落語家はなしか)” の例文
宗十頭巾に十徳じっとく姿、顎鬚あごひげ白い、好々爺こうこうや然とした落語家はなしか仲間のお稽古番、かつらかん治爺さんの姿が、ヒョロヒョロと目の前に見えてきた。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
明治時代の落語家はなしかと一と口に云っても、その真打しんうち株の中で、いわゆる落とし話を得意とする人と、人情話を得意とする人との二種がある。
寄席と芝居と (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
飛鳥山あすかやまの茶店で多勢おおぜい芸者や落語家はなしかを連れた一巻いちまきと落ち合って、向うがからかい半分に無理いした酒に、お前は恐ろしく酔ってしまって
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
落語家はなしかでも、幇間たいこもちでも、田舍藝者でも、不良少年でも、殿樣でも、何れも小説家のやうにもつともらしく、理窟つぽい心理的開展を示して
そこなんだよ守住さん、御勘気に触れて破門された時に、師範状を取上げに行ったのは、談州楼燕枝だんしゅうろうえんし落語家はなしか)だったってね。
市川九女八 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
昼間ひるまくしこしらへ、夜だけ落語家はなしかでやつて見ようと、これから広徳寺前くわうとくじまへの○○茶屋ぢややふのがござりまして、其家そのいへ入口いりぐち行燈あんどんけたのです。
落語の濫觴 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
君江はまるで落語家はなしかか芸人などと遊んだような気がして、俄にきょうが覚め、折角きょう一日夢を見ていたような心持はもう消え失せてしまった。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
森家惚団治ほれだんじのところへ入って、森家惚太郎ということになったんだが、この惚団治がやはり寄席の没落で漫才屋に転向したんで、もとは落語家はなしかでさな。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
「さて早や、」と云う懸声かけごえで大和家の格子戸を開けて入る、三遊派の落語家はなしか円輔えんすけとて、都合に依れば座敷で真を切り、都合に依れば寄席よせで真を打つ好男子。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それともあとになって落語家はなしかのやる講釈師の真似まねから覚えたのか、今では混雑してよく分らない。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
……これはよく落語家はなしかが枕にふる言葉ですが、……無くて七癖、有つて四十八癖、といつて誰にもあるんでせうが、さうなるとわたしには、夜更よふかしをするのが癖の一つでした
(新字旧仮名) / 喜多村緑郎(著)
よりによって生れる十月とつきほど前、落語家はなしかの父が九州巡業に出かけて、一月あまり家をあけていたことがあり、普通に日を繰ってみて、その留守中につくった子ではないかと
アド・バルーン (新字新仮名) / 織田作之助(著)
役者になるまえ大阪でしばらく落語家はなしかをしていたといううわさにうそはなく、全く菱川は多芸だった。そうして「座敷をもつ」といった一切のそうしたことに妙をえていた。
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
両親に死別れてから芸妓げいしゃになったり、落語家はなしかの兄さんとくっ付いて料理屋を始めたり、それから上海に渡って水商売をやったりして、いくらか大きく致しておりますうちに
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
まる落語家はなしかはなしっても無いです。が、綸はまだ着いてましたので、旦那は急いで綸を執る、私は苫をほぐすで、又二度めの戦争が始まりましたが、どうかこうか抄い上げました。
大利根の大物釣 (新字新仮名) / 石井研堂(著)
剽軽ひょうきんな子だよ。いまに落語家はなしかにでもなるんじゃないか。」と母は云っていた。
生い立ちの記 (新字新仮名) / 小山清(著)
俳優やくしゃや、職人や、芸妓げいしゃ落語家はなしかにいたるまでも、水の低きに落ちるように流れて来て、二、三年もそこに居着くと、またしても江戸人種は、性懲しょうこりもなく、江戸前の飲食店だの、団十郎芝居だの
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
有名なる落語家はなしか三遊亭圓朝子の人情話は頗る世態を穿ち、喜怒哀楽能く人をして感動せしむること、恰も其の現況に接する如く非常の快楽を覚ゆるものなれば、予が速記法を以て其の説話を直写し
怪談牡丹灯籠:03 序詞 (新字新仮名) / 若林玵蔵(著)
「はははは、落語家はなしかの一種か。なかなか、あれは面白いものだの」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
かねの橋のそばの富竹という寄席には、横浜生え抜きの落語家はなしか桃太郎と千橘せんきつの招き行燈が、冬靄ふゆもやのなかに華やかな灯の色を見せて揺れていた。
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
「それはよく存じませんが、なんでも太鼓持や落語家はなしかの芸人なぞを取巻きに連れて、吉原そのほかを遊び歩いているように聞いて居りますが……」
殊に落語家はなしかなどを極く可愛がりました人だそうで、丁度四月十一日のこと、山三郎は釣が好きでございますから徳田屋という船宿へ一ぱい言付けて置いて
それだから円輔も大学へ入る処をさらりとして、落語家はなしかとなったような訳だと、思ったんでげすが、いや、世の中へ顔出しも出来なくなった処で、子をおろしたと聞いて
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
たとへば扇朝といふ落語家はなしかの半生の物語の如き、淡々とした敍事の中に、その外面的に變化の多い幾年と共に、無智で氣短で、その癖始終果敢なく遣瀬ながつてゐる心持を
途中で古本屋しょうばいがイヤンなっちゃって、見よう見真似の落語家はなしかになったり、幇間たいこもちになったりしましたが、やっぱり皮切りの商売がよろしいようで、人間迷っちゃ損で御座いますナ。
悪魔祈祷書 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
次に本場の寄席よせへ連れて行ってやると言って、また細い横町へはいって、木原店きはらだなという寄席を上がった。ここでさんという落語家はなしかを聞いた。十時過ぎ通りへ出た与次郎は、また
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
長屋の寄り合いには無くてかなわぬ落語家はなしかの〆団治も、今夜は普通ただの晩やあらへんさかいと、滑稽ちょか口を封じられて、渋い顔をしていたが、けれど、さすがに黙って居るのは辛いと見えて
わが町 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
きくところによると無学文盲もんもうとは、落語家はなしかなどにいわせると馬鹿の代名詞だが、決してそうでないので、ただ、学をまなばず、字に暗しであるので、文盲とは、文字だけに盲目めくらであるというのだ。
落語家はなしかなればこそ、この長い長い時間を、たとえ痛もうが痺れようが、ジッと耐えて座り通していられるのだ。
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
そこで、第一は二十六夜——これは或る落語家はなしかから聞いた話だが、なんでも明治八、九年頃のことだそうだ。
月の夜がたり (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
婆「これからおめえさんの背中の穴の話になるんだが、此のめえ江戸から来たなんとか云った落語家はなしかのように、こけえらで一節ひときり休むんだ、のどが乾いてなんねいから」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ちと落語家はなしかの申します蒟蒻こんにゃく問答のようでありますけれども、その拇指を見せたのであります。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
見れば俺もけたがお前ももうあまり若いといえんな、そうかもう三十七かと、さすが落語家はなしからしい口調で言って、そして秋山さんの方を向いて、せがれの命を助けてくだすったのはあなたでしたかと
アド・バルーン (新字新仮名) / 織田作之助(著)
落語家はなしかで思い出したが、僕の故家いえからもう少し穴八幡のほうへ行くと、右側に松本順という人のやしきがあった。あの人は僕の子供の時分には時の軍医総監ではぶりがきいてなかなかいばったものだった。
僕の昔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「また聞いたあの話、その晩の出来と不出来がお景物とやらで、梅に鶯、竹に虎、幽霊に柳、落語家はなしかに扇子、北風に濁酒どぶろく、こりゃもうみんなつきものでげして」
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
「はい。泊まって居りました。しん吉という江戸の落語家はなしかでございます」「いつ頃から泊まったね」
半七捕物帳:68 二人女房 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
するなッて事よ、何もはにかもうッて年紀としじゃあねえ。落語家はなしか言種いいぐさじゃあねえが、なぜ帰宅かえりが遅いんだッて言われりゃあ、奴が留めますもんですから、なんてッたような度胸があるんじゃあねえか。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
落語家はなしかも家賃を六つもためて、十七年一つ路地に居着いていた。
わが町 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
私が落語家はなしかから聞いた話の中にこんな諷刺的ふうしてきのがあります。
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
岩「落語家はなしかも来て居ります」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
高座では若手の落語家はなしか橘家圓太郎が、この寒さにどんつく布子ぬのこ一枚で、チャチな風呂敷をダラリと帯の代わりに巻きつけ、トボけた顔つきで車輪に御機嫌を伺っていた。
円太郎馬車 (新字新仮名) / 正岡容(著)
好劇の結果、彼は落語家はなしか芝居をはじめ、各劇場で幾たびか公演して人気を取ったこともある。
寄席と芝居と (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
落語家はなしかも家賃を五つためて、十年一つ路地に居着いていた。
わが町 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
言いながら、いま芝居噺でお江戸の人気を一身に集めている若い落語家はなしかの三遊亭圓朝は、かたえの切子のお皿から、葛ざくらのようなものをつまみあげて、不機嫌に口へ運んだ。
円朝花火 (新字新仮名) / 正岡容(著)
彼は落語家はなしかの円生の弟子になって千生せんしょうという芸名を貰っていたのである。
廿九日の牡丹餅 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
〆さんとは河童路地にいる落語家はなしかの〆団治のことだ。
わが町 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
このときこうした田舎の珍しい場面をよく覚えておいたので、のちにそれが本職の落語家はなしかになってから「本膳」や「百川ももかわ」なんて田舎者の出る噺のときにたいへん役に立ちました。
初看板 (新字新仮名) / 正岡容(著)
しん吉というのは落語家はなしかしん生の弟子で、となり町の裏に住んでいる。
半七捕物帳:68 二人女房 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「ちがうちがうそうじゃねえんだ、落語家はなしかの圓朝が洒落に飛び込んで泳いでるんだ」
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
「それは何者です。太鼓持か落語家はなしかですか」