るし、お前に何にか言ひ度さうにしたのもそんな事だらう。
それは盗賊を訴人そにんした者に、「銀二十五枚を与える」という触書のことであった。芝愛宕下あたごしたの南宗院という寺へ三人組の賊がはいり、寺宝を幾つかぬすみ出した。
さては! お探ね者の御書院番を見破られたかな?!——と、今、ここで訴人そにんをされて押えられては、この七日間、苦心惨憺さんたん韜晦とうかいして来たのが何にもならない。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
同じ陰謀に就いて西奉行所へも訴人そにんが出た、今日当番の瀬田、小泉に油断をするなと云ふ手紙である。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
たれか、密告した者でもあったのでしょう……当時、畜類おんあわれみの政令で、犬に限らず、殺生せっしょうを犯した者を訴人そにんするときは、公儀から褒美を下された頃でしたから……
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
同じ伏見の船宿の水六の亭主などは少し怪しい者が泊ればすぐ訴人そにんしたが、登勢はおいごと刺せと叫んだあの声のような美しい声がありきたりの大人おとなの口から出るものかと
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
あやしいと云うので、床板ゆかいたをめくって見るとさまざまの物をかくしてあった。訴人そにんの男の云う通り緋のでくくった袴も、長刀も出て来た。その外に、一つの古い仮面が出て来た。
女強盗 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
私は、このどろぼうの風采にいては、なんにも知らないということになっているのであるから、まさか、私がかれの訴人そにんの一人である、などということは、絶対に有り得ないのである。
春の盗賊 (新字新仮名) / 太宰治(著)
人殺しと云うは惠梅を殺した事を訴人そにんすると心得ましたから、人を殺し又悪事を重ねてもおのれの罪を隠そうと思う浅ましい心からおやまをっては成らぬと山之助を突除つきのけて土間へ駈下かけお
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
……ひともあろうに鍋島閑叟侯をこんどの犯人だと正面きって訴人そにんをし、これを老中列座のなかで披露したそのあとで、まるっきりの間違い、見当ちがいだなんてえことになったら、とても
思はずよくも我が事を訴人そにんせし者成かな然ながら今日只今迄は假令たとへ骨々ほね/″\
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「この者が、訴人そにんがあると申しております」
切支丹転び (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
訴人そにんだ、訴人だ。」
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
したようなもの。しかしこうなってみると、こわいところにまた有難いことがある、あれを藤堂様なり紀州様なりに訴人そにんをすれば、莫大ばくだい御褒美ごほうびにありつける、め占め
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
黒門町の壁辰の娘お妙に恋をして、思いの通らぬところから、甲良屋敷の脇坂山城守に訴人そにんをしたが、人ちがいということになって面目玉を踏み潰したなまちろい若旦那だ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
同じ臆測をするならば、秀吉が振り上げた杖は、むしろ首級の傍らにしたり顔して控えていた訴人そにんの男に振り下ろされたろうと考えたほうが、まだ遥かに秀吉の心事に近い。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
堀は居間に帰つて不安らしい様子をしてゐたが、いそがしげに手紙を書き出した。これは東町奉行に宛てて、当方にも訴人そにんがあつた、当番の瀬田、小泉に油断せられるな、追附おつつけ参上すると書いたのである。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「お前が、不義を訴人そにんしたといふぢやないか」
引拂ひ何方へなりとも立退たちのくべし尤も掘出せし器物は其儘そのまゝかみへ上納すべき旨申渡されける原田兵助は驚ながらも御請おうけ致し是全く六郎右衞門が訴人そにんせしに相違さうゐなしとは思へど今更いまさら詮方せんかたなければ掘出せし金瓶きんぺいは役所へ差出し家財かざい賣拂うりはらひ一人の老母を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
早速訴人そにんと出掛けると、聞えない振りをした金山寺屋、大声にわめいたのだった。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
開けろ。開けねば蹴破るぞ。この荘院内やしきうちに、こよい少華山の賊どもが会合しておると、訴人そにんあって明白なのだ。四りんぐうのがれんとて、遁るる道はない。賊を渡すか、踏み込もうか。いかにいかに
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「逃げたようじゃ、逃げて訴人そにんでもしおると大事じゃ」
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
きびし取圍とりかこみ北の番所へ引出しが頓て中山出雲守殿の御白洲へなさけなくも引出しけりされば出雲守殿一通り調しらべにかけられしに道十郎は思ひもよらぬ事成れば大いに驚怖おどろき何者なにもの訴人そにんせしやしらざれども右樣みぎやうけつして覺え是無これなく候と申に出雲守然らば此傘このかさは其方覺え無きやとの尋ねなれば道十郎是は
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そも何者が訴人そにんをしてかくも捕り手のむれをさしむけたのか?——という疑惑ぎわくとふしぎ感だったが、そんな穿鑿せんさくよりも刻下いまは身をもってこの縦横無尽に張り渡された捕縄ほじょうの網を切り破るのが第一
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
国師こくしッ、この寺内じない信玄しんげんの孫、伊那丸をかくまっているというたしかな訴人そにんがあった。なわをうってさしだせばよし、さもなくば、寺もろとも、きつくして、みな殺しにせよ、という厳命げんめいであるぞ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とたうの訴人そにん 銀百枚
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)