しし)” の例文
力士りきしだといったら誰もほんとうにするだろう。かたいししむらがあから顔の両顎りょうあごにたっぷり張ッていて、大きな鼻の坐りをよくしている。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自ら先に乾坤の刀争裡とうそうりに馳駆するだけあって、その眼は鷲のような鋭光を放ち、固く結んだ口もと、ししおきのりしまった肩から腕の外見
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ししつき豊かなぬくもりもまだありそうな、乳房も見える懐から、まともに五助に向けたあおざめたてのひらに、毒蛇のうろこの輝くような一ちょうの剃刀を挟んでいて
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
御簾みすを動かすばかり起りましたが、その声のまだ終らない中に、印を結び直した横川よかわ僧都そうずが、おもむろししの余ったおとがいを動かして、秘密の呪文じゅもんしますと、たちまちその雲気の中に
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しょうの物を見たら、これはほんとうに驚くのかも知れぬが、写真だけでは、立体感を強いるような線ばかりが印象して、それに、むっちりとしたししおきばかりを考えて描いているような気がして
山越しの阿弥陀像の画因 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
公子は天平時代の直流のようなしし置きのいい豊満な肉体をもった、情操のゆたかな聡明な女で、当代のえせ才女のように些細な知識を鼻にかけて男をへこます軽薄な風もなく、面白ければ笑い
無月物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
大きかりし幸四郎もししやせて声のちからも衰へけるか
閉戸閑詠 (新字旧仮名) / 河上肇(著)
食滯もたるる底に、ししえゆく匂ひ、——
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
彼女のししは跳び込まねばならぬ
山羊の歌 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
瞬間たまゆらの膏油と熱きしし
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
みだれがみししおきたるみ
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
肩のししかひなの筋と
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
くびの根太く、ししむらの固肥りな体つきをしている。頬はゆたかで、色の黒い皮膚の下から少年の如き血色を照らし出している。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかも、きれながの眼には笑いと威がこもって、分厚な胸から腕へ、小山のようなししおきが鍛えのあとを見せている。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
なるほど見たところ、衣服きものを着た時の姿とはちごうてししつきの豊な、ふっくりとしたはだえ
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
みだれがみししおきたるみ
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
精力的な五十歳がらみのししむらをくるむ紫衣しえ金襴きんらんからは、名木めいぼくの香と人間臭とが一つにじって立ちのぼっている。
おとがい細ってせさらぼい、年紀とし六十に余るのが、ししの落窪んだ胸に骨のあらわれたのをいはだけて、細帯ばかり、跣足はだしでしかもまなこが血走り、薪雑木まきざっぽう引掴ひッつかんで、飛出したと思うと突然いきなり
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小づくりで、ししむら白く、朱唇のどこかに愛嬌あいきょうをたたえ、年ばえ二十四、五かと見える、生きのいい若者だった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
黒髪は乱れてえりもつれ頬にかかり、ふッくりした頬もしし落ちて、すそたもともところどころ破れ裂けて、岩にすがり草をみ、荊棘いばらの中をくぐり潜った様子であるが、手を負うた少年のかいなすがって
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)