はや)” の例文
按ずるに棭斎は識語を作るに当つてめいを其子に藉りたのであらう。しかし棭斎がはやく懐之に其古泉癖を伝へたことも、亦疑を容れない。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
はや大聾だいろうとなったので四、五十年前に聞いた事のみよく話す。由って俚言土俗に関して他所風のまじらぬ古伝を受くるに最も恰好かっこうの人物だ。
九日ここぬかはいつよりもはや起出おきいでて、草の屋の五八むしろをはらひ、黄菊しら菊二枝三枝小瓶こがめし、五九ふくろをかたぶけて酒飯しゆはんまうけをす。老母云ふ。
よし三男であつたにしろ、将持といふものははやく消えてしまつて、次男の如き実際状態に於て生長したに相違無い。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
頑児の一念、ここに至りて、食のどを下らず、寝しとねに安んぜず、ただ一死のはやからざるを悲しむのみ。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
茫々ぼうぼうたる世間に放れて、はやく骨肉の親むべき無く、いはんや愛情のあたたむるに会はざりし貫一が身は、一鳥も過ぎざる枯野の広きに塊然かいぜんとしてよこたはる石の如きものなるべし。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
今年、馬歯はやくも桑年そうねんなんなんとして初めておくびの出るを覚えたり。『操草紙みさおぞうし』といへる書に曰く
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
同じ文字をあらわした大形の名刺のぷんと薫るのを、く用意をしていたらしい、ひょいとつまんで、はやいこと、お妙の袖摺そですれに出そうとするのを、まずい! と目で留め、教頭は髯で制して
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
我も一部を藏したれば、汝若しはやく我に求めば、我は汝に借しゝならん。我はハツバス・ダアダアがダンテを罵りしを聞きしより、その良き書なるを推し得て、汝に先だちて買ひ來りぬ。
しかれども(一一五)はやうれひけいせらるるにすくふ※あたはず。呉起ごき武矦ぶこうくに形勢けいせいの・とくかざるをもつてす。しかれどもこれおこなふや、(一一六)刻暴こくばう少恩せうおんもつ其躯そのみうしなふ。かなしいかな
はやくより史を編むにこころざしあり、されど書のちようすべきものまれなり。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
然らば忠琢ははやく十五歳きよにして正精に仕へたものと見える。正精の死は文化九年忠琢十六歳の時に於てしたからである。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
故に守宮と号す。伝えいう東方朔、漢の武帝に語り、これを試むるに験あり(『博物志』四)といえるは、はやく守宮の名あるについて、かかる解釈を捏造ねつぞうしたのだ。
をどりあがるここちして、八八小弟せうていはやくより待ちて今にいたりぬる。ちかひたがはで来り給ふことのうれしさよ。いざ入らせ給へといふめれど、只点頭うなづきて物をもいはである。
三タビ稿ヲ改メントスルノ意図ナキニ非ラザリキ。然レドモ当初稿ヲ脱セシ時ヨリ既ニ半歳ヲ過ギ一時蒐集しゅうしゅうシタリシ資料ノ今はやクモ座右ニとどメザルモノマタすくなシトナサズ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
貫一も遂に短き夢を結びて、常よりははやかりけれど、目覚めしままに起出おきいでし朝冷あさびえを、走り行きて推啓おしあけつる湯殿の内に、人は在らじと想ひしまなこおどろかして、かの男女なんによゆあみしゐたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ただし其恋があったとしても、双方ともに遠慮がちで終ったのかも知れないし、且又為基は病弱で、そしてはやく亡くなったことは事実である。とにかく、此の事は別にして其儘遺して置くことにする。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そして安政乙卯の五十二は歿後四年、元治甲子の六十一は歿後十二年となる。按ずるに文政己卯は柏軒はじめて十歳で、藩主の賞詞を蒙つた直前である。是ははやきに失する。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
枕山は年いまだ四十に至らざるにはやくも時人と相容あいいれざるに至ったことを悲しみ、それと共に後進の青年らがみだりに時事を論ずるを聞いてその軽佻けいちょう浮薄なるをののしったのである。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
さて寺の男に水運ばせこけを洗ひつたはがして漫漶まんかんせる墓誌なぞ読みまた写さんとすれば、衰へたる日影のはやくもうすつきてひぐらしきしきる声一際ひときわ耳につき、読難き文字更に読難きに苦しむべし。
礫川徜徉記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
見ずや木造の今戸橋いまどばしはやくも変じて鉄の釣橋となり、江戸川の岸はせめんとにかためられて再び露草つゆくさの花を見ず。桜田御門外さくらだごもんそとまた芝赤羽橋むこう閑地あきちには土木の工事今まさにおこらんとするにあらずや。
一度も遊ばざるにはやくこれを知る身ぞ賢かりける。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)