炉辺ろへん)” の例文
旧字:爐邊
ちょっと聞くといかにも個人的であるが、しからばとて国がたおれても自分の炉辺ろへん差支さしつかえなければ平気でいるかというとそうでない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
農夫はしば/\おくるるゆゑつひにはすてひとりさきの村にいたり、しるべの家に入りて炉辺ろへんあたゝめて酒をくみはじめ蘇生よみがへりたるおもひをなしけり。
詩人蕪村の心が求め、孤独の人生にかわきあこがれて歌ったものは、実にこのスイートホームの家郷であり、「炉辺ろへん団欒だんらん」のイメージだった。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
ある夜山家の炉辺ろへんばなしのうちに、はしなくもこの十兵衛光秀とわしとは、初対面でなかったことが明らかになった。
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかしそれとても昔の歴史をたどってみれば、全く無理な間違え方ともいえないので、この一行が宿へ到着して、一浴を試みてから炉辺ろへんへかたまっての話に
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
埋火うづみびをかき起して炉辺ろへん再びにぎはしく、少婦は我と車夫との為に新飯をかしぎ、老婆は寝衣しんいのまゝに我が傍にありて、一枚の渋団扇しぶうちはに清風をあほりつゝ、我が七年の浮沈を問へり。
三日幻境 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
客答へて曰く、栗樹は人家ちかき所にるのみ、是より深山にらば一樹をもあたはざるべしと、余又くりを食する能はざるをたんじ、炉辺ろへんくりあぶり石田君もともに大に之をくらふ宿は
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
人夫にんぷは自分の疎開して居る、十右衛門の炉辺ろへんで夕飯を食ひ酒を飲んで帰つて行つた。
三年 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
ぜひそうなることを僕は心から祈る者である。僕は、近き将来に於て、卓越たくえつした科学小説家のあらわすところの数多くの勝れた科学小説を楽しく炉辺ろへんに読みふける日の来ることを信じて疑わない。
『地球盗難』の作者の言葉 (新字新仮名) / 海野十三(著)
冬夜の炉辺ろへんに夏の宵のやりに幼少から父祖古老に打ちこまれた反徳川の思念が身に染み、学は和漢に剣は自源じげん擁心流ようしんりゅう拳法けんぽう、わけても甲陽流軍学にそれぞれ秘法をきわめた才胆をもちながら
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
所謂いはゆる炉辺ろへんの幸福」のうそは勿論彼には明らかだつたであらう。アメリカのクリスト、——ホヰツトマンはやはりこの自由を選んだ一人である。我々は彼の詩の中に度たびクリストを感ずるであらう。
西方の人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そうしてどの民家でも、安いこれらの品を気安く用いた。この壺は炉辺ろへんで用いる番茶入である。頑丈な黒ずんだ田舎屋の中で、あの立派なかまどや炉の傍らに、これらの壺が置かれていた昔を想像する。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
明治廿三にじゅうさん年の二月、父と共に信州軽井沢に宿やどる。昨日から降積ふりつむ雪で外へは出られぬ。日の暮れる頃に猟夫かりうどが来て、鹿の肉を買つてれと云ふ。退屈の折柄おりから、彼を炉辺ろへんに呼び入れて、種々いろいろの話をする。
雨夜の怪談 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
農夫はしば/\おくるるゆゑつひにはすてひとりさきの村にいたり、しるべの家に入りて炉辺ろへんあたゝめて酒をくみはじめ蘇生よみがへりたるおもひをなしけり。
しかし西洋の人は戦いに出る時も炉辺ろへんと家庭と for hearth and home を揚言ようげんする。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ともかくも兵馬は、足を洗って庫裡くり炉辺ろへんへ通りました。もう夜分は火があっても悪くはない時分です。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
冬空にこごえる壁、洋燈、寂しい人生。しかしまた何という沁々とした人生だろう。古く、懐かしく、物のにおいのみこんだ家。赤い火の燃える炉辺ろへん。台所に働く妻。父の帰りを待つ子供。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
晩餐をわりてみんく、少焉しばらくありて眼覚めさむれば何ぞはからん、全身あめうるをうて水中におぼれしが如し、しうすでに早くむ、皆わらつて曰く君の熟睡うらやむにへたりと、之より雨益はなはだしく炉辺ろへんながれて河をなし
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
これを見てみな打ゑみつゝ炉辺ろへん座列ゐならびて酒くみかはし、やゝ時うつりてとほはせたる者ども立かへりしに、行方ゆくへなほしれざりけり。
その言うところによると、この間、一人の武者修行の者があって、武州から大菩薩を越え、この裂石の雲峰寺へ一泊を求めた時に、雲衲うんのうが集まっての炉辺ろへんの物語——
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
芭蕉の書体が雄健で闊達かったつであるに反して、蕪村の文字は飄逸ひょういつで寒そうにかじかんでいる。それは「炬燵こたつの詩人」であり、「炉辺ろへんの詩人」であったところの、俳人蕪村の風貌を表象している。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
おそらく、過日の武者修行が、裂石さけいしの雲峰寺で、炉辺ろへんの物語の種としたのは、途中、このお松の蛇の目姿にであって、それに潤色と、誇張とを加えたのかも知れません。
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
雲峰寺の炉辺ろへんで、雲衲うんのうたちに、武者修行がこの物語をすると、雲衲たちも興に乗って、なお、その女の年頃や、着物や、髪かたちなどを、念を押してみたけれども、本来
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その時分、温泉宿の中では、池田良斎と、北原賢次とが、炉辺ろへんかおを見合わせ
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
宇津木兵馬は、北原賢次に案内されて、例の炉辺ろへんまでやって来ました。
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)