狡猾かうくわつ)” の例文
日を重ねて北へ進むと、湖岸の土人は次第に狡猾かうくわつ兇暴きようぼうなものが多くなりました。一行の全員には十発づつの弾丸がくばられました。
アフリカのスタンレー (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
小説家は狡猾かうくわつに笑つて何とも答へず、家へ戻つたが、それと彼の昨夜来の経験とを織りまぜ、小説に作りあげて見ようと、決心した。
釜ヶ崎 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
会ふほどの人には誰彼となく、貧乏な百姓の狡猾かうくわつののしり、訴へた。さうして「どうせ貧乏する位の奴は、義理も何も心得ぬ狡猾漢だ」
婆樣ばあさん上方者かみがたものですよ、ツルリンとしたかほ何處どつかに「間拔まぬけ狡猾かうくわつ」とでもつたやうなところがあつて、ペチヤクリ/\老爺ぢいさん氣嫌きげんとつましたね。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
『でせう——それそこが瀬川君です。今日こんにちまで人の目をくらまして来た位の智慧ちゑが有るんですもの、余程狡猾かうくわつの人間で無ければの真似は出来やしません。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
して歐米をうべい海員かいゐん仲間なかまでは、此事このことらぬでもないが、如何いかにせん、この海賊かいぞく團體だんたい狡猾かうくわつなること言語げんごえて、そのきたるやかぜごとく、そのるもかぜごとく。
お銀ちやんは、初めは、狡猾かうくわつな意地惡のふて/″\しい女に見えたが、かうして話して行くうちに、腹の底まで平氣で見せるあけすけのお人好しに見えて來た。
天国の記録 (旧字旧仮名) / 下村千秋(著)
私は、私自身がブロクルハーストの前に狡猾かうくわつ邪惡じああくな子とされてしまつてゐるのがわかつた。そして、この汚名をめいすゝぐ爲めに、私は一體何をすることが出來るのか?
これで先生も使賃つかひちんをやる事をおぼえ、また小僧こぞうさんも行儀ぎやうぎなほつたといふお話で、誠に西洋あちら小僧こぞうさんは狡猾かうくわつ怜悧りこうところがありますが、日本こちら小僧こぞうさんはごく穏当をんたうなもので。
西洋の丁稚 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
殘忍で貪慾どんよくで、狡猾かうくわつで、手のつけやうのない兇賊團でしたが、二、三年前東海道を荒し拔いて江戸に入り、それから引續き諸人の恐怖と迷惑の種子たねになつてゐたのでした。
銭形平次捕物控:239 群盗 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
狡猾かうくわつ恥知はぢしらずで、齒切はぎれがわるくて何一なにひとのない人間にんげんばかりのんで土地とちだ。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
必ず曲知小慧せうけいの俗吏を用ひ巧みに聚斂しうれんして一時の缺乏に給するを、理財に長ぜる良臣となし、手段を以て苛酷に民を虐たげるゆゑ、人民は苦惱に堪へ兼ね、聚斂を逃んと、自然譎詐きつさ狡猾かうくわつに趣き
遺訓 (旧字旧仮名) / 西郷隆盛(著)
狡猾かうくわつ奸佞かんねいなるものの世に珍重せらるべきを知りぬ、「ブロンテ」の小説を読んで人に感応あることを知りぬ、けだし小説に境遇を叙するものあり、品性を写すものあり、心理上の解剖を試むるものあり
人生 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
亜米利加人は煙草をくはへたなり、狡猾かうくわつさうな微笑を浮べました。
アグニの神 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
主人は、干からびた茄子のやうな顏に狡猾かうくわつな薄笑ひを浮べて、周三へさう言つた。お客になつて泊るといふことは、泊り込み料×圓を現金で支拂へ、といふことなのだ。
天国の記録 (旧字旧仮名) / 下村千秋(著)
つまところ大紛爭だいもんちやく引起ひきをこして、其間そのあひだ多少たせう利益りえきめんとくわだてゝる、じつその狡猾かうくわつなること言語げんごぜつするほどだから、いま櫻木大佐さくらぎたいさ公明正大こうめいせいだいこのしま發見はつけんし、なづけて朝日島あさひとう
魔女のやうに狡猾かうくわつ狂人きちがひの女は、その女のポケットから鍵を取り出して寢室を拔け出て、家の中をふら/\と歩き𢌞つて思ひつき放題にどんな恐しい惡戲でもしてたのですからね。
『しかし、驚いたねえ。狡猾かうくわつな人間もあればあるものだ。今日いままで隠蔽かくして居たものさ。其様そんけがらはしいものを君等の学校で教員にして置くなんて——第一怪しからんぢやないか。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
上田の遊廓いうくわくへおきみを賣り込んだ當時の大阪屋からは、さそりのやうな小汚ない狡猾かうくわつさを感じたのであつたが、今は、生きながら人の生血を吸ひつくす毒蛇の貪慾さを感じさせられた。
天国の記録 (旧字旧仮名) / 下村千秋(著)