かえりみ)” の例文
幸か不幸か今に至ってその意義を深くかえりみるべきよき機会が到来したと思えます。日本は手仕事の日本を更にかさねばなりません。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
平生この心を一の秘蔵としていることを、今更の如く元日に当ってかえりみるのである。われわれも木因のこの宝に敬意を表せざるを得ない。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
万葉を崇拝して万葉調の歌を作ったものにも絶えて此歌に及ぶものがなかった。その何故であるかを吾等は一たびかえりみねばならない。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
固有の背水癖で、最初戸籍こせきまでひいて村の者になったが、過る六年の成績をかえりみると、儂自身もあまり良い村民であったと断言は出来ない。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
探偵の事件には往々おう/\かくまでに意外なる事多し此一事は此後余が真実探偵社会の一員と為りてよりもおおいに余をして自らかえりみる所あらしめたり
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
よりて、余いま固陋ころうかえりみず、その了解し難きゆえんの意を摂録せつろくし、あえて先生にただす。もし先生の垂教をかたじけなくせば、あに ただ不佞ふねいの幸のみならんや。
教門論疑問 (新字新仮名) / 柏原孝章(著)
されば小説家たらんとするものはまづおのれが天分の有無ゆうむのみならず、またその身の境遇をも併せかえりみねばならぬなり。
小説作法 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
新九郎の胸さきへ、むらむらと怪しい嫉妬しっとが燃え上がった。何の故の嫉妬か、彼は今、それさえかえりみていられなかった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
外に責むる者は内にかえりみざるべからず。従軍記者たる者自ら心にやましき所なきか。泥棒と呼ばしめ新聞屋と笑はしむる者果してこれが素を為す者なきか。
従軍紀事 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
僕の先にいった全力をつくすなかれというは、要するにかえりみるだけの余地をとっておけというにほかならぬのである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
我と底抜けの生活から意味もなく翻弄ほんろうされて、悲観煩悶なぞと言っている自分のあわれな姿も、かえりみられた。
贋物 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
卓一にふりあてられた役割をかえりみてすら、同じ醜怪なひとつであるのを、思ひ知らずにゐられなかつた。
町の人びとはもうじぶんの生命と財産を気づかってローゼン家の不幸をかえりみるものがなくなった。
警察署長 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
いかめしい表玄関と気の利いた内玄関が並んでいる。訪問者は身分をかえりみて二者一つをえらべという意味だろう。震災以来半バラック式に住んでいる新太郎君は少々度胆を抜かれた。
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
悔いのない自分であろうかとかえりみる時、いねはたださめざめと泣くよりほかなかった。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
ヨブのこの言たるパウロの「我れみずからかえりみるにあやまちあるを覚えず、されどもこれによりて義とせられず、我を審判さばく者は主なり」(コリント前四の四)とその精神を一にするものであって
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
いまさらながら、ぞっとして、わが身の上もかえりみられ、ああ、もう遊びはよそう、と何だかわけのわからぬ涙を流して誓約し、いよいよ寒さのつのる木枯しに吹きまくられて、東海道を急ぎに急ぎ
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
かえりみ
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
近頃のものをかえりみると、質よりも見かけに重きを置き、親切に作るよりも出来るだけ手をぬき、繊弱な醜悪なものとなっています。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
病いがちな老体をかえりみる時、沢庵は生き永らえて再び忠利に相会う日がないのではないか、という危惧きぐとらえられた。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
重吉はかつて覚えたことのない侮辱ぶじょくを感じて決然として女の家を出ようと思いながら、またしずかにその身をかえりみると、勤先をしくじってから早くも一年ぢかく
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
王いまだかつて見ず、いまだかつてきかず、またいまだかつてこれを察せず。王のこれを殺す、またむべなり。ゆえにみずかかえりみて知らずんば、何によりて自ら信ぜん。
教門論疑問 (新字新仮名) / 柏原孝章(著)
あるいは親の命日めいにち、あるいは自分になにか特別の意味のある日、退しりぞいてははたして青年時代の理想に近づきつつありや、あるいは逆戻ぎゃくもどりせぬかと深くかえりみるのである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
と思って、私もかえりみる。常に無理を通しているのだから、たまには譲ってやる。妻は天下晴れてプン/\憤れるから頗る得意だが、此方こっちが相手にならないので気抜けがして、間もなく笑顔に戻る。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
しかして後やや熟練を経、かろうじてこの種の句をものするに至れば独り心にうれしく、ただその言ひおほせたるを喜んでかへつてその句の雅俗優劣を判ずる能はざることあり。常にみずかかえりみるを要す。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
遠隔の地であるため、その存在やその価値を今までかえりみる人が少かったが、当然重要視されていい窯場である。
現在の日本民窯 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
一はく他国の文化を咀嚼そしゃく玩味がんみして自己薬籠中の物となしたるに反して、一はいたずらに新奇を迎うるにのみ急しく全く己れをかえりみいとまなきことである。これそも何が故に然るや。
向嶋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
おのれにかえりみれば霊魂のおのれにひそんでいることが明らかでないかと論じたが、吾人ごじんも少しく心静かにおのれをかえりみると、銘々の内にひそんである力の偉大なることを感ずる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
人民泣かせをただこれのうとしてかえりみるところもないのであった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これが僕の為めには翻然ほんぜんとして自らかえりみる切っかけになった。
四十不惑 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
変らないだけに品物は正直であり、純朴である。純朴なものは間違いが少い。各地で拾い上げたものをかえりみると、ほとんど皆昔とのつながりを有つものだけである。
地方の民芸 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
私達は大いに自らかえりみるところがなければなりません
首席と末席 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
しかしもっとあっさり簡素に作ったらどんなに仕事が活々してくることかと思います。必要以上に手をかけることは、かえって美しさをそこなう所以なのをかえりみるべきだと思います。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
段々機械の力に圧倒されて、正直な仕事が衰えてきた今日、尚更なおさら手仕事のよき面をかえりみるべきだと思います。ですが日本には果してどんな着実な手仕事が残っているのでありましょうか。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
あと半世紀も経って高取をかえりみる人が出たら、そうして彼が美に明るい人であるなら、茶器を棄ててこれらの雑器をこそ取上げるであろう。なぜならそこに最も活々した高取があるからである。
北九州の窯 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)