立場たちば)” の例文
「生活と學術とどつちが尊い。我れを見失つてどこに學術がある」彼れは今までの自己の立場たちばをはつきり辯解すべき術を知らなかつた。
実験室 (旧字旧仮名) / 有島武郎(著)
「君の立場たちばから見れば、僕は君を裏切りした様に当る。しからん友達ともだちだと思ふだらう。左様さう思れても一言いちごんもない。まない事になつた」
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
此燒土このやけつちついて、武内桂舟畫伯たけうちけいしうぐわはくせつがある。陶器通たうきつう立場たちばからしてかんがへてたので、つちやけさうすまでくといふのは、容易よういでない。
一方に山の雪を望み、一方に都の煙を眺むる儂の住居は、即ち都の味と田舎の趣とを両手に握らんとする儂の立場たちばと慾望を示して居るとも云える。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
一方、いそぎにいそいでいった小文治こぶんじは、やがて道のせばまるにつれて、樹木じゅもく蔓草つるくさこま足掻あがきをじゃまされて、しだいに立場たちばがわるくなってきた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つまり他人の立場から見ると前者であり、自分の立場たちばから静観せいかんすると後者であるらしい。自分で自覚しない愚さであるようで、しかもこれが人間の本能に通ずるものだろう。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
彼等かれら漸次しば/\家族かぞくあひだこと夫婦ふうふあらそひに深入ふかいりしてかへつ雙方さうはうからうらまれるやうなそん立場たちばはまつた經驗けいけんがあるので、こはれた茶碗ちやわんをそつとあはせるだけの手數てすうたくみ方法はうはふ機會きくわいとをつてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
青木あおきうちは、荒物屋あらものやで、父親ちちおやはとうになくなって、母親ははおや二人ふたりでさびしくらしているのです。そのうちのことをよくっている、正吉しょうきちや、小田おだには、むしろ、青木あおき立場たちば同情どうじょうされたのであります。
眼鏡 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それからまた彼女かのぢよは、自分自身じぶんじしんのことよりも、子供こども行末ゆくすゑはかつたのだつたといふ犧牲的ぎせいてきな(みづかおもふ)こゝろのために、みづか亡夫ばうふ立場たちばになつて自分じぶん處置しよちゆるした。結極けつきよくをとこ不徳ふとく行爲かうゐめられた。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
お前はお前で、お前の立場たちばを守るのなら、それは俺れはもうどうとも云はないが、俺れの立場もお前は認めてくれていゝだらう
実験室 (旧字旧仮名) / 有島武郎(著)
「僕は今日けふの事がある以上は、世間的のおつと立場たちばからして、もう君と交際する訳には行かない。今日けふ限り絶交するから左様さう思つて呉れ玉へ」
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
世界の目の前にある家の立場たちばから云っても、云うべき事は云わねばならず、弁難べんなん論諍ろんそうも致方はもとよりありますまい。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
しゅ殺気さっき群集ぐんしゅう心理しんりをあっして、四ばん試合じあい、五番試合をいいつのる者も、それをぼうかんしている立場たちばの者も、なんとなくあらッぽい気分にねっしてきた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
代助は今更あにに向つて、自分の立場たちばを説明する勇気もなかつた。かれはつい此間このあひだ迄全くあにと同意見であつたのである。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そういわなければ、一火の立場たちばがあるまいとさっして、かれが他の三人に目まぜをすると、忍剣はなにもいわずに、鉄杖てつじょうをこわきにかかえて、まえの場所ばしょへかけもどった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
俺れはこのきはになつてもお前の心持ちにはどこか狂つた所があるやうに思ふがな、お前は今學術を生活するんだと云つたが、自然科學は實驗の上にのみ基礎を置くのが立場たちばだのに
実験室 (旧字旧仮名) / 有島武郎(著)