よう)” の例文
昨夜女猿廻しのおようへ、独楽のなかへ封じ入れて投げて与えた、自分からの隠語の紙片であった。ハ——ッとお八重は溜息を吐いた。
仇討姉妹笠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼は読み書きの好きな和助のために座右の銘ともなるべき格言を選び、心をこめた数よう短冊たんざくを書き、それを紙に包んで初旅のはなむけともした。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
わが記者たりし時世に起りし事件にていまに記憶するは星亨ほしとおる刺客せっかくに害せられし事と清元きよもとようの失せたりし事との二つのみ。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
かれは女中のおようであった。其月は今年四十六で、五年まえに妻をうしなったので、その後は女中と二人暮らしである。
半七捕物帳:36 冬の金魚 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
清元きよもとようは名人太兵衛たへえの娘で、ただに清元節の名人で、夫延寿太夫えんじゅだゆうを引立て、養子延寿太夫を薫陶したばかりでなく、彼女も忘れてならない一人である。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
その可燃物への点火者、日野俊基など、早くも乱兆らんちょうの火の一ようとなって、鎌倉へ送られて行く現状だった。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
乳色をしたグローブかられる朧夜おぼろよの月の光を盛ったような電燈の光、その柔かな光に輪廓のはっきりしたきれいな小さな顔をだした女給のおようは、客の前の白い銚子をって
文妖伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
あんまり若うて、美しゅうて、一つも年を取っとらんもんじゃけ、不老不死の女子おなごかと思うた。そしたら、それは、お京ではのうて、娘のおようじゃった。ようもまあ、似たもんじゃ。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
神職様かんぬしさま小鮒こぶなどじょうに腹がくちい、貝も小蟹こがにも欲しゅう思わんでございましゅから、白い浪の打ちかえす磯端いそばたを、八よう蓮華れんげに気取り、背後うしろ屏風巌びょうぶいわを、舟後光ふなごこうに真似て、円座して……翁様おきなさま
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
後水尾院年中行事四月十六日の条に「きょうより黒戸くろどにて夏花げばなを摘ませらるる云々」とあって、伊勢と内侍所ないしどころへは三ようずつ、他の大社は二ようずつ、諸仏七葉、御先祖七葉などと記されているが
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
葉片ようへんは心臓状卵形でとがり、葉縁ようえん針状歯しんじょうしがあり、花後かごにはその葉質ようしつかたくなる。かく小葉しょうようが一ように九へんあるので、それで中国でこの草を三葉草ようそうというのだが、淫羊藿いんようかくというのがその本名である。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
よう剣輪違けんわちがいの定紋を置いた裃を着ている。遅いようで、妙に速い歩き方である。間もなく、それとなく待っていたらしい平淡路守と一緒になって、ちょっと両方でおじぎしてはははと低く笑った。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
とらと言って清元きよもとようの高弟にあたり、たぐいまれな美音の持ち主で、柳橋やなぎばし辺の芸者衆に歌沢うたざわを教えているという。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
浄悪じょうあくすべてをつつむ八よう蓮華れんげの秘密のみね——高野こうやの奥には、数多あまたの武人が弓矢を捨てていると聞く」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「およう、どうしたのじゃ、お葉」と漁師は驚いてその名を呼びながら、あとからいて往った。
月光の下 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「たしかおようと云いました。」
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
剣持けんもち役の南遠江守をうしろに、八ようの車から降りて入場する大納言尊氏、また、副将軍直義のすがたに、人々は一せいに乱声らんじょう(ときの声に合せて急テンポにがくそうす)
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
知人はそう云って己の机の上から一ようの新聞を持って来た。
雀が森の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「戸沢長屋のおようです」
水色みずいろにすみわたった五こうの空——そこに黒くまう一ようのかげもなく、ただ一せん、ピカッと熒惑星けいわくせいのそばのほしが、あおい弧線こせんをえがいてたつみから源次郎岳げんじろうだけかたへながれた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
口拍子くちびょうしに合せて、小舟を左右に大きくりうごかし、舟はまるで風濤ふうとうもてあそばれる一ようの枯れ葉に似ていた。しかもぐんぐんとそのまに岸から揚子江ようすこうのただ中へと離れて行くのである。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
山名時氏がはなやかによろった五百余騎で行き、尊氏は、八ようの車のすだれを高くかかげて、大納言の衣冠で坐し、車副くるまぞいの勇士十六人にかこまれ、以下、二番、三番、七番と二列縦隊でつづき
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)