けがら)” の例文
上人を始め多くの先達せんだちの話に依れば、此のけがらわしい世の中で、西方浄土の俤を僅かに伝へて居るところは、自分たちの居る山だけだそうである。
二人の稚児 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
此頃父が九州からの帰途で、伊藤侯と同車したとやらで、侯爵が媒酌人ばいしやくにんになられるからと、父が申すのです、まア何と言ふけがらはしいことでせう
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
神聖なるものが汚辱おじょくに返ると、俗界以上にけがらわしくなる。まさにそれが富士教団へやって来ようとしているのであった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この娘が私に対しけがらわしい思いを起したのは実に過ちであるということを悟らすまで懇々と説き勧めてやろうという決心をもって座り込みました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
されどわが淑女はそのけがらはしき罪を責めてこれを逐ひ、肉なき骨のこれに許すかぎりわしらしむ 一二一—一二三
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
長「金がほしいくれえなら、此の金を持ってやアしねえ、うぬのような義理も人情も知らねえ畜生の持った、けがらわしい金はらねえ、けえすから受取っておけ」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それだけで東京全体が、ひどくけがらわしくみだらがましく、酸ッぱいものが咽喉のどの奥にこみ上って来るのだ。
腐った蜉蝣 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
針ほども心に面白き所あらば命さえくれてやる珠運も、何の操なきおのれに未練残すべき、その生白なましらけたる素首そっくびみるけがらわしと身動きあらく後向うしろむきになれば、よゝと泣声して
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
この手で繩にかけてやるのもけがらわしい。早くここから出て失せろ。——この茂兵衛はな、今日が日まで貴様のことを、しや真人間になって帰る日もあろうかと、自分のせがれ
お美津簪 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
唯協同して生活を営む上に互に自分に適した仕事を受持つので、児を産むからけがらわしい、戦争いくさに出るから尊いというような偏頗へんぱな考を男も女も持たぬように致したいと存じます。
産屋物語 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
だから親に孝養を尽すなどいうと彼らの仲間には嫌われる。あわれなけがらわしい友達じゃないか。で私どもは真の友として天父の意思を了解しているや否やを標準とせなければならぬ。
イエスキリストの友誼 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
いきなりこんなものを御覧になつて、けがらはしいとお思ひになりませんでしたの。
秘密の代償 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
アヌンチヤタはたしかに猶太をとめなり。我にチプリイの酒を飮せし少女なり。少女は巣を立ちし「フヨニツクス」鳥の如く、かのけがらはしき猶太廓を出でつるなり。われ。そは信じ難き事なり。
なんじけがらわしき物は何もくらなかれ。汝らがくらうべき獣蓄けものこれなりすなわち牛、羊、山羊やぎ牡鹿おじか羚羊かもしか、小鹿、やまひつじくじかおおじかおおくじか、など。すべ獣蓄けもの中蹄うちひづめの分れ割れて二つの蹄を成せる反蒭獣にれはむけものは汝らこれくらうべし。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
立て奧へ入しがしばらありて出來り兩人にむかひ御口上のおもむき上へうかゞひしに御意ぎよいには町奉行の役宅は非人ひにん科人とがにんの出入致しけがらはしき場所のよし左樣の不淨ふじやうなる屋敷へは予は參る身ならず用事ようじあらば日向守殿に此方へ來られよとの御意ぎよいなれば此段このだん日向守殿へ御達おんたつし下されと言捨いひすてて奧へぞ入たり兩人は手持無沙汰てもちぶさたよんどころなく立歸たちかへり右の次第を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そうしてそのごくけがらわしい関係からして清浄無垢むくの悟りを開かしむるというような所に落し込んであるのです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「そのために県先生を幕府へ訴えよと申すのか。さような不義無道を犯してまで、お家を安泰にしおのれの身を全うせよと云うのか……帰れ、もの申すもけがらわしい。帰れ道之進」
夜明けの辻 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
釈迦が女の右の脇腹わきばらから生れたの、聖霊に感じて基督キリストを生んだの、日をんで秀吉ひでよしを生んだのと申すのは、女はけがらわしい物だと思う考えが頭にあって書かれた男の記録でしょうが
産屋物語 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
つぼみで散つた昔の遺恨うらみを長き紀念かたみの花吉と云ふ、一生の恋知らずが、養母さん、お蔭様で一匹出来上りましたのサ——ヤレ侯爵の殿様だの、大勲位の御前ごぜんだのと、聞くさへもけがらはしい
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
けがらわしやおのれうば! ……たばかられたか残念至極! ……死におろ——ッ」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
身はそんなにけがらわしゅうて居るけれども喰う物と寝る事房事には大変骨を折ります。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)